男性更年期の当事者が伝える「不健康自慢はやめよう。体調不良は決して恥ずかしくない」

男性更年期で疲れや脱力感などの症状に苦しんだ音楽家の松永エリック・匡史さん。そうした経験から学んだのは「不調を開示し合い、お互いに気遣い合うこと」の大切さでした。
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「男性更年期というと『恥ずかしいこと』『口にしにくい話題』と思ってしまう人もいますが、僕は病気に恥ずかしいものなんてないと思っています」

こう語るのは、音楽家で青山学院大学教授の松永エリック・匡史さんです。男性更年期による、疲れや脱力感などの症状に苦しんだ経験を持ちます。

「誰もが心身の不調を無理に我慢することなく、心地よく生きられる健やかな社会を目指す」をテーマに掲げた、ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」。音声プラットフォーム「Voicy」とのコラボレーション企画で、男性更年期の当事者でもあった松永さんとパーソナリティのoishi haruさんが、更年期について語り合いました

“不健康自慢”はもうやめよう

女性の更年期は閉経前後の10年間、45〜55歳ごろに訪れます。一方、男性は40歳くらいから性ホルモンの分泌が低下して、さまざまな不調が現れることがあります。これが「男性更年期」です。

松永さんも、かつてやる気のなさや重い脱力感などの男性更年期の症状に悩まされた一人。当初は男性更年期についての知識がなく、更年期が不調の原因だという自覚もありませんでした。

「当時は仕事で極端にストレスが溜まっていた時期だったので、初めは疲れているだけだと思っていたんです。でも、休んでも全然回復しないので、疲れに慣れていた僕でも『これはおかしいな』と。周りからも『最近、様子が変だよ』と心配されていました。

そんなときにたまたま製薬会社の知り合いに会う機会があって、症状を伝えたら男性更年期を指摘されました。思いもよらなくて、暗闇に光が差したような気持ちでしたね」

男性更年期はまだあまり認知されておらず、体調不良があっても更年期による不調だと自覚できる人は多くありません。松永さんは自分自身の経験から、リスナーに「休んでも休んでも疲れが取れないときは更年期を疑ってみてもいいかもしれません」とアドバイスしました。

松永さんが更年期症状と普段の体調不良の違いに気づくことができたのは、以前から体調管理に気を遣い、自分の「体調の定点」を知っていたからだとのこと。

「皆さんにもぜひ、自分の健康に意識を向けてみてほしいですね。『健康を損なうほど仕事を頑張っている』といったイメージで“不健康自慢”をする人もいますが、自分自身と周囲のことを大切に思うなら、健康に気を遣うことは欠かせないと思います」

また、すべての男性に同じタイミングで男性更年期が訪れるとは限りません。松永さんは、データ上の「平均」にとらわれずに自分の状態をよく観察し、異変があったら病院に行くことの大切さを強調していました。

不調を開示し、支え合いのカルチャーを

男性更年期を自覚する前から「体調が悪いときはしっかり休むべき」という考えを持っていた松永さん。理由について、こう語ります。

「体調が悪いときに無理をしても、パフォーマンスを発揮することはできませんよね。チームのメンバーには、モチベーションが高い状態で生き生きと働いてほしいんです。

僕はチームのメンバーの調子が悪かったらすぐに休んでもらいますし、自分の調子が悪いときもさりげなく伝えています。体調が悪いことは、隠さなければいけないような恥ずかしいことではないはず。誰もがなり得る、仕方のないことですよね」

ただし、体調不良による欠勤では、周りに負担がかかるのも事実。だからこそ「身近な人同士が積極的に体調不良を開示し合い、お互いに助け合えればいい」と考えています。

実際に、松永さんは「チームメンバーが悩みを打ち明けやすくなるように」との思いから率先して悩みを開示し、チーム内で助け合えるカルチャーをつくっているそうです。「上司が弱みを見せるなんて」という声には、こう答えます。

「上司・部下という立場は単なる役割なので、『弱みを見せてはいけない』なんて思う必要はないんです。むしろ、積極的に見せてあげてください。

ただし、他者から開示された情報の取り扱いには十分注意すること。絶対に勝手に喋ってはいけません。それが守れないような上司には、部下も安心して悩みを話すことはできませんから」

不調を気遣い合う風土で「隠れ我慢」をなくしたい

「男性更年期の存在はまだあまり知られていませんが、実際には、更年期症状は多くの男性に起こり得ます。

今は症状がなくてもこれから現れるかもしれませんし、たとえ自分に起こらなくても、周りの人に起こるかもしれません。より多くの人が、更年期の問題を自分ごととして考えてくれたらいいですね」

もちろん、心身の不調は更年期によってのみ起こるわけではありません。突発的な病気や持病なども含めると、体調には波があるのが当たり前とも言えます。さまざまな事情を抱える人が働きやすい環境をつくるために、どうしたらよいかについても語っています。

「周囲につらそうな人がいるときには、『大丈夫ですか』と声をかけるのが当たり前になっていけばいいなと思います。そうした気遣いの積み重ねで、不調を恥ずかしいと思わずに開示できる風土ができていくのではないかなと。

また、体調不良でお休みする人が連絡してきたときには『はい、わかりました』と返事するのではなく、『こちらのことは気にしなくていいですよ。お大事にしてくださいね』と気遣う言葉を添えるとか。せっかくなら気持ちよく休んでもらえた方が、お互いにとっていいですよね」

ツムラが2023年に行った「男女の更年期に関する実態調査」によると、更年期による不調を抱えながら隠れ我慢(心身の不調を我慢していつも通りに仕事や家事を行うこと)をしている男女は85%にのぼります。

自分自身の健康への意識を高めるとともに、仲間同士でお互いの体調の微妙な変化に気を配り、助け合える社会にしていくことが、隠れ我慢を減らすカギとなるのかもしれません。