【ペロシ氏台湾訪問】噛み合わないアメリカと中国の認識。「三権分立」めぐりすれ違い

バイデン政権は「三権分立」のもと、ペロシ氏の行動を制約できないと説明していたが、中国はこの理屈を受け入れていない

アメリカのナンシー・ペロシ下院議長は8月2日夜、台湾の松山空港(台北市)に着陸した。ペロシ氏の訪台に繰り返し反対姿勢を示してきた中国は、即座に台湾を取り囲むような海域と空域での「重要軍事演習」の実施計画を発表。台湾海峡をめぐる緊張が高まっている。

バイデン政権は「三権分立」のもと、下院議長であるペロシ氏の行動をコントロールできないと説明していたが、中国はこの理屈を受け入れていない。

台湾に降り立ったペロシ氏 (TAIWANESE FOREIGN MINISTRY / HANDOUT)
台湾に降り立ったペロシ氏 (TAIWANESE FOREIGN MINISTRY / HANDOUT)
Anadolu Agency via Getty Images

■台湾を取り囲む形の演習を発表

航空機の位置情報を提供する「フライトレーダー24」を70万人以上が見つめるなか、ペロシ氏は松山空港に降り立った。台湾外交当局はYouTubeでその様子を中継。上下ともにピンク色のスーツという出で立ちで降り立つと、外相に相当する台湾外交部長らに出迎えられた。

ペロシ氏の訪台に対し、中国側は明確に反対姿勢を示してきた。習近平・国家主席は7月28日にアメリカのバイデン大統領と電話会談。台湾問題について「火遊びをするものは身を焦がす。このことを、アメリカがよく理解するよう望む」などと申し入れた。ペロシ氏の一件を念頭に置いているとみられる。

8月1日には中国外交部の趙立堅・報道官が1日「訪台は重大な結果をもたらす。人民解放軍は絶対に座視せず、必ず断固たる措置をとる」などと警告。タカ派の言説で知られる中国メディアの元編集長は「北京は軍事行動を含む対抗策を打ち出している」と威嚇した。

訪問を明言していなかったペロシ氏が実際に台湾に降り立つと、中国側は即座に実弾射撃を伴う「重要軍事演習」の計画を発表した。8月4日から7日まで行われるもので、地図で示された実施空域と海域は台湾を取り囲むような形となっている。日本の与那国島(沖縄県)の北方と南方にあたる地域も含まれる。

また、訪問前の夕方には台湾総統府の公式サイトもサイバー攻撃を受けた。発表によれば、攻撃は平時のおよそ200倍の規模にのぼるもので、およそ20分間にわたりサイトが表示できなくなったという。

バイデン氏は7月20日の時点で、ペロシ氏の訪台について「今は、米軍は良いことだとは考えていない( the military thinks it’s not a good idea right now)」とこぼしている。一方で、「三権分立」の原則のもと、大統領が下院議長のペロシ氏の行動をコントロールすることはできないという事情もあった。

バイデン政権のジョン・カービー戦略広報調整官も訪台前、「議会は独立した機関であり、ペロシ氏が自身で判断することだということを明確にしてきた」と指摘したうえで、「我々の憲法には三権分立が規定されている。これは40年以上の外交関係がある中国もよく知っていることだ」と理解を求めていた。

しかし中国側はこの理屈を跳ね除けた。中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道局長はTwitterで「アメリカ議会は政府の一部(part of the US government)であり、政府の外交方針を遵守するべき」「非公式の行動とは言えない」などと主張した。

中国の王毅外相も声明で「三権分立のため議会を制約できないと説明しているが、アメリカは国際的な義務を履行し、重要な政治人物に悪事を働かせるべきではない」と非難した。

■中国が強硬に反対する理由は

アメリカの下院議長が台湾を訪れるのは25年ぶり。前回は1997年のニュート・ギングリッジ氏だ。ギングリッジ氏は共和党所属で、当時は民主党政権だった。ペロシ氏は与党の民主党所属という点で異なる。

また、ペロシ氏は対中強硬派としても知られ、天安門事件が起きた2年後の1991年に現場となった天安門広場を訪れ、「中国の民主主義のために犠牲となった人たちへ」という横断幕を掲げたこともある。

天安門広場で横断幕を手に持つペロシ氏(1991年)
天安門広場で横断幕を手に持つペロシ氏(1991年)
via Associated Press

中国では政治の季節を迎えていることも事態を緊張させた一因と言えそうだ。

秋には5年に一度の共産党大会が開かれ、習近平氏はこれまでの慣例を破って党トップである総書記ポストの3期目入りを窺っている。

これに先立って8月上旬には河北省の避暑地・北戴河(ほくたいが)で非公式の会議が開かれる見通しだ。党大会に向けて長老たちとの意見調整があるこの時期に、アメリカに弱気な姿勢を見せることはできないとみられる。