NISA、インボイス、贈与、暮らしにかかわる税金どう変わる?変更点を専門家が解説

2023年度の税制改正大綱の中身をお金の専門家、横川楓さんとチェックしました。

政府・与党が2023年1月23日に通常国会を召集する方針を野党側に伝えたと報じられています。政府はすでに2023年度の税制改正大綱を閣議決定しており、国会に関連法案を提出することになります。

経済や社会情勢の変化を考慮し、課税対象や税率など税制について毎年見直しが行われます。今回の改正による暮らしへの影響は?働く私たちが知っておきたい基礎知識を、お金の専門家で「日本金融教育推進協会」代表理事の横川楓さんに聞きました。

【目次】

  1. そもそも「税制改正大綱」とは?
  2. 「NISA制度」はどう変わる?
  3. 「インボイス制度」の負担軽減措置とは?
  4. 「贈与税」「相続税」の見直しとは?

そもそも「税制改正大綱」とは?

財務省によると、税金にまつわる仕組みである税制は、税負担の公平確保の理念に沿いつつ、経済社会の変化に十分対応できなければならないと考えられています。そこで毎年、見直されています。

いろんな業界団体が関連省庁に税についてのお願いを提出し、省庁でそれらを取りまとめます。与党税制調査会が中心となって具体的な改正事項について話し合い、12月に与党税制改正大綱としてまとめます。

その後、政府の閣議決定を経て、改正に必要な法案が翌年1月の通常国会に出されます。可決されると改正法案が成立し、改正法に定められた日から施行されます。

「NISA制度」はどう変わる?

横川楓さん作成
横川楓さん作成

横川さんはまずNISA制度について、「国民に投資を促すために作られた少額投資非課税制度で、通常であれば投資をして出た利益にかかる約20%の税金がかからない仕組みです」と説明します。1000円の利益が出た場合、税金で200円引かれることなく、1000円がそのまま手に入るイメージだといいます。

NISA制度には現在、リスクの低い投資信託のみが対象の「つみたて型」と株式にも投資できる「一般型」の2種類があり、併用はできません。2024年1月からこの2つが併用できるようになります。制度は恒久化されることになり、非課税となる期間は無期限に、上限額は引き上げられます。

現行の制度では、つみたて型は1年間に40万円まで20年間で最大800万円、一般型は1年間に120万円まで5年間で最大600万円が適用枠となっています。改正によって、つみたて型の上限は年120万円、一般型は「成長投資枠」という名前に変えて上限が年240万円に引き上げられます。生涯の限度額は1800万円(成長投資枠はこのうち1200万円以内)となります。

横川さんは「1989年ごろから日本の給料は横ばいです」と述べ、「なかなか給料が増えない中で、NISA制度が恒久化されたことによって、より若い世代がお金を投資することにチャレンジしやすくなります」と歓迎します。

株式に投資できる枠も広がることになりますが、横川さんは投資に臨むポイントとして次の4つを挙げています。

  1. 投資は余剰資金で行う
  2. 預貯金がとても少ないのにとりあえず投資で儲けようはNG
  3. 始めるときは少額からコツコツと
  4. 分散投資を意識する

つみたて型には100円から始められるものもあります。横川さんは「ペットボトル1本、ドリンク一杯を我慢すれば捻出できる金額からでも投資を体験でき、為替や株価が世の中のニュースと連動していると感じられるようになります」と言います。

低リスクとされる投資信託でも価値が下がることはもちろんあります。そこで、横川さんは「いろんな値動きをする商品を買う分散投資をすることで、投資しているすべてで損を出すというリスクを軽減できます」と呼びかけます。

「インボイス制度」の負担軽減措置とは?

2023年10月に導入されるインボイス制度では、消費税が免除されていた売り上げ1000万円以下のフリーランスや小規模事業者も取引先から求められてインボイスを発行する場合は、消費税を納めなければならなくなります。

制度が導入されることによる負担を軽減するため、期間を区切って対策がなされます。

軽減措置について横川さんは次の2点を挙げます。

  1. 導入から3年は納める税金を売上税額の2割でよくする
  2. 導入から6年は1万円未満の取引はインボイスがなくても税金を控除する

インボイス制度の導入について、横川さんは「売り上げが1000万円以下の事業者もこれまで通り免税事業者であり続けることはできます」と説明します。ただ、取引先が消費税を納める時に仕入れにかかった税額を引くためにはインボイスが必要となります。

「インボイスを提出しないと仕事ができませんと言われてしまうなど、小規模事業者に不利になってしまうこともある制度です。インボイスを求められる人もすでに出てきています。課税事業者として登録する事業者の方が多いのではと思います」と話します。

負担が軽減されている間に準備できることはあるのでしょうか。

横川さんは「今まで免税されていたのでどのくらいの消費税を納めるのかわからない人も多いのではないでしょうか。自分の事業に対してどれくらい消費税がかかっているかをまずは把握し、毎年これくらい必要だと知ることが大切です」

「贈与税」「相続税」の見直しとは?

教育や結婚にかかる資金を一括で贈与する時に一定額までは非課税にするという制度は、2023年3月末に終わる予定でしたが、延長されます。

30歳未満の人が祖父母や親などから学費や塾代に使うための教育資金を一括でもらう場合は、1500万円までは特例措置として贈与税がかかりません。この特例の期間が3年延びて2026年3月末までとなります。

結婚式や新居への引越し、妊娠や不妊治療にかかる資金を一括でもらう場合には1000万円まで非課税扱いとなっています。こちらは2年延びて2025年3月末までとなります。

横川さんは「これらの制度は知名度が低くてなかなか活用されてきませんでした」とし、「子供世代への資金の移動を促す制度なので、延長されることで知名度が上がってくるのではないでしょうか」と期待します。「申告書を提出しなければいけないこともあり、期間が延びたことでこれから結婚や子育てを考えている人にとっては調べて検討する時間ができました」

さらに、今回の改正で生前贈与にかかる税の仕組みも見直されます。贈与税の課税方式には2種類あります。「暦年課税」では年間110万円までの贈与は申告いらずで税金がかかりません。贈与する人の死亡前3年間については相続財産と合算されることになっています。相続税を節税するために生前に分割して贈与することを防ぐため、この期間が7年に延ばされます。

もう一つの「相続時精算課税」は贈与額が小さくても申告が必要ですが、こちらも年間110万円までは申告不要となります。

横川さんは「税金を払うにしてもお得な制度があります。自分を豊かにしていくには、お金の知識や制度を活用していくことがすごく大事な時代になっています」と損をしないためにも制度変更にキャッチアップしていく重要性を訴えています。

(この記事は、2022年12月20日に開催されたTwitter Spaces「#お金を話そう」の内容を一部加筆・編集しました)

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