「具は4つぐらい」「手軽で、手頃に」「シュウマイをメインの具に」…白央さん家のある日の鍋

ライターの西森路代さんと白央篤司さんによる「食」をめぐるリレーコラム。今回は、「鍋」を通してその人の暮らしを伝える『名前のない鍋、きょうの鍋』を出版した白央さんが、「ここ最近作った鍋」を紹介します。
ハレの日の鍋。お正月休みのすき焼き
筆者提供
ハレの日の鍋。お正月休みのすき焼き

「鍋をテーマに書いてほしい」と、本連載の担当さんからリクエストをいただいた。最近、鍋を主題にした本を書いたからだろうか。リクエストをいただけるのはうれしいものである。今回は「ここ最近作った鍋」のことを書いてみたい。

まずはハレの日の鍋から。お正月休み、久しぶりにすき焼きをした。

うちのツレは大阪人で、普段はかなりの倹約家。日常、私が気の向くままちょっと豪華な食材を買うと「もったいない」と眉をしかめるが、暮れや正月休みには「こういうときにケチケチするのはイヤなんよ」と財布のひもが緩む。すき焼きが食べたいというので、和牛を奮発した。

たっぷりの砂糖で牛肉を焼いて、という関西風ではなく、最初から割り下で煮る関東風で。「別にどっちでもええよ、作りやすいほうで」と言ってくれるのは正直、ラクでありがたい。「やってもらう以上は任せる」というスタンス、共同生活を営む上では大事なことだ。ありがたいと思いつつ具材を刻む。

牛肉、白菜、春菊、焼き豆腐、しらたきの5品でやるのがうちのすき焼きである。ちなみにしらたきと肉を一緒に煮ると肉が硬くなる、というのは間違いなので安心して煮てほしい。手頃な値段に惹かれて買ってみたダイショーの割り下、しっかり甘めでおいしかったな。自作するとなかなかこの甘さにはできない。こってりした、カロリーが怖い甘さはハレの日の愉悦。たまにだから、いいのだ。

「菊菜、もっとないのん」

春菊を菊菜と呼ぶ人を隣にして、ああ関西人と暮らしているなとあらためて思う。

発酵が進んだキムチを使ったチゲ

白央さん家で一番よくやる鍋、韓国風のチゲ
筆者提供
白央さん家で一番よくやる鍋、韓国風のチゲ

うちで一番よくやる鍋といえば、韓国風のチゲだ。近所にとてもおいしいキムチを作る韓国食材店があり、ここの白菜キムチを常備しているのだが、2週間ぐらい経つと発酵が進み、うま味たっぷりの汁気が白菜から出てくる。

この汁を、いりこと昆布の出汁に加えてコチュジャン、酒、味噌と醤油少々で調味すると極上の鍋スープになる。もう10年近く食べているが、まったく飽きない。

ある日は豚の薄切り、えのき、油揚げ、にら、たっぷりの豆苗を具に。どれも値段が手頃で、使いやすい食材だと思う。豆苗を鍋の青菜に使う人は少ないだろうが、うまいものですよ。ひとり1パックぐらい軽く食べられてしまうので、試してみてほしい。緑黄色野菜不足のあなたは特に。

日常の鍋は「手軽で、手頃に」

しゅうまいは鍋の具にいい
筆者提供
しゅうまいは鍋の具にいい

ある日の鍋、その2。

基本的に「鍋の具は4つぐらい」と決めている。具だくさんの寄せ鍋は豪華でおいしいが、手間も費用もかかる。日常の鍋は「手軽で、手頃に」でいきたい。昆布出汁で煮て、ぽん酢でいただくのもうちの基本スタイル。

今回は特売だった鮭の切り身を主役に、かきの木茸(香りが強くてうまいきのこ、もし見かけたら試してほしい)、豆腐、しゅうまいをメインの具として、半端にあまっていた野菜も足した。

しゅうまいは冷凍常備しているものの1つ。鍋に入れるといい出汁の素にもなり、汁気を吸ってふっくらとしたおいしさもよみがえる。「しゅうまいは鍋の具にいい」というのは、先頃書いた『名前のない鍋、きょうの鍋』という本で取材した給食調理士の方に教わった。水餃子を入れてもいい。

この日は冷凍していた魚のすり身団子(既製品)も入れている。私にとって日常の鍋とは基本的に「余っている食材、冷凍庫にちょっと長居させてた食材のおいしい消費法」でもある。

昆布出汁で煮て、ぽん酢でいただくのが基本スタイル
筆者提供
昆布出汁で煮て、ぽん酢でいただくのが基本スタイル

ある日の鍋、その3。

豚切り落とし肉、茶えのきに油揚げ、ちんげん菜を具に。油揚げ、1㎝幅ぐらいに切って鍋の具にすると出汁をよく吸っておいしい。油が強いようなら、キッチンペーパーなどではさんで軽く油気を取ってから使おう。豆乳鍋やキムチ鍋にも私はよく入れている。値段的に安めで安定しているところも優等生だ。

ちんげん菜はクセがないのでいろんな料理に合うが、青いところと白いところを分け、白部分はタテに細切りにして鍋に入れるといい。今回も昆布出汁で煮て、ぽん酢でいただく。ぽん酢が好きなんである。大根をおろすのは手間だけれど、ぽん酢にたっぷり加えていただくと日常鍋がワンランク上の味になる。40代に入ってから、自分でも信じがたいほど大根おろしが好きになった。30代のときはまったく食べなかったなあ。

牡蠣を少し残してシメは雑炊に

牡蠣は3月頃までおいしい食材なので、スーパーにあるうちはどんどん使おう
筆者提供
牡蠣は3月頃までおいしい食材なので、スーパーにあるうちはどんどん使おう

まだ春は遠いけれど、山菜がスーパーにあふれてくると、こんな鍋をしたくなる。春せり、うるい、新わかめ、牡蠣を具に、えのきと長ねぎを入れた。うるい、せり、わかめ、それぞれの緑色が透明な出汁のなかに泳ぐさまはうつくしくて目にやさしく、春を思う。

牡蠣は3月頃までおいしい食材なので、スーパーにあるうちはどんどん使おう。毎度ながらの昆布出汁にぽん酢でいただくスタイルだが、好きなんだから仕方ない。牡蠣を少し残しておいて、シメにごはんと入れて雑炊にする。これがまた、うまい。味つけはせず、食べるとき取り鉢にちょっとぽん酢か醤油をたらしてどうぞ。

さて我が家の鍋話、おつきあいくださりありがとうございました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。