性行為を“紅茶”に置き換えた、世界的ヒット動画の作者に聞く『性的同意』の話【来日インタビュー】

世界で1億5000万回以上視聴された「Tea Consent(紅茶と同意)」を制作したレイチェル・ブライアンさん。性被害者や子どもたちに向けて、「どんなに悪い出来事が起きたとしても、あなたは悪くない」とのメッセージを伝えたいとインタビューで語りました。
レイチェル・ブライアンさん
Machi Kunizaki
レイチェル・ブライアンさん

性犯罪の規定を見直す改正刑法が、国会で成立しました。

同意のない性行為を処罰するための要件を具体的に示した「不同意性交等罪」が創設されるなど、性暴力をめぐる法律の在り方が大きく変わります。

でも、そもそも「性的同意」って何?という人も多いのではないでしょうか。

性行為を「紅茶」に例えたアニメーション「Tea Consent」は、「性的同意」という概念が難しいと感じている人に向けて制作されました。2015年の公開以降、世界で20以上の言語に翻訳され、再生回数は1億5000万回を超えています。

<紅茶を飲みたくない人に、無理やり飲ませることがいかに馬鹿げたことか分かれば、セックスも同じ。したくない時もあるし、するかどうかを決めるのはその人自身なんだ>

制作者の一人であるアメリカのアニメーター、レイチェル・ブライアンさんは2015年、「学校で男の子に突然、キスされた」という当時小学生だった娘の一言をきっかけに、「同意」について教える新たな動画「Consent for kids」を作成。動画の内容を基にした児童書も生まれました。

日本では、「子どもを守る言葉『同意』って何? YES、NOは自分が決める!」(集英社)とのタイトルで翻訳・出版されています。

「どんなに悪い出来事が起きたとしても、あなたは悪くない。自分を責めたり、恥ずかしいと感じたりする必要はないのだと、性被害に遭った人や子どもたちに伝えたいです」(ブライアンさん)

「性的同意」をテーマにした動画を公開したことで受けた、否定的な反応とは?トラウマを抱えかねない体験を子どもから打ち明けられた時、親としてどんなことを伝えているのでしょうか。

4月に来日したブライアンさんに聞きました。

学校から帰り、娘はテーブルに突っ伏していた

━「Tea Consent」は、日本でも性的同意や性暴力の問題に注目が集まるたびに話題になります。何が制作のきっかけになったのでしょうか

「相手の気を損ねることなく同意を得る方法を伝えられないか」と考えていた時、イギリスのブロガーのエメリン・メイさんのエッセーを読んで、動画にしたいと思ったことがきっかけでした。当時は、世界中でこんなに多くの人に見られるとは想像していませんでした。

動画を制作したのは今から10年ほど前です。性的な行為をするときに相手の同意を得るというのは、アメリカでも当時は一般的ではありませんでした。

Tea Consentは、大学生や軍の隊員、スポーツ選手など、性的同意について学ぶことのなかった様々な組織の大人たちを想定して作っています。

私の力なんて本当に小さなものですが、動画を通じて、性的同意について話すことは恥ずかしいことなんかではないんだ、という意識が生まれつつあるように感じています。

━もう一つの動画「Consent for kids」は、「きみの体はきみのもの」「同意をする、もらうってどういうこと?」といった同意に関わる内容をわかりやすく教えています。当時、小学生の娘さんから「学校で突然キスされた」と相談されたことがきっかけだったそうですが、当時の状況を教えてください

「Tea Consent」が完成したすぐ後の頃でした。当時小学1年生の娘が、学校から帰ってきて、テーブルに突っ伏しているんです。

最初は「学校はどうだった?」と聞いても「よかった」と答えるだけ。さらに質問する中で、娘はクラスの男の子からキスされたこと、恥ずかしくて嫌だったことを打ち明けました。

私が先生に伝えたところ、その男の子に対して注意はしてくれました。でも、なぜいけないのかを説明せず、「ダメなものはダメ」と言って終わらせてしまった。

その出来事は、娘にとってもその男の子にとっても、成長過程において良い学びの機会になるはずなのです。親愛の情を示そうとして、相手に抱きついたりキスしたりすることはなぜだめなのか。

それを子どもたちに考えてもらいたく、「Consent for kids」の動画と本を作ろうと決めました。

「ジャッジしたり、理由を問い詰めたりしない」

━娘さんが、嫌だった体験をブライアンさんに話せたのは良いことですよね。「ここまでなら良い、これ以上は嫌だ」という自分の「バウンダリー(境界線)」を軽視されたり無視されたりした時に、辛い・苦しいという感情を一人で抱え込まないというのは特に大事だと感じます

「キスされた」と娘が話してくれたのは、当時まだ6歳だったからというのは大きいと思います。ティーンエイジャーになった今は、自分の世界があるのできっともう話してくれないでしょう。

ただ、子どもが私に相談や告白をしてくれた時、それが良いとか悪いとかジャッジしたり、「なんでそんなことをしたの」と理由を問い詰めたりするようなことはしない、というのは心掛けています。

子どもがトラウマを抱えかねない経験をして、それを打ち明けてくれた時には、親自身の心配や怒りを子どもには見せない。子どもにとって安心できる存在でいられるように、いつもあなたの味方で、あなたを愛していて、そばにいるよということを伝えています。

━「子どもを守る言葉『同意』って何?」では、バウンダリーを踏みにじられても「あなたは悪くない。悪いのは嫌なことをしてくる方だ」というメッセージが強調されています。性暴力の問題では、「そういう服を着ていたから」「そんな場所にいたから」など、加害者ではなく被害者が責められるということは今もあります

日本だけでなく、アメリカでも性暴力の被害者が非難されることは今も多いです。「純粋である」ことを尊ぶ文化や社会通念は世界各地にありますよね。そうした環境で、被害者が自らを責めてしまう現状があります。

どんなに悪い出来事が起きたとしても、あなたは悪くない。身に起きてしまったことによって、人間としての価値が下がるなんていうことは絶対にありません。

自分を責めたり、恥ずかしいと感じたりする必要はないのだと、被害に遭った人や子どもたちに伝えたいです。

「子ども同士で助け合うことが有効な場合がある」

━本の中では、バウンダリーを侵されている人を見かけた時には、「直接注意する」「困っている人に声をかける」「人を呼ぶ」などの具体的な助け方も例示されています

親だからかえって話しづらい、ということはたくさんあると思います。親に心配をかけたくないとか、ジャッジされたくないという気持ちもあるでしょう。この本の中で、仲間を助ける方法を紹介したのは、子ども同士で助け合った方が有効な場合があると思ったからです。

被害に遭った時、友達になら言えるかもしれない。自分と同じ立場で、自分をジャッジすることなくフラットに話を聞いてもらえる存在として、子どもが他の子に助けられたり、助けたりできることもあると考えています。

━「性的同意」の話になると、「性行為のたびに契約書にサインしなくてはいけないのか」という声が上がり、同意を取ること自体に消極的な意見も目立ちます

「Tea Consent」の動画を公開した時にも、同じようにネガティブな反応がありました。アニメでは登場人物の性別には全く言及していないのですが、男性からのフィードバックの中には、なぜか「男性は必ず女性に同意を取らなければいけないのか」と性別を固定化した上での反発がありました。

同意はその瞬間のことです。例え契約書のようなものにサインしても、次の瞬間に相手から「嫌だ」「やめたい」と言われたら続けてはいけません。その都度、相手の意図を確かめるのが大事だということを知ってほしいです。

━日本でも改正刑法で「不同意性交等罪」が創設されるなど、性暴力の実態に見合った法律となるよう性犯罪規定が大きく見直されました

性暴力の問題は、社会に通底する価値観や文化と密接に関わっています。法律の枠組みが変わることは、その点で非常に意味があることです。

刑法改正によって、「同意のない性行為は性暴力だ」という規範が社会全体に浸透することを願っています。

━アニメーターとして、今後の創作活動で検討していることはありますか

オンライン上のいじめや性的グルーミング行為をテーマにした動画を作りたいと考えています。インターネット上であっても人に優しくすること、自分に対するネガティブなコメントがあった時にどう受け止めたら良いのかなどを、動画や本で伝えたいです。

<取材・執筆=國崎万智@machiruda0702