「性別欄のたった一文字に苦しみ、命を絶つ人がいる」性別変更の手術要件、有識者は「法の下の平等にも反する」

性同一性障害特例法の手術要件について、当事者が「全てのトランスジェンダーが性自認によって差別されることない社会」に向けた法改正の必要性を訴えた。
議論が進む性同一性障害特例法の
議論が進む性同一性障害特例法の
Takeru Sato / HuffPost Japan

トランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変更する要件を定めた「性同一性障害特例法」の法改正の議論について、LGBTQ当事者らが生きやすい法整備を目指す「LGBT法連合会」が11月27日、東京都内で記者会見を開いた。

最高裁は10月、性別適合手術を求める2つの要件のうち、生殖機能を永続的に欠く「生殖不能要件」を違憲と判断。一方で、変更する性別の性器に似た外観を備える「外観要件」については、審議を高裁に差し戻した。

性的マイノリティやジェンダーに関する法律などに詳しい追手門学院大の三成美保教授は「このままだとトランスジェンダー女性にだけ男性器の切除を求めることになります。一方の性にのみ大きな負担を強いることは、憲法14条(法の下の平等)違反にも問えると考えます」と述べた。

◆もし外観要件が残れば「法の下の平等に反する」

追手門学院大の三成美保教授
追手門学院大の三成美保教授
Takeru Sato / HuffPost Japan

三成教授は今回の違憲判断について、「国際的動向に即したものとして、高く評価できます」と支持。一方で、外観要件の差し戻しについて、「非常に残念です。生殖不能要件と外観要件は、欧米諸国では身体の完全性の侵害に当たるとして、ほとんどのケースでセットにして削除されています」と指摘した。

また外観要件について、「もしこの要件が残れば、トランスジェンダー女性が男性器切除の必要を求められる一方、トランス男性には特段の手術は求められません。つまり、男女で大きな差があるという問題があります」と指摘。

また10月の最高裁判断では裁判官15人のうち3人が「外観要件」も違憲だとする意見を出した。三成教授は「この意見は極めて説得的であり、次の高裁判断の重要な手掛かりになると考えます」と強調。「外観要件と生殖不能要件、両方を削除しないと、違憲である現状を解消できないと考えます」と訴えた。

◆性別欄のたった一文字で思い悩む

LGBT法連合会の時枝穂代表理事
LGBT法連合会の時枝穂代表理事
LGBT法連合会

LGBT法連合会の代表理事である、トランスジェンダー女性の時枝穂(ときえだ・みのり)さんは、「生殖不能要件だけでなく、外観要件も撤廃してほしい」と話す。

時枝さんは「もし手術をして性別を変更できたら、自分はこの社会でもっと生きやすくなるのでは」と思い、一度、手術のためにお金を貯めることを決めた。だが、当時は男性として正規社員になることができず、かといって女性として働くこともできなかった。アルバイトや派遣など非正規の仕事をして生活するだけで精一杯だった。

そんなある日、性別適合手術を受けて、性別変更した人と知り合った。金銭的負担の重さや健康面での不安を聞いて、手術への戸惑いや躊躇する気持ち、手術をすることでしか性別を変更できない法律に疑問を感じるようになった。

現在は戸籍上は男性のまま、社会生活上は女性として暮らしている。だが病院の窓口など、性別が記載された身分証を提示しなければならない時がしばしばあり、その度に苦しい思いをしてきた。

また「性自認が女性だと言えば、男性が女湯などに入ることができるようになる」といったデマを見て、とても傷ついている。

「自分の性別のことで悩み、性別欄の男か女かというたった一文字で苦しみ、望まない手術をする人もいます。誹謗中傷を受け、この社会では生きていけないと思って、命を落とした方がたくさんいらっしゃると思います」

「全てのトランスジェンダーが性自認によって差別されることなく、自分らしく生きていく権利が尊重される社会を目指して、法の改正を強く望みます」

◆「常に健康と貧困の問題に晒されている」

特定非営利活動法人東京レインボープライドの杉山文野共同代表理事
特定非営利活動法人東京レインボープライドの杉山文野共同代表理事
Takeru Sato / HuffPost Japan

トランスジェンダー男性で、特定非営利活動法人東京レインボープライドの共同代表理事を務める杉山文野さんは、生殖不能要件の違憲判断について「喜ばしいのですが、当たり前の判断がやっと下ったとも感じています。この人は子どもを作ってよくて、この人はよくないと(差別し)、法律で生殖機能を永続的に欠く状態を強いてきたことが、どれだけ問題であるかは言うまでもありません」と話した。

杉山さんも性別変更をしておらず、公的な書類の性別欄は女性。入国手続きや、病院、役所など、あらゆる場面で説明が求められるという。「毎日毎日、自分のパンツの中を見ず知らずの人に、時にはこうやって、カメラの前で説明しないといけない日々(の苦しさ)を少しでも想像していただければ」

杉山さんは、当事者が生活実態に基づいた身分証を持てないことによる不利益や生活困難は、計り知れないと強調。

「就職のためには身分証が必要で、身分証のためには手術が必要で、手術のためにはお金が必要で、お金のためには就職が必要。この負のスパイラルから抜けられず、常に健康と貧困の問題に晒されているのがトランスジェンダーです」

「生殖不能要件の違憲判断により、少なくともトランス男性においては負のスパイラルから抜け出せる可能性が開かれました。これは大きな前進だと思っています。しかし問題は、取り残されてしまう可能性があるトランスジェンダー女性です」

「外観要件が残ってしまえば実質的に、トランス女性の置かれる現状は変わりません。これは明らかな性差別です。トランスジェンダー男女で扱いが異なることなく、性差別のない法改正を強く望みます」

<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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