DX実現の鍵、結局は「人」。富士通の全社変革に携わったデザイナーが考える、自分の「パーパス」を確認すること。

【イベント開催】タムラカイさんによるワークショップを7月21日(金)18時半から開催します。参加無料。

激変する環境に対応するため、多くの企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が経営課題となっている。2019年から本格的な変革を打ち出した富士通。その変革チームには、要としてデザイナー集団を置いたことで知られる。そのメンバーの一人がタムラカイさんだ。

デザイナーのタムラさんは、個人の活動として始めた「ラクガキコーチ」として活躍、大ブームを巻き起こした「グラフィックレコーディング」を普及させた日本の第一人者的存在でもある。その経験を会社に「逆輸入」、DXデザイナーとして同社の改革を率いるチームのメンバーとなった。

「ラクガキ」とDXがいったいどう繋がっていったのか。その橋渡しになるのは、まだ言葉になっていない誰かの気持ちを浮かび上がらせ、対話を通じて「世界の創造性のレベルを1つあげる」というタムラさん自身のパーパスだという。タムラさんに聞いた。

※ハフポスト日本版では日建設計とのコラボでタムラカイさんによるワークショップを企画しています。7月21日(金)午後6時半より。詳細は記事の末尾で。

タムラカイさんとラクガキ
タムラカイさんとラクガキ
HuffPost Japan / タムラカイ

タムラさんが社外でも活動をするようになったのは、30歳前後の頃。新卒で入社した富士通では、ウェブなどのデザイナーとしてガムシャラに働き、難しい仕事も任されるようになっていた。しかし、「自分にしかできない仕事とは」と考えるようになった。

最初は「絵を描く楽しみを伝えたい」と、「ラクガキコーチ」としてセミナー活動を始めた。開催を重ねるごとに、絵を描くだけでなく、参加者がこれまでの生き方を振り返ったり、自分が大切にしたいことをお互いに聞き合ったりするワークショップ形式へと進化していった。「絵をコミュニケーションの手段とする瞬間の楽しさを知ってほしかった」という。

社外活動をきっかけに、新たな仕事もするようになった。当時、海外で流行し始めていた、グラフィックレコーディングだ。

大型のビジネスカンファレンスで、グラレコを描いてくれないか、と頼まれた。そこで、一人では難しいからと、社内で同じように描く活動をしていた仲間たちに声をかけ、グループとして活動するようになった。他にも多くの声がかかり始め、「グラフィックカタリスト・ビオトープ」を名乗ってグループで社外の活動をするようにもなっていった。

2018年7月31日に行われたメディアアーティストの落合陽一さん・小泉進次郎衆院議員による共同企画「平成最後の夏期講習」でも「グラフィックカタリスト・ビオトープ」がグラフィックレコーディングを手がけた
2018年7月31日に行われたメディアアーティストの落合陽一さん・小泉進次郎衆院議員による共同企画「平成最後の夏期講習」でも「グラフィックカタリスト・ビオトープ」がグラフィックレコーディングを手がけた
平成最後の夏期講習

そのグループ内では、「ラクガキ」ワークショップの経験も生かして、一人一人が大切にすることを聞き合い、伝え合う時間も設けていった。

しばらくすると「なぜかメンバーたちの本業での実績が良くなった」と、社内で評判になり始める。

「タムラのやっていることはよくわからないが、一緒に行動しているメンバーが輝き始めたんだよね、と言われて(笑)。大企業の若手社員にとっては、自分だけの裁量で仕事を受け、交渉して、フィードバックを得るという体験がすごく貴重だったのではないかと思っています」

全社DXで取り入れられた「パーパスカービング」。その原型はこの頃にタムラさんらが作り上げたものだ。事業部内での人材育成として、自分のミッションについて語るワークショップを、ビオトープに加わっていた人事部出身の仲間とも一緒に実践していった。

その頃、全社DXプロジェクトが設立されると聞いた。「どうせまた掛け声だけなんだろう。誰か偉い人が勝手にやっているんだろう。正直言って、当時は社内にそんな空気漂っていました。どうせうまくいかないと文句を言うくらいなら、自分たちでできることをやってみようと、改革プロジェクトのメンバーに立候補をしました」。

タムラカイさん
タムラカイさん
Maya Nakata / HuffPost Japan

その後、メンバー入りしたタムラさんらの提案で「パーパスカービング」は、DXの施策として社内のど真ん中で実践されることになった。最初は皆に見守られながら5人のマネージャーが実施。そこから、仲間との対話で自分自身のパーパスを言語化していく取り組みを、およそ2年間で社員7万人に対して、実践した。

なぜDXにパーパスが関係するのだろうか。元々がIT企業の富士通にはデジタル化は容易い。しかし、「トランスフォーメーション(変革)」の方をどうするか。そこには会社のカルチャー変化が必要だ。その理由をタムラさんはこう表現する。

「デジタルを使って、根本的にビジネスが変わっていく、抜本的に考え方を変える。それが難しいから多くの企業が苦しんでいます。特に、大きい企業で、社員は『今までできていたから、明日もうまくいく』と考えがち。誰かに指示されてやるだけでなく、『もっとうまくいく』を自ら作り出すため、組織の柔軟性を手に入れることが、変革につながるのだと思います」

2020年に発表された富士通「DX説明会」資料より。「人を活かし合う制度・環境」へのカルチャー変革が全社DXで欠かせないと表明された。
2020年に発表された富士通「DX説明会」資料より。「人を活かし合う制度・環境」へのカルチャー変革が全社DXで欠かせないと表明された。

そこで、共に働く仲間が自分の大切にしているものを「彫り出す」ためのパーパスカービングが必要となった。大切なのは、パーパス作りそのものではなく、その過程で思いを伝え合うこと、掘り出した言葉を原動力に、仕事を進めていくことだとタムラさんは話す。

現在は、そうして作り上げた「マイパーパス」が名刺の裏に印刷できるようになったり、社内のコミュニケーションツールで常に表示させたりしている社員もいるという。さらに個人のパーパスは人事制度にも取り入れられ、上司との面談で成長ビジョンを考える上でも使用されているという。

その結果、体感として、明らかに数年前とは雰囲気が変わり、何か新しいことを提案しようというポジティブな空気が社内に漂っている。タムラさん自身、そう感じているという。

「変革とは、先が見えない道を歩くこと。決まっていないことに対して人は不安になりますよね。その不安な時こそ、『自分はこれをする』と判断する軸になる個人のパーパスがとても重要で、個人が動き始める原動力になる。最近、特にそういう風に思うようになりました。何より、本当は個人がとてもいいものを持っている。それがちゃんと繋がれば、世界はもっと良くできるって思ってるんですよ。パーパスを作ることそのものではなくて、それを共通言語にして語り合うことで、より良いものを生み出していくということです」

富士通ではDXの取り組みの一環として使われた「パーパスカービング」。しかし、その有効性はもちろん会社と社員という関係だけに留まらない。個人が自分のパーパスを明確にしておくことは、生きる指針としても役に立つのではないか。タムラさんはそう考えている。

「今の世の中、あまりいい状況じゃないですよね。でも、誰か一人ヒーローが現れて世界が平和になりました、ということはない。一人一人に専門分野があって、立場や価値観があって、自分が大事だと思っているものがある。それが繋がって、今まで見たこともないものが生まれたり、サービスが生まれたりする。ラクガキも、描けるようになったら今までの自分よりちょっと楽しいし、絵を描くことで言葉になっていない自分の気持ちに気づけたら、ちょっと前に進める。そういう小さいものの積み重ねで、世の中って良くなると僕は信じているんです。パーパスを考えるというのは、あなたに責任を押し付けることでは決してない。お互いに話して『なんか自分もそう思うんだよね』とか、『そんな視点もあるんだね』と思い合うことが、人の新たな可能性に繋がっていく。そういうものだと思います」

数多くの社会課題と実践を発信してきたハフポストと、都市課題を共に解く「関係づくり」をしていきたい日建設計イノベーションデザインセンターがコラボして「未来を作る×ピントとミカタ」ワークショップシリーズを始めました。

「未来を作る×ピントとミカタ」第2回は7月21日(金)、富士通株式会社、コミュニケーションデザイナーでラクガキコーチのタムラカイさんによるワークショップを開催。DXの要となった「パーパスカービング」の実践方法を聞くトークセッションや、「ラクガキ」をしながら、自分のパーパスを探るセッションを予定しています。

申し込みはこちらから。

日時:7月21日(金)18:30〜(希望者には、イベント前に日建設計の共創スペース「PYNT(ピント)」の簡単なご案内ツアーを17:30〜開催します)

日建設計東京オフィス(本店)3F PYNT
〒102-8117 東京都千代田区飯田橋2-18-3
参加費無料。応募者多数の場合抽選となります。

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