東京大学と障害者の当事者団体である認定NPO法人「DPI日本会議」は9月12日までに、障害のある人が一般的な教育制度から排除されない「インクルーシブ教育」の確立に向けた連携を約束する協定を結んだ。小中学校の教員に向けた研修カリキュラムの開発や、政策提言などで協力していくという。
協定は2022年9月に国連が日本政府に対して出した、特別支援教育に関する勧告を踏まえたもの。国連は、障害児を通常の教育から「分離」しているとして、現状の特別支援教育をやめるように強く要請した。
一方で、国連の要請を受けた文部科学省は「特別支援教育を中止することは考えていない」と慎重な考えを示している。
こうした中で結ばれた協定は、「国連がめざすインクルーシブ教育を広げる大きなうねりをつくる」との目的を掲げる。東大が障害者団体、DPI日本会議が学術機関と連携協定を結ぶのは、それぞれ今回が初めてだという。
東京大学大学院教育学研究科の勝野正章研究科長は、協定の調印にあわせて開いた8月末の記者会見で「(連携により)全ての人の尊厳と人権が当たり前に尊重されるインクルーシブな社会を実現する」と強調。「大学や学術研究に閉じた形ではなく、当事者とともに開かれた議論をしながら、取り組みを進めていきたい」と話した。
DPI日本会議の尾上浩二副議長は「国連の勧告は『日本は登っている山が間違ってるから、こちらの山をちゃんと登りなさい』と示したものだ」と指摘。その上で、「(連携により)インクルーシブ教育に関する教育制度や、教員の養成・研修のプログラムなどを提案したり実施したりすることで、国連の勧告の実現に役立てていきたい」と力を込めた。
「インクルーシブ教育」とは?
障害者権利条約は、障害のある人が一般的な教育制度から排除されない「インクルーシブ教育システム」を確立するよう締約国に求めている。日本は同条約を2014年に締結した。
国内では、条約の締結前から学校教育法に基づき、障害児が学ぶための場として特別支援学校や、小中学校内に通常の学級とは別で特別支援学級が設けられている。
こうした仕組みの下では、障害児が小中高校や通常の学級で学ぶ機会を得にくいことから、これまで国内からも「(健常者と障害者を分けて教育する)分離教育的色彩が強い」と指摘されることがあった。
近年は、障害児が小中学校に入学を希望しても叶わない例や、定員割れしている高校でも不合格とされて複数年にかけ「浪人」する例が明らかになっている。障害児の就学先の決定を巡っては、文科省が定める特別支援教育についてのガイドラインに「(児童生徒)本人や保護者などとの合意形成を進めた上で、最終的には市区町村教委が決定する」と明記されている。
国連は2022年9月、日本で障害児に対する「事実上の(小中高校や通常の学級への)入学拒否」が起きていることに懸念を示し、「長く続く特別支援教育により、障害児は分離され、通常の教育を受けにくくなっている」と指摘。
その上で、障害児を「分離」している現状の特別支援教育をやめるよう、日本政府に強く要請した。
ただ、日本政府は、国連が「分離教育」の場と捉えている特別支援学校や特別支援学級も障害者権利条約が定める「一般的な教育制度」に含まれると解釈している。
国連の審査にあたって、「障害児は通常の学校(小中高校)に行くか、特別支援学校に行くか選ぶことができる」とも説明していた。
永岡桂子文科相は2022年9月の記者会見で、国連の勧告に言及。「文科省はこれまでも、障害のある子どもと障害のない子どもが可能な限りともに過ごせるように、財政支援などに取り組んできた」とした上で、「勧告の趣旨を踏まえ、引き続きインクルーシブ教育システムの推進に取り組みたい」と述べた。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉