「あなたは霧の中のパイロット」。仕事と社会課題をつなぐ新規事業を作るための「勇気が出る」考え方とは

森永製菓発のベンチャー企業「SEE THE SUN」代表の金丸美樹さんが「未来を作る×ピントとミカタ」連続ワークショップ第3回に登壇。前例のない新規事業において「泣きながらたくさん苦労した」と語る金丸さんが、ビジネスパーソンに伝えたいこととは?

「社会貢献になる仕事をしたい。でもどうやって?」

多様性やサステナビリティ、そしてウェルビーイングへの取り組みが企業の評価基準になりつつある昨今。社会の風向きに応じて、新規事業に取り組む企業も多いのではないだろうか。

「新規事業の立ち上げって、前例がないことをやるわけですから、正解は誰にも分らない。そのため、上司も明確な助言や指示が出せないことも多い。とても孤独なことなんです」

そう語るのは、森永製菓発のベンチャー企業「SEE THE SUN」代表の金丸美樹さん。

ハフポスト日本版は9月29日、10周年企画「未来を作る」のイベントとして、日建設計イノベーションデザインセンターとコラボし、「未来を作る×ピントとミカタ」連続ワークショップ第3回を実施した。

ハフポスト日本版

そのフットワークの軽さと積極性で数々の新境地を切り開き、取引先からは「ブルドーザー」と呼ばれることもあるという金丸さんに話を聞き、参加者と共にカードゲームやワークショップで新規事業と社会をつなぐアイデアを出し合った。

明確な期待値も指示もない。自由と孤独の中で見つけた戦略

森永製菓発のベンチャー企業「SEE THE SUN」代表の金丸美樹さん
森永製菓発のベンチャー企業「SEE THE SUN」代表の金丸美樹さん
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

イベント前半のトークセッションでは、金丸さんが自身のキャリアを振り返りつつ、新規事業立ち上げのリアルについて語った。

金丸さんは、新規事業において、まず大切なことは「とにかく主体的に動くこと」だという。金丸さんが初めて新規事業を担当したのは森永製菓に入って12年目の2010年。インバウンド需要を受けた突然の異動で、右も左もわからないまま新境地に立つことになった。

「『何やるの?かわいそうに』という声も聞こえてきました。前例がないことをやるわけですから、正解は誰にも分らない世界。だからこそ、上司も『まずは動いてみて』という感じ。明確な期待も指示もないのがこんなにも辛いのかと、孤独を感じました。しかし、それは裏を返せば『自由』でもあります。上司からの道しるべがないことに動揺するより、まずは動いてみようと思いました。アクションし、お客さまの反応を得ているうちに主体性が芽生えていきました」

新規事業、自分が感じている社会課題を起点にすればモチベーションが保てる!

2017年には、森永製菓発のベンチャー企業「SEE THE SUN」を立ち上げた。

金丸さん自身も「テーマがなかったら右往左往していた」と語るように、社会と仕事を繋ぐことで、金丸さんのキャリアは一層の深みと情熱を帯びていったという。

「森永製菓の従業員としての自分から一歩外に出た行動をしてきたことで、少し視野が広まって、その中で『これおかしいよね』『これもったいない』という社会課題が見えてくるようになったんです。会社からも『新しいところ開拓して』と言ってもらえていたので『会社からは新規事業を求められているんだし、自分の持つ社会への課題感を事業に活かせればいいのでは?』と思ったんです」と語り、「自分起点があると、様々な壁があってもモチベーションを落とさずに進めることができます。とある得意先からは『ブルドーザー』なんて呼ばれたりもしています(笑)」と場を和ませた。

ファシリテーターを務めたハフポスト日本版編集長の泉谷由梨子
ファシリテーターを務めたハフポスト日本版編集長の泉谷由梨子
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

「テーブルを創るすべての人を幸せに」がテーマの「SEE THE SUN」では、持続可能な食の未来を作るために、会社の垣根を越えライバル社同士で共創するコミュニティ「Food Up Island」の運営や、新規事業の伴走、開発者と消費者をつなぐ事業などに取り組んでいる。

ファシリテーターを務めたハフポスト日本版編集長の泉谷由梨子が「事前質問では『どうやってライバル社と繋がったんですか?』という声も寄せられています」と問いかけると、金丸さんは「同業他社の方とお話をしていると、みんな課題が似ていたんです。『だったら一緒に解決したほうがパワーがあるよね』と自然発生的にコミュニティができました。ライバル社にも、自分と同じく『人口も減っている中でライバル同士削りあってたら疲れるだけなのに、競争ばかりするのはおかしくない?』という気持ちの人はいると思います。声を上げれば、自分で思っている以上に人は集まる気がします」と回答。個々のコミュニケーションから生まれる連帯の可能性について語った。

とにかくアウトプット!「なんじゃそりゃ?」なゲームで考える新規事業

イベントの後半では「SEE THE SUN」が開発した、サステナビリティのアイデアを様々な視点から考えるためのカード「かけアイ」を使って、参加者と共に新規事業のアイデアを遊び感覚で出し合った。

サステナビリティのアイデアを様々な視点から考えるためのカード「かけアイ」
サステナビリティのアイデアを様々な視点から考えるためのカード「かけアイ」
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

カードは緑と青の2種類があり、緑色のカードには「世界の貧困がなくなる」「筋力や体力を維持できる」などの目的、青色のカードには「文房具」「農業・漁業・林業」などの業界・領域がそれぞれ書かれている。

これをランダムに組み合わせたペアがお題となり、それに添ったアイデアを考えるというものだ。

制限時間(3分)以内でできる限りたくさんのアイデアを各々で書き出していき、最後にグループでシェアをする。「正解」「かっこいい答え」「できそうなこと」にこだわらないというのも、このゲームの特徴だ。

「良いものを考えなくては」と身構えてしまう大人たちのために、一通りアイデアが出揃ったところで進行役が「出揃ったアイデアの中から『〇〇賞』を選んでください」とアイデアの評価基準を後出しするシステムなのだ。

賞の内容は「笑えるで賞」や「スケールでかすぎるで賞」などのカジュアルなものから、「今すぐ始められそうで賞」「サステナブルで賞」などの実用性に焦点を当てたものまで様々。

参加者は金丸さんの出した「国同士が仲良くなる食べ物」と「歳をとっても仕事が続けられるアミューズメントパーク」というお題について「意外と難しい」「こんなしょうもなくていいのかな」とペンを走らせた。

アイデアを出し終わった後、金丸さんが「各グループで『よくわからないけど発想が天才っぽいで賞』を選んでみてください」と伝えると「なんじゃそりゃ!」と会場から笑い声が上がった。

ワークショップに取り組む参加者
ワークショップに取り組む参加者
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

その後、「モヤモヤすること」や「好き・ワクワク」を書き出してグループ内で共有するなど、アウトプット型のアクティビティが続いた。

「個人的な小さなことでも社会のことでもオッケー」という金丸さんの言葉を受けて、参加者からは「学校教育を、もっと自分を表現する場にしたい」というような社会への課題感から「お金が欲しいなあ」など足元の悩みまで、様々な「モヤモヤ」が聞こえてきた。

ワークショップの様子
ワークショップの様子
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

各グループで出揃ったキーワードを頼りに、共通しているものはないか、モヤモヤとワクワクを掛け合わせたらどんなビジネスができそうかを話す場面では、ワークショップの序盤よりも参加者がざっくばらんに思いついたことを言い合っている様子が印象的だった。

カオスを楽しもう。新規事業の立ち上げは、霧の中のパイロット

イベントの終盤、金丸さんは10年以上に及ぶ、自身の新規事業立ち上げのキャリアを振り返り、新しいことに挑戦したい人や、仕事と社会をつなぐ事業をしたいと考えている人に知見を共有した。

参加者と話す金丸さん
参加者と話す金丸さん
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

「とにかく自分が好きなものを大切にしてください。数字や人を笑わせることなど、なんでも構いません。新しいことをするのも大切ですが、ひとつのことを続けることもとても大切です。そして持続するには、自分自身の『好き』の気持ちが欠かせないんです。まずは自分の好きなことや得意なことにフォーカスしてみてください!」

「また、新規事業へ挑戦する人はみんな『霧の中のパイロット』です。新規事業はリスクも高いですし、経営層からNOと言われることが多いのも当然。右も左も見えない前例のない仕事、つまりは霧の中を進んでいくのですから、その状況下で様々な判断をするのは本当に難しい。霧の中のパイロットはパイロットの中でも名操縦士。エリート操縦士です。そんな大変な仕事をしているのですから、自分を卑下せず、カオスを楽しみながら、メンタルのケアにも努めましょう。多くのトライを重ねるうちに霧の中での判断力が身についてきます!」

そして最後に「関わる全ての人に感謝とリスペクトを持ちましょう。例えば経営層と衝突しそうなときも、相手の立場ゆえの難しさも想像した上で相談をすると、意外と親身になって協力してくれたりするんです。リスペクトの気持ちを持つことはタダでできるのでやりまくっちゃってください」と笑みを浮かべ、会場を和ませた。

会場を後にした参加者は、「頭が固くなっていることに気づいた」「エネルギッシュな話で勇気がもらえた」「新規事業をやっていく上で役に立った」などと話し、今後のビジネスに胸を高鳴らせているようだった。

今日この場から、新たに「霧の中のパイロット」が誕生したのかもしれない。

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