ウェルビーイングとは?意味や定義から、ビジネス・経営先進事例、社会・経済・教育との関わりまで【簡単にわかる解説】

ビジネスの最新キーワード「ウェルビーイング」を徹底解説。世界・日本の最新事例や潮流、人的資本経営との関係、なぜ注目されているのか、指標や歴史が全てわかります。

【目次】
1 ウェルビーイングの意味
2 注目される理由と「5つの要素」
3 ウェルビーイングという指標 世界と日本では
4 ビジネスとウェルビーイング 職場のウェルビーイングと人的資本経営
5 ウェルビーイングテック
6 ウェルビーイングの未来

ウェルビーイングを図で表現。フィジカル、メンタル、ソーシャルが良い状態を示しています
ウェルビーイングを図で表現。フィジカル、メンタル、ソーシャルが良い状態を示しています
Yuki Takada / HuffPost Japan

1 ウェルビーイングの意味

ウェルビーイング=「well+being(良く在る)」。心も体も、社会生活も充足した状態を表す概念です

ウェルビーイングという言葉が広まったのは1946年。WHO(世界保健機関)設立に際し、WHO憲章の中で「健康」が以下のように定義づけられました。

健康とは、身体的に、精神的に、そして社会的に、完全に良好な状態であり、単に病気でないとか、弱っていないということではない

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

ウェルビーイングと似た言葉に、ウェルネス、ウェルフェアがありますが、指す内容は少し違います。

ウェルネスは、いきいきした健康的な生き方、ウェルビーイングな状態を目指すプロセスを指します(※)。

ウェルフェアは、福祉や厚生サービスのこと。ウェルビーイングのうち、社会との関わりに相当する部分といえます。

※ウェルネス...医学博士のハルバート・ダンは1961年、著書「ハイレベルウェルネス」の中で、高次のウェルネスを「個人が持つ潜在能力を最大限に引き出す方法」と定義しました。その後研究が進み、国や地域、文化などによって、現在ではさまざまな解釈があります。

2023年10月に米・サンフランシスコで開催された、社会起業家・インパクト投資家らが集う世界最大級の国際カンファレンス「SOCAP23」。事業の成功を左右するウェルビーイングの支援や強化、企業運営や投資プロセスにウェルビーイングを組み込む戦略が議論された
2023年10月に米・サンフランシスコで開催された、社会起業家・インパクト投資家らが集う世界最大級の国際カンファレンス「SOCAP23」。事業の成功を左右するウェルビーイングの支援や強化、企業運営や投資プロセスにウェルビーイングを組み込む戦略が議論された
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

ウェルビーイングは、誰も取り残さない、多様性を尊重する概念です。

日本におけるウェルビーイング研究の第一人者、前野隆司・慶応義塾大大学院教授は「『単に病気でないとか、弱っていない、ということではない』と『健康』の定義でうたっているように、心身がどんな状態であれ『うまくやっていく』ことがウェルビーイングにつながります」と説明しています。

困っている人がうまくやっていける環境を、社会の側が整えることも必要です。

前野隆司・慶応義塾大大学院教授
前野隆司・慶応義塾大大学院教授
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

ウェルビーイングは、ビジネスシーンで近年、大きなテーマになっています。

2023年10月に米・サンフランシスコで開催された、社会起業家・インパクト投資家らが集う世界最大級の国際カンファレンス「SOCAP23」は、ウェルビーイングの強化を主要議題のひとつに取り上げました。

健康の定義として75年以上前に登場した「ウェルビーイング」が今、注目されているのはなぜでしょうか?

ここからは具体的に、その理由や国内外の潮流について、みていきます。

2-1 注目される理由

国際社会は長い間「豊かさ=経済成長」とみなしてきました。

しかし経済成長に突き進んだ世界の至るところで、環境破壊や気候変動、格差の拡大など、深刻な問題が浮き彫りになっています。

また下のグラフが示すように、経済成長の主要指標であるGDP(国内総生産)は、生活に満足している人の割合に比例しません。国の経済力で、ひとりひとりの人生が豊かになるわけではないのです。

ウェルビーイングはGDPと比例しない結果に
ウェルビーイングはGDPと比例しない結果に
Yuki Takada / HuffPost Japan

持続可能な社会で豊かな人生を送ることへの関心が高まるにつれて、モノやカネではない、ウェルビーイングを重視する価値観が広がっていきました。

国連は2015年、「ウェルビーイングが保証される世界」をビジョンに掲げ、SDGsを中核とした 持続可能な開発のための2030アジェンダを採択しました。

OECD(経済協力開発機構)が2019年に公表した「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」は、教育の未来に向けて、予測困難なVUCA(※)の時代に経済的・物質的な豊かさを超える「社会のウェルビーイング」へ進むための、学習のフレームワークを示しています。このフレームワークの中で、人は複雑な自然生態系の一部です。

※VUCA(ブーカ)…Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、 Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)

ウェルビーイングと教育の未来に向けて作成された「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」
ウェルビーイングと教育の未来に向けて作成された「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」
出所:OECD

WEF(世界経済フォーラム)は年、ステークホルダー資本主義(※)を主題とする「ダボスマニフェスト2020」を公表。企業は従業員に対して、多様性を尊重し、ウェルビーイングや労働条件の改善につとめ、スキルアップやリスキリングを通じた継続的な雇用につなげることなどを目標に掲げました。

20235月に広島市で開催されたG7サミット(主要7カ国首脳会議)の声明は、労働者のウェルビーイング、女性・障害者・高齢者・若者を含む少数派のグループを誰一人取り残さない労働市場の構築、職場におけるウェルビーイングの促進などをうたっています。

※ステークホルダー資本主義…企業が株主の利益を追求するだけでなく、従業員や顧客、取引先、地域社会など、すべての関係者の利益を考慮し、持続的な価値向上を目指す資本主義

2-2 ウェルビーイングの構成要素

ではどうすれば、ウェルビーイングは向上するのでしょうか。

これまでの科学的研究がそれを明らかにしています。さまざまなアプローチのうち、3つの有名な理論/調査を紹介します。

さまざまな研究がウェルビーイングの構成要素を明らかにしている
さまざまな研究がウェルビーイングの構成要素を明らかにしている
Yuki Takada / HuffPost Japan

PERMA パーマ

ポジティブ心理学(※)の父、マーティン・セリグマンは、ウェルビーイングの構成要素は「PERMA」であり、国家は富の増加だけでなく、ウェルビーイングの増加に責任を持ち、PERMAを測るべきだ、と提言しました。

📍Posirtive emotion:ポジティブ感情

📍Engagement:物事への没頭・熱中

📍Relationships:良好な人間関係

📍Meaning:人生の意味・目的

📍Accomplishment:達成感

※ポジティブ心理学...心の病理ではなくポジティブな側面、どうすれば人生はより充実するのか、幸福になるのかに焦点をあてる心理学の一分野

SPIRE スパイア

「ハーバードの人生を変える授業」の著者、タルベン・シャハーの「SPIRE」理論も広く知られています。

📍Spiritual well-being:【精神性】今を大切に味わい、人生の意味や意義を見出す

📍Physical well-being:【身体性】体をいたわり、心と体のつながりをいかす

📍Intellectual well-being:【知性】開放的に好奇心をもって、深く学ぶ

📍Relational well-being:【人間関係】 他者との、また自分との健全な関係を築く

📍Emotional well-being:【感情 】心の動きを感じとり、回復力とポジティブさを身につける

シャハー博士は「幸せは太陽光のようなもの。虹のように構成要素に分解することで、理解を深め、より良く対処できる」と述べています。

ギャラップの「5つの要素」

世界幸福度報告に基礎データを提供している、アメリカの世論調査機関ギャラップは、150カ国以上を対象とした包括的な調査から、ウェルビーイングに不可欠な5つの要素を明らかにしました。

📍Career Well-Being: 仕事や家事など日々の活動に情熱を持って取り組んでいる

📍Social Well-Being: 良い人間関係を築いている

📍Financial Well-Being: 経済的に安定している

📍Physical Well-Being: 心身ともに健康で活き活きとしている

📍Community Well-Being: 地域社会に貢献している

※「幸福の習慣」より

ギャラップによれば、5つの要素は、信仰、文化、国籍を問わず普遍的なものです。

どのアプローチにおいても、構成要素のうちどれかひとつを伸ばせばよい、というものではありません。ウェルビーイングは多面的で、関わり合うすべての側面が大切なのです。




3-1 ウェルビーイングという指標

人間の活動によって、地球上で約100万種の生物が絶滅の危機に瀕しています。

水や酸素、さまざまな生態系サービスに依存して私たちの社会が成り立っているのにも関わらず、経済成長の主要指標であるGDPは、それらの損失に注意を払うことがありません。人々のウェルビーイング、育児や介護を含む無報酬の家事労働、分配の不平等を測ることもできません。

ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツは「何を測るかが、何をするかに影響する。間違ったことを測れば、間違ったことをすることになる」と述べています。GDPへの過度の依存は、そこに現れない価値を軽視する社会経済活動を加速させた側面があるといえます。

GDPに代わるモノサシを模索する動きは、2000年代後半から本格化しました。

2007年に欧州委員会やOECDなどによる国際会議「Beyond GDP」(GDPを超えて)が開催され、新たな指標の必要性が話し合われると、翌年には仏・サルコジ大統領の呼びかけで、スティグリッツやアマルティア・センらによる検討委員会が発足。

委員会はGDPの限界を指摘し、現在と将来世代のウェルビーイングに焦点をあてた計測システムへの転換、主観と客観の両面からウェルビーイングを測ること、単一の尺度ではなく、さまざまな尺度を含むダッシュボード(計器盤)として計測システムを示すことなどを提言しました。

GDPが2008年の金融危機を予測できず、その後に起きた社会的損失を捉えきれなかったことは、一連の改革に緊急性をもたらしたともいわれています。

提言を受けて、OECDは2011年、人々の暮らしを計測する指標群「Better Life Index」(より良い暮らしの指標)を開発しました。

OECDのWell-being フレームワーク
OECDのWell-being フレームワーク
出所:OECD 訳/独立行政法人 労働政策研究・研修機構

国連は2012年から、世界幸福度報告をスタートしています。

各国の動きを見ていきましょう。

3-2 世界では

イギリスでは、2010年にウェルビーイングの計測プログラムをスタートしています。国家統計局が「あなたにとって何が重要か」を問う全国討論会を開き、その回答や追加調査、専門家の助言などに基づいて、国民のウェルビーイングを「個人のウェルビーイング」「教育とスキル」「環境」など10領域に分け、それぞれに指標を設置しました。2022年から2023年にかけて、時代に即した見直しやフィードバック調査を行い、指標の内容を更新しています。

スコットランドでは、ウェルビーイングに関するフレームワーク「NPF」(National Performance Framework) を、2015年に法制化しました。NPFは、スコットランドに住むすべての人にチャンスを与え、ウェルビーイングを高めること、持続的で包括的な成長、不平等の削減と経済・環境・社会の進歩を等しく重視することなどを目的につくられました。目的を達成するため11のアウトカムが定められており、「自分の声が大人に届いている」と感じる若者の割合や、児童サービスの質、孤独感、温室効果ガスの排出、超高速ブロードバンドへのアクセスなど、ウェルビーイングを測定する81の指標で、その進捗状況を確認しています。

スコットランドはさらに2018年、アイスランド、ニュージーランドとともに「ウェルビーイング経済政府パートナーシップ(WEGo)」を設立しました。「ウェルビーイング経済」は、経済成長それ自体を目的化しない、人々と地球のためにある経済を指しています。WeGoはこの共通する目標に向かって連携しており、現在では、ウェールズ、フィンランド、カナダを加えた6カ国により構成されています。

ニュージーランドでは、2018年にウェルビーイングを測定するダッシュボードを作成し、その分析結果などを活用して、翌年から、ウェルビーイングの向上に焦点をあてた「ウェルビーイング予算」を公表しています。ジャシンダ・アーダーン首相(当時)は「経済成長は重要だが、それだけでは生活水準の向上を保証しないし、誰が恩恵を受け、誰が取り残されているのかを考慮していない」と述べています。

ウェルビーイングをめぐる年表
ウェルビーイングをめぐる年表
Yuki Takada / HuffPost Japan

3-3 日本では

日本では、内閣府が2019年に、人々のウェルビーイングに着目した「満足度・生活の質に関する調査」を開始しました。2021年からは「我が国のWell-beingの動向」として公表しています。

国民生活を「仕事と生活(ワークライフバランス)」「子育てのしやすさ」など13分野に分け、生活全般と分野別の主観的な満足度などについて、1万人規模のインターネット調査を実施。調査から得た満足度の指標は、分野ごとの客観指標(実労働時間や保育所待機児童数など)とともに、指標群「Well-beingダッシュボード」を構成しています。

内閣府が公表している「Well-being ダッシュボード」
内閣府が公表している「Well-being ダッシュボード」
出所:内閣府(一部抜粋)

20237月に公表された報告書から、生活全般の総合的な満足度を、就業者の雇用形態別に見ると、新型コロナ禍の影響を強く受けた非正規雇用の満足度が回復傾向にあることが確認できます。年齢別に見ると、4064歳は、コロナ禍以前の水準に戻っていません。

出所:内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2023」
出所:内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2023」

分野別の満足度は、前年の調査と比べて、ほとんど変わらないか低下しています。

出所:内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2023」
出所:内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2023」

政府は2021年に「Well-being に関する関係府省庁連絡会議」を発足、2023年6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)には、ウェルビーイングに関して「政府の各種の基本計画等におけるKPIへのWell-being指標の導入の加速」「子どもに着目した指標のあり方の検討」「地方自治体における指標の活用促進」を盛り込みました。

教育政策の指針となる教育振興基本計画(2023-2027年度)は、そのコンセプトに「持続可能な社会の創り手の育成」及び「日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上」を掲げています。

※KPI…Key Performance Indicator: 目標を達成するための成果指標

3-4 まちづくり

地方自治体でも、住民のウェルビーイングに着目した動きが始まっています。

富山県は2022年にウェルビーイング推進課を設置。独自のウェルビーイング指標を策定し、「ウェルビーイング県民意識調査」を実施しています。調査から見えてくるニーズをウェルビーイング向上の施策に生かし、交流人口の増加や新たな産業の創出などに取り組んでいます。

少子高齢化が進む日本で、地方の過疎化、産業の空洞化は大きな課題です。

政府は、デジタル技術の力で地方の活性化を目指すデジタル田園都市国家構想を掲げており、地域幸福度(Well-Being)指標の活用を推進しています。

この指標では、地域のウェルビーイングと暮らしやすさを、3分野(生活環境、自分らしい生き方、地域の人間関係)、24因子(医療・福祉、買い物・飲食、自然災害、自己効力感、多様性と寛容性など)に分け、全国85000人へのアンケート結果(主観指標)とオープンデータ(客観指標)をもとに数値化しています。

地域のウェルビーイングと暮らしやすさを数値化している
地域のウェルビーイングと暮らしやすさを数値化している
出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュート「地域幸福度(Well-Being)指標」



 4-1  ウェルビーイングとビジネス

こうした社会情勢のなか、ビジネス分野では、企業経営のあり方にウェルビーイングを取り入れる「ウェルビーイング経営」の動きが加速しています。

経済産業省が推進する健康経営(※)は、ウェルビーイング経営のひとつといえますが、ここまで見てきたように、ウェルビーイングは心身の健康にとどまりません。

業種や企業ごとの課題、目指す姿によって、多面的なウェルビーイングに企業がどうリソースを割くのかには、それぞれの形があります。

※健康経営...従業員などの健康保持・増進の取り組みが、将来的に事業の収益性などを高めるとの考えに基づき、健康管理を経営的視点から捉え、戦略的に実践すること

取引先を含めた社会課題の解決を考え、物流にウェルビーイングの視点を取り入れた、日清食品の取り組みはユニークです。複雑な物流経路の可視化や異業種との共同配送で、CO2排出量を削減し、物流2024年問題に対応。さらに、メーカー、卸店、小売店と連携し、サプライチェーン全体の自動発注システムを構築することで、無駄な資材調達や生産、在庫管理のロスをなくし、環境負荷を減らして新たな価値を生み出そうと、業界の枠を超えた協議を続けています。

経営陣にCWO(チーフ・ウェルビーイング・オフィサー)を置く企業もあります。小売や金融を手掛ける丸井グループでは、グループの産業医が2021年にCWOに就任しました。全社横断の「ウェルビーイング推進プロジェクト」、役員や管理職向けの「レジリエンスプログラム」を中心に、健康を通じた人と組織の活性化、すべての人がいきいきできるウェルビーイング経営を目指しています。


4-2 職場のウェルビーイング

OECD諸国の幸福度と生産性
OECD諸国の幸福度と生産性
出所:ニッセイ基礎研究所 「幸福度が高まると労働者の生産性は上がるのか?」2020年1月

ウェルビーイングを経営に取り入れるべき理由は何でしょうか。

幸せな従業員は、長期的に生産性が高いだけでなく、協調性、創造性、仕事へのモチベーションが高く、欠勤率や離職率が低い

従業員のウェルビーイングとパフォーマンスについてのこうした関係性は、多くの科学的証拠により裏付けられています。

ウェルビーイングとビジネスに関する研究は、コンピュータの発達で大規模なデータの取得が可能となり、分析手法が洗練されたことで、心理学、経済学、行動科学など、さまざまな分野で行われるようになりました。

オックスフォード大サイードビジネススクールのヤン・エマニュエル・デ・ネーヴ教授らが、求人検索エンジンIndeedが収集したデータを用いて、米国の上場企業1636社を対象に大規模な分析をした2023年の報告によると、

📌従業員のウェルビーイングが高いと、個人のパフォーマンスだけでなく、企業の業績も良い

📌従業員のウェルビーイングの水準は、現在だけでなく将来の業績も予測する

📌従業員のウェルビーイングの高い企業は株式市場でのパフォーマンスも高い

このため、

📌従業員のウェルビーイングへの投資は、ビジネスを成功させる強い理由になる

ことが示されています。

また、職場のウェルビーイングは、労働力が不足する少子化社会で、人材獲得のためにも不可欠です。

Z世代は企業を選ぶとき、ウェルビーイングを重視するという調査結果があります。

就職情報会社「学情」が20243月卒業(修了)予定の大学生、大学院生を対象に実施したウェブ調査(有効回答数431人)では、従業員のウェルビーイングを推進する企業に「好感が持てる」「どちらかといえば好感が持てる」と回答した学生が9割を超えました。

就職活動においても、約7割が、企業のウェルビーイングに関する取り組みを「意識する」「どちらかと言えば意識する」と回答しています。

Z世代は就職活動で、会社のウェルビーイングを重視している
Z世代は就職活動で、会社のウェルビーイングを重視している
出所:「学情」

4-3 人的資本

人的資本とは、人材の持つ知識やスキル、能力のこと。人的資本経営とは、人材を重要な「非財務資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげていく経営のあり方です。ワーク・エンゲージメント(働きがい、貢献意欲)を高める施策やリスキリングは、人的資本の価値を高める方法のひとつです。

AIやIoT、ビッグデータがもたらした第四次産業革命によって産業構造が大きく変わる中、アイデアやイノベーションを生み出す人材の確保と育成の必要性は、ますます高まっており、機関投資家からは、変化に対応できる人材ポートフォリオの構築が強く求められています。

欧米で先行していた人的資本情報の開示について、国内では2023年3月期決算から、有価証券報告書への記載(人材育成方針、社内環境整備方針と、方針に関する指標、指標を用いた目標及び実績、女性管理職比率、男女間賃金格差、男性の育児休業取得率などの記載)が義務化されました。

日本生産性本部の同年8月の公表によると、上場企業における女性の管理職比率は、5%未満の企業が48.2%、15%未満が84.1%。男女間賃金格差は、男性を100とすると女性は平均70.8で、約30%の開きがあります。男性の育児休業取得率は、2030%未満の企業が最多を占めます。

この結果は、日本社会の現状を映し出しています。

経済・教育・健康・政治の4分野で男女平等の達成度を測るジェンダーギャップ指数。日本は経済分野で146カ国中123位、政治分野で138位だった
経済・教育・健康・政治の4分野で男女平等の達成度を測るジェンダーギャップ指数。日本は経済分野で146カ国中123位、政治分野で138位だった
内閣府男女共同参画局

WEFによる各国の男女格差の状況を示すジェンダーギャップ指数で、日本は2023年、146カ国中125位と過去最低の順位でした。日本の育休制度について、UNICEF(国連児童基金)は、2021年の報告で「父親に認められている育児休業期間が世界で最も長いにも関わらず、取得率が低い」と指摘しています。

2023年3月期決算の上場企業2325社の有価証券報告書を分析し、人的資本経営について発信を続ける「Unipos」の田中弦CEOは「企業が変われば、社会は変わる。例えば(妊娠・出産などの)ライフイベントのある女性が働きやすい環境をつくる人的資本経営は、少子高齢化による人手不足やジェンダー不平等などの社会課題も解決する」と言及しています。

こうしたなか、企業による人的資本への取り組みは、少しずつ広がっています。

三井住友海上火災保険は2023年4月から、育休を取得した社員の職場に対する「育休職場応援手当(祝い金)」をスタートしました。社員に子どもが生まれて育休を取得した場合、職場の同僚全員に祝い金として最大10万円の一時金を支給することで、社員が「申し訳なさ」を感じずに育休を取得でき、職場全体も快く受け入れる風土を醸成する、というもの。初回となった2023年7月の支給では、約1500人が対象となり、人事担当者は、採用や企業イメージにもプラスに働いたといいます。

ルイ・ヴィトンやディオールなどのハイブランドを擁するLVMH JAPAN は、社外に向けて参加者を募集し、リカレント教育プログラムを実施しています。経歴不問、授業料無料で、月々16万円の生活支援を受けながらファッションを学ぶ8ヶ月のプログラムは、女性の活躍や復職支援という社会課題の解決に向けてつくられました。希望者には卒業後の就職が約束されており、多様なバックグラウンドや培ってきた経験は、既存のスタッフの刺激にもなっています。




5 ウェルビーイングテック

新型コロナ・パンデミックは、世界の不確かさをあらわにしました。

人々が強固だと信じていた社会基盤は揺らぎ、暮らしを見つめ直すきっかけになりました。コロナ禍を経て、メンタルヘルスへの関心が、不調のあるなしに関わらず高まっており、ウェルビーイングとテクノロジーを掛け合わせた、ウェルビーイングテックが注目を集めています。

2022年に3年ぶりに米テキサスでリアル開催された世界最大級のテックフェス「SXSW」で開催されたスタートアップピッチイベントのAI部門では、感情分析AIのスタートアップ「Hume AI」が優勝しました。人々のウェルビーイングに最適化したAIの未来に向けて、言語や声、顔の表情を測定し、感情を分析するプラットフォームを構築しています

日本のウェルビーイングテック企業の事例として、家族型愛玩ロボット「LAVOT」を手がける「GROOVEX」があります。コミュニケーション創出に特化したロボットは、思い通りにはいかない生命感があることが特徴です。自宅やオフィスに迎えることで、愛情を感じられ、家族や従業員の幸福度が上がるという点が評価され、「WELLBEING AWARDS 2023 モノ・サービス 部門」GOLDインパクト賞を受賞しています。

2023年10月に都内で開催されたイベント「Age Well Japan 2023」。プログラム内のセッションでは、超高齢化社会のウェルビーイングについても話し合われた
2023年10月に都内で開催されたイベント「Age Well Japan 2023」。プログラム内のセッションでは、超高齢化社会のウェルビーイングについても話し合われた
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

高齢化社会をテクノロジーで支援する動きも広がっています。ヘルスケアの習慣化アプリ「みんチャレ」を開発、その運用を軸に事業を展開する「エーテンラボ」は、自治体と協働し、超高齢化社会のフレイル(※)予防やデジタルデバイド(※)解消を進めています。

※フレイル...健康な状態と要介護状態の中間の段階

※デジタルデバイド...インターネットやパ ソコンなどを利用できる人と利用できない人との間に生じる情報格差




6 ウェルビーイングの未来

社会課題の解決とビジネスの両立を目指すインパクトスタートアップは、ウェルビーイングを社会に広げる一翼を担っています。

知的障害のある作家たちと契約を結び、アートデータの著作権管理を軸としたIP(知的財産)ビジネスを展開する「ヘラルボニー」の松田崇弥代表は、ビジネスを通じて「障害があってもありのままで、当たり前に本人の意思が尊重されたり、活動を評価されたりする、フェアな状態をつくり出したい」と語っています。

松田さんとヘラルボニーの作家たち
松田さんとヘラルボニーの作家たち
ヘラルボニー提供

アフリカ農村部で低コストのデジタル通信網を構築し、動画見放題のサービスをスマートフォンとセットで販売する「Dots for」は、農村部の人たちが職業訓練動画を視聴し、リモートで先進国やアフリカ都市部の仕事を受注する仕組みをつくり、情報格差や機会格差の解消、農村住民の収入向上に取り組んでいます。

事業について説明する、Dots for 共同創業者兼CEOの大場カルロスさん
事業について説明する、Dots for 共同創業者兼CEOの大場カルロスさん
Naoko Kawamura / HuffPost Japan

沖縄県に拠点を置く「EF ポリマー」は、オレンジの皮などの作物残渣を由来とした、100%オーガニックの超吸水性のポリマーを開発。土に混ぜると土壌の吸水力が向上し、約40%の節水と約20%の肥料の節約につながるといい、水不足を中心とした世界の環境問題の解決に挑戦しています。

EFポリマー提供

ウェルビーイングは、社会とのつながりの中にあり、そのありようは、私たちを取り巻く世界、そして次世代のウェルビーイングに影響を与えます。

2024年9月には、国連未来サミットがニューヨークの国連本部で開催されます。サミットに向けて、これまで続いてきた「Beyond GDP」の議論を推し進め、人々、地球、未来にとって何が重要なのか、価値あるものをより正確に測るフレームワークとダッシュボードを構築する動きが進んでいます。

2025年に改定予定の国民経済計算(※)の国際基準においても、ウェルビーイングと持続可能性の要素をいかに取り込むかが議論されています。

※国民経済計算…国連で採択された国際基準(SNA : System of National Accounts)に基づき、一国の経済を系統的・組織的に把握し記録したマクロ統計。日本では内閣府・経済社会総合研究所が推計している。

経済の論理は社会通念に浸透します。現代社会において、目にみえる生産性や金銭的価値を、人間の本質や物事の価値と混同するような考えが広がったことは、GDP至上主義と無関係ではないでしょう。GDPという「生産」の枠組みを超える、真の豊かさに価値を見出す経済の確立は、社会を大きく変える可能性を秘めています。

世界は今、ウェルビーイングという計器を携えて、サステナブルで豊かな未来へと舵を切ろうとしています。ウェルビーイングかどうかが、価値を測るひとつのスタンダードになる──そうした時代に、ひとりひとりがウェルビーイングを主体的に考え、目指す未来に向けて実践していくことが求められています。

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