MEGUMIさんが感じてきた焦りと、男性社会の不自然さ。「女性の痛みに寄り添いたい」と決意するまで【インタビュー】

「私は今40代で、女性の役者は年を重ねると役が減ると実感してきました」。MEGUMIさんは芸能の世界、そして社会全体に対して、ある問題意識を抱いてきたという。
MEGUMIさん
MEGUMIさん
Ayako Masunaga

俳優・タレントとして20年以上のキャリアを持つMEGUMIさんが、今プロデューサーとしても注目を集めている。作品では「女性の痛みや想いに寄り添いたい」と考え、日々映画やドラマの企画を練っている。

こう決意した背景には、MEGUMIさん自身が芸能の世界、あるいは社会全体に対して、問題意識を抱いてきたからだという。

なぜ日本の女性の自己肯定感が低いのか。

女性の俳優が年を重ねると出演機会が減るのは、どうしてなのか。

インタビューで「女性が不安を抱えて生きていかざるを得ない状況を断ち切りたい」と話したMEGUMIさんが望む、社会のあり方とは。

「男性社会で、女性が意見するだけで…」

「私は芸能界を女性として渡り歩いてきたと同時に母でもあり、未だに社会では女性へのケア不足を感じています。自分が作る作品では、今までの経験値を生かして、女性に矢印を向け、その痛みや想いに寄り添いたいと思っています」

これは、MEGUMIさんが映像会社のBABEL LABELにプロデューサーとして所属することを発表した際のコメントだ。はっきりと表明した裏側には、どんな思いがあったのだろうか。

あるニュース番組に出演した時、日本の女性の自己肯定感が低いと知り衝撃を受けました。『自分なんか』と思っている女性がとても多いのはすごく悲しい。自分もそういう気持ちになることがあり、仕事でも母親としても、大変だな、しんどいなと思うことは相当ありました。

それで、私はせっかく表に出る仕事をして、この数年はプロデュースもやっているんだから、ここは割り切って女性に矢印を向け、女性がよし頑張ろうと思える活動をしたいと考えるようになりました」

Ayako Masunaga

日本の女性は自己肯定感が低いーーというのは、内閣府の調査などでも明らかになっている。その背景を、MEGUMIさん自身はこう考えている。

「やっぱり『女の人は男の人を立てるもの』と刷り込まれていますよね。この考え方は日本独自だと思うんですけど、今でも強固なもの。男性社会で、女性が意見するだけで『あいつ強いな』『空気読めない』と言われたり、何かとカテゴライズされて、そこに入らないと異端扱いされたりするムードはまだまだ拭いされていないと思います

少し前まで、『お嫁さんになるのが女の子の夢』で、結婚したら家庭に入って家を守るものと教えられてきた。でも、私も子どもを生んでわかったのですが、子どもはいつか離れていきます。そこで自分の人生がまた始まるけれど、一度『家に入って』しまったら、なんとなく社会との繋がりが薄くなる。それで漠然とした不安に襲われる女性もいるのではないでしょうか

「ママ」の目線ばかり向けられ、衝撃を受けた

MEGUMIさん自身、2001年のグラビアアイドルデビュー後、20代半ばまでは無我夢中で走り続けたが、妊娠・出産がきっかけで一度立ち止まることになったという。

「27歳の時に長男を出産して、産後はほとんど休みを取らずに仕事を詰め込んでいました。今振り返ると、もう少し休めば良かったのかも…とも思うんですが、当時はものすごい焦りを感じていたんです」

出産や育児などを理由に一度キャリアが中断すると、再び元の仕事に戻る難しさも感じてきた。

「子どもって急に熱出ちゃったり保育園に呼び出されたり、予測不能なことが毎日起きる。それで、フルタイムの人のほうが安心だよねと仕事を振られなくなったり、親としての時間軸でも成立する部署に異動させられたり。本当だったら社会や企業のサポートが充実すべきだけど、それが足りてない環境でどうにかやらなきゃと思うと、キャリアとしては焦りを感じますよね

Ayako Masunaga

産後に気づいた壁は、もう一つあった。それは「ママタレント」を求められることが多かったことだ。俳優業に力を入れていきたいと考えていたMEGUMIさんにとって、思いがけないことだった。子どもを産んだ女性は「ママタレント」以外で活躍できる道はないのだろうかーー。そんな疑問を抱くようになった。

子どもを産んだら、いきなり『ママ』の目線ばかり向けられるようになって、それが本当に頭を殴られるぐらいの衝撃でした。

『冷蔵庫見せてほしい』とか『夫の悪口言ってほしい』とか全部お断りしていました。オファーはありがたいことですが、自分の思いと違うことをやるのは苦しい。子育ては最高で、子どもはかわいいんだけど、これから私どうなっちゃうんだろうと不安しかありませんでした」

ママタレントの仕事を断ることで、収入が減った時期もあったという。それでも、今後の自分のキャリアを熟考した時、やはり残ったのは「役者をやりたい」という気持ちだった。

そこから、毎日映画を見て感想をノートに書き溜め、アクティングコーチもつけた。MEGUMIさんは、焦りも感じていたが「学びの時間に費やしたことで、自分が進みたい方向が明確になった」と当時を振り返る。

Ayako Masunaga

なぜ「女性の群像劇」は少ないのか

その頃から芽生えていたのは「年齢を重ねてもワクワクできる仕事をやりたい」という思い。それは今も同じだ。

一方、20年以上の活動で、芸能の世界にも女性のキャリアをめぐって障壁となるものがあるとも感じてきた。特に今危機感を持つのは「女性の俳優は年を重ねると出演機会が減る」という現状だ。

日本は男性主演の作品が多いです。たとえば男性の群像劇はたくさんあるのに、女性の群像劇はなかなか作られません。

私は今40代で、女性の役者は年を重ねると役が減ると実感してきました。若い主演の方のお母さん役とか、ちょっとした役ばかりになってしまうんです。実際先輩の女性の役者さんでも、あんなに素敵な方なのに最近ドラマや映画で見なくなってしまったな、ということも。舞台中心になる方が多いんです」

Netflixなどの配信サービスで世界中の作品が1カ所に並ぶようになったことで、「欧米や韓国は年配の女性が主人公で、恋愛をしたり社会的に闘ったりするような作品も充実しているのに、なぜ日本は女性が主人公の作品が少ないのか」という疑問は強まっていったという。

MEGUMIさんはプロデューサーとしてそんな状況を変えていきたいと意気込み、同時に、変化の兆しも感じている。

Ayako Masunaga

この2〜3年くらいで社会が変わってきて、ようやく女性にフィーチャーする作品や、自分で切り開いていく女性の主人公が増えてきました

作り手も、私がデビューした20年前は本当に男性ばかりで、女性は演者ぐらいだった。でも今はプロデューサーや技術さんでも女性が増えています。やっぱり、男性ばかりって不自然ですよね。どっちもいていいのに。正直、時代の変化についていけていない人も多いので、時間はまだまだかかるかもしれませんが、これからだと思います

10月からはテレビ東京でプロデューサーを務める『くすぶり女とすん止め女』の放送が始まるなど、今も複数の企画が進んでおり、どれも女性の物語だ。ジャンルや時代設定などは様々だが、いずれは自身のグラビアアイドル時代をもとにした作品も作りたいと考えている。

「グラビアの世界は今振り返るとすごく強烈でした。水着で箱から飛び出したり、バンジージャンプを飛んだりしたかと思えば、大ブレイクしてえらい人と対談したり。

たった2〜3年で、渦のようにいろんなことが起きて、その中で調子を崩してしまう人もいれば、テレビでどんどん輝いていく人もいた。でも、みんな水着1枚なんですよね。時代の真ん中にいて、満たされているようで、どこか満たされていない。あの時感じていたことを映像にして残しておけないかなと思っています

Ayako Masunaga

「失敗しても大丈夫だよ」と道を示したい

MEGUMIさんが自身の活動や作品で成し遂げたいことの一つは、「失敗しても大丈夫だよ、こういう生き方もあるんだよ、と道を示す」ことだという。

自分より若い世代と仕事をすることが増え、「周囲の人、特に若い人のために何かできれば」という気持ちは日に日に大きくなっている。

「日本で『何か新しく始めようと思うんだよね』と言っても、素直に応援してくれる⼈って少ない。今は、傷つきたくないから新しいことに挑戦できない、失敗したら終わりという風潮も強いですし、女性はより、『いい年なのに』とか『お母さんなのに。子どもは大丈夫なの?』とか、挑戦=悪のように周りから言われてしまうこともあると思います。

年を重ねると選択肢が狭まって、ちょっとずつ不安を抱えたり諦めたりせざるを得ない現実を、たくさん経験したし、見てきました。だけど、若い世代のためにも、それはもう断ち切りたい。もっと年を重ねても輝けて、いろんな境遇にある人が活躍できる社会であってほしいし、私もそこに少しでも貢献していけたらと思います

「時代が変わるんだろうな、これからは待っていてはいけない」

2020年、コロナ禍に入ってすぐにそう直感したというMEGUMIさん。これがプロデューサーになったきっかけだった。

役者にタレント、プロデューサー、経営者…いくつもの「肩書き」を持つが、さまざまな立場を経験することで仕事への向き合い方が変わり、「考え方や感性も柔軟になれる」と実感してきたという。

インタビュー後編では、MEGUMIさんのキャリア、そして、芸能界の「外」の世界との繋がりも大事にしてきた理由を聞いた。

(取材・文=若田悠希 撮影=増永彩子)

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