卵子凍結とは?何歳までにするべき?女性にとってのメリットやリスクとは

卵子凍結とはどのような技術なのでしょう。専門家は「将来的な妊娠・出産の可能性を広げる“ひとつの選択肢”として考えてほしい」と語ります。

将来的に子どもを授かりたいと望んでいるものの、自身のキャリアや経済的な事情ですぐに妊娠・出産するのは難しいという女性は少なくありません。

近年、将来的な妊娠・出産の可能性を広げるひとつの選択肢として「卵子凍結」が注目されています。昨年秋には、タレントの指原莉乃さんが「卵子凍結済み」だと明かし、大きな話題となりました。

そもそも卵子凍結とはどのような技術なのでしょうか。また、凍結を望むなら何歳までに行うべきなのでしょうか。数多くの卵子凍結の実績があるグレイス杉山クリニックSHIBUYAの岡田有香院長に聞きました。

✅卵子凍結とは?医学的適応・社会的適応の違い

✅卵子凍結のメリットとは。なぜ将来の妊娠可能性を広げるのか

✅卵子凍結は何歳までにするべき?医師が推奨する“リミット”とは

✅卵子凍結は誰でもできる?リスクやデメリット

卵子凍結とは?医学的適応・社会的適応の違い

卵子凍結とは、将来の妊娠・体外受精に備えて、若いうちに自身の卵子を採取し、凍結保存しておく技術で、女性が年齢を重ねたときにおいても、妊娠する確率を少しでも高めておく手段とされている。

卵子凍結は元々、がん患者の妊孕性(妊娠する能力)を維持する「医学的適応」の意義から行われてきた。

「がん治療の進歩により、多くの患者が病気を克服できるようになりましたが、抗がん剤治療の副作用として、卵子に大きなダメージを受け、不妊になってしまう方は少なくありません。また、乳がん患者の場合、再発防止のホルモン投与により、5〜10年間妊娠できない状態になります。

たとえ乳がん治療で直接ダメージがなくとも、年齢に従って妊娠・出産の可能性は下がってしまいます。そうした方たちのために、治療の影響が出る前に卵子をとっておき、将来的な出産の可能性を高めるために行われてきました」(岡田先生)

卵子凍結保存のイメージ写真
卵子凍結保存のイメージ写真
Science Photo Library via Getty Images

一方、健康な女性が将来の妊娠に備えるための卵子凍結は「社会的適応(ノンメディカル)」と呼ばれている。

2013年、アメリカの生殖医学会が「卵子凍結は実験段階を脱し、医療と考えられる技術である」と宣言したのを受けて、GAFAMなどIT大手企業を中心に、女性従業員に対する福利厚生の導入が広がった。

しかし、国内では「卵子凍結を推奨することが妊娠・出産の先送りになるのでは」との意見も多く、社会的適応に対する前向きな議論は進んでこなかった。

ただ近年は、行政の社会的適応による卵子凍結の支援が広まりつつある。

千葉県浦安市は15〜17年度、全国に先駆けて卵子凍結に公費を助成する事業を実施。東京都は新年度予算案に関連費用1億円を計上した。

岡田先生は「いつ妊娠して出産するかは女性の自由」としたうえで、「高齢出産による健康面へのリスクを考慮したら、20代から30代前半のうちに一人目を授かるのが理想的」と話す。

だが、それが難しい女性たちにとっては、卵子凍結が“選択肢のひとつ”になるという。

「日本では20代のうちから妊娠・出産を考えられる社会構造になっていないのが課題。ご自身の意志に関わらず、会社での立ち位置や経済的な事情などによって妊活を先延ばしにしている方も少なくありません。ですが、まずは“妊孕性”の知識をつけていただき、卵子凍結もひとつの選択肢として考えてもらえればと思っています」(岡田先生)

グレイス杉山クリニックSHIBUYAの岡田有香院長
グレイス杉山クリニックSHIBUYAの岡田有香院長
ハフポスト日本版

卵子凍結のメリットとは。なぜ将来の妊娠可能性を広げるのか

卵子凍結を検討するうえで、ひとつのキーワードとなるのが「妊孕性」。

妊孕性とは「妊娠するための力」のことで、20代後半から徐々に衰え始め、30代半ばから急速に低下するとされている。この妊孕性に大きく関わるのが、“卵子の年齢”だという。

「卵子は年齢とともに老化していきます。卵子が老化すると染色体不分離という現象が認められるようになり、染色体異常が増加することで、妊娠率が低下して流産する確率が増加します。同じ年代で出産する場合でも、卵子が若いほうが出産率が高く、子宮の年齢より卵子の年齢が大きく関わっていることが判明しています」

自己卵子と提供精子による出産率の比較
自己卵子と提供精子による出産率の比較
グレイス杉山クリニックSHIBUYA提供

米国CDC疾病予防管理センターの調査(2013年)を基にしたグラフは、自身の卵子だと年齢とともに出産率が低下していく一方、平均28歳の若い卵子の提供を受けて体外受精した場合、その出産率がほぼ横ばいとなることを示している。

(日本産科婦人科学会の報告では、2021年に行われた未受精の凍結卵子を用いた胚移植での妊娠率は20.9%と低いことに留意が必要)

つまり、卵子を若いうちに凍結しておくことは、将来的な妊娠・出産の可能性を高めることにつながるのだという。

「もちろん100%妊娠を保障するものではないですし、35歳以上は今でも高齢妊娠にあたり妊娠の合併症は増えます。そのことは十分に理解はしつつ、少しでも今できることをと考えて卵子凍結をすることで『焦っていた気持ちが落ち着いた』という方もいらっしゃいます。将来的な妊娠にむけて『自分1人でできる限りのことはやった』と思われる方もいます」

また、岡田先生は卵子凍結を検討することが、「自身のライフプランや身体の状態を見つめ直すきっかけになるのでは」と話す。

「実際に行うかどうかは別として、卵子凍結を検討することは『どのくらいの時期に子どもを授かりたいのか』『そもそも将来的に子どもを生みたいのか』など、ご自身のライフプランを考えることにもつながります。

また、日本は先進国のなかでも婦人科検診率が低いとされています。婦人科系の疾患は可視化されにくく、気づいたときには妊娠が難しい身体になっている方も少なくありません。卵子凍結を考える段階で、子宮や卵巣に病気がないのかなど、自身の身体の状態に向き合うことができるのではないでしょうか。

いつの間にか年齢を重ね、将来的には子供が欲しいと思っていたのに妊娠が難しい年代になってしまったということだけは避けて欲しいと思っており、ご自身のライフプランを見つめ直すことが一番のメリットだと思います」

卵子凍結は何歳までにするべき?医師が推奨する“リミット”とは

体内にある卵子は年齢とともに老化していき、その個数も自然に減少していく。また、卵子の数は十分にあったとしても、加齢とともに妊娠に至る“質の良い卵子”の数も少なくなる。

卵子凍結を行う場合、卵子の生存率とその後の着床率を踏まえ、10個以上(できれば20個以上)の未受精卵を凍結保存しておくことが望ましいという。

採卵する時点の年齢と妊娠確率のグラフ
採卵する時点の年齢と妊娠確率のグラフ
グレイス杉山クリニックSHIBUYA提供のデータを基に作成

『採卵数と年齢別出産率の関係性』を示したグラフによると、卵子10個を凍結した場合、20代後半〜30代前半の出産率は大きく変わらない。だが、37歳で53%に下がり、40歳からの5年間で大きく減っていくことがうかがえる。

日本生殖医学会の『未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針』(2018年)では、「凍結・保存の対象者は成人した女性で、未受精卵子等の採取時の年齢は、36歳未満が望ましい」としている。

「40歳の誕生日まで卵子凍結ができるクリニックは多いのですが、その時点で10個の卵子を凍結したとしても、おひとり出産できる可能性は30%くらいと考えてよいでしょう。かつその年代になると、一回で採れる卵子の数は4、5個程度になります。加齢とともに卵子の数が減り、質が落ちていく点を踏まえると、30代前半くらいの時期に凍結しておくべきです」(岡田先生)

卵子凍結は誰でもできる?リスクやデメリット

卵子凍結の処置を受けることで、身体に影響が出るリスクはないのだろうか。

岡田先生によると、「排卵誘発」と「採卵」の段階で副作用が出る可能性があるという。

「排卵誘発剤を投与することで『卵巣過剰刺激症候群』が起こり、卵巣の腫れや出血により、お腹がはって気持ち悪くなったり、歩くと響くような痛みを感じることがあります。その場合は数日間の自宅安静が必要となりますが、入院を要するような重度の副作用が発生するケースは全体の1%に満たないといわれています。

採卵による副作用には下腹部の痛みや出血などが挙げられます。また、卵巣表面からの出血、卵巣内の感染が起こる可能性がありますが、全体の0.3%程度にとどまっています」

また岡田先生によると、検査段階で婦人科系の疾患などが見つかった場合、卵子凍結を行うことが難しいケースもあるという。

「卵巣腫瘍、子宮筋腫などの婦人科系の病気は不妊に関わります。また、自己免疫性疾患などの持病でステロイド内服薬をかなり飲まれているなど、現在服用している薬が将来の妊孕性に関わる可能性がありますが、そうした説明を受けていない方も少なくありません。妊活を検討するタイミングで、かかりつけ医に薬の変更などを相談し、それでも心配なことがある場合は、プレコンセプションケアの外来を受診してみてはいかがでしょうか」

>>卵子凍結の具体的なステップや費用については後編で紹介します。

《岡田有香先生プロフィール》

グレイス杉山クリニックSHIBUYA院長。日本産科婦人科学会専門医。聖路加国際病院での勤務を経て、2022年4月より現職。聖路加国際病院では子宮内膜症や低用量ピルの診療、がん治療前の卵子凍結などに携わり、杉山産婦人科では不妊治療について学ぶ。不妊治療に多くの人が苦しむのを見て、不妊予防を行う重要性を感じ、生理の知識や妊活、卵子凍結についてInstagramでも発信している。

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