「教員の労働条件は、子どもの教育条件」「調整額の増加は根本解決にならない」と教育学者ら。教員に残業代の支給求める

「財政的な措置が講じられなければ、現場の悲鳴に耳を塞ぐだけになる」(教育学者)

「教員の労働条件は、子どもの教育条件。教員の多忙化の解消は、喫緊の課題だ」(愛知工業大学の中嶋哲彦教授、日本教育政策学会会長)

「子どもの学習や生活そのものをサポートするのが教員。その教員が多忙なままでは、学校がもたない」(東京大学の小玉重夫教授、日本教育学会会長)

「子どもを取り巻く学校の環境は、年々悪化している。教員の自己犠牲の精神による解決には、限界がある」(東京大学の小国喜弘教授、日本教育学会理事)

教員の長時間労働が慢性化する中、教育学者らは5月末、東京都内で記者会見を開き、教員への残業代の支給や、教員の増員などを国に要請すると表明した。

会見の同日、署名を募り始めた。集まった署名は今後、首相や文部科学相、財務相などに宛てて提出する方針だという。

教員に残業代を支給する必要があると訴える愛知工業大学の中嶋哲彦教授(左から3人目、5月30日午後)
教員に残業代を支給する必要があると訴える愛知工業大学の中嶋哲彦教授(左から3人目、5月30日午後)
金春喜 / ハフポスト日本版

教員の給与をめぐっては、1971年に制定された給特法により、残業代は支給されないことになっている。代わりに、教員に対して月給の4%を「教職調整額」として一律に上乗せしている。

残業時間に見合った残業代が支払われない実態は、「定額働かせ放題」などと揶揄されてきた。

文科省が4月に発表した2022年度の調査結果によると、1カ月あたりの時間外勤務が文科省の定める上限基準(45時間)を超える教員は中学校で77.1%、小学校で64.5%を占めた。

こうした現状を踏まえ、教育学者らは教員の長時間労働の解消に向け、▽教員にも残業代を支給する▽学校の業務量に見合った教員や職員を配置する▽残業代支給や教員増員のため、教育予算を増やすーーといった対策を提案。今後、署名とともに国に提言していくという。

「教員の仕事が子どもの現在や将来の生活に直結することは、いうまでもない」

上智大学の澤田稔教授(日本教育方法学会理事)はそう指摘した上で、「財政的な措置が講じられなければ、現場の悲鳴に耳を塞ぐだけになる」と警鐘を鳴らした。

桜美林大学の中村雅子教授(日本教育学会監事)は「国は教員に『あれもやってくれ、これもやってくれ』と仕事を増やしてきた」と指摘。その上で、「教員の労働条件が厳しいために、子どもの人格形成のための教育を期待しても、(実現は)難しくなっている」と危機感を表明した。

自民党は給特法をめぐり、教員の残業代の代わりに月給に一律で上乗せする「教職調整額」を現在の4%から10%以上に引き上げる方針を提言している。

これについて、中嶋教授は「調整額を増やすだけでは、(教員の長時間労働の)根本的な解決にはつながらない」と強調。

「現状では(調整額が)30%でも(残業代としては)足りない」と長時間労働の深刻さを指摘した上で、「『働かせたら働かせた分の残業代を払わなければならない』という仕組みにすることで、『これ以上働かせてはならない』とブレーキがかかる法制度に改革する必要がある」と訴えた。

〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉

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