警察官のウェアラブルカメラ、「警察権限が肥大化するだけ」と専門家。2024年度に試験導入へ

「着られるカメラ」(ウェアラブルカメラ)の装着は、警察官から職務質問を頻繁に受ける人からも求める声が上がっていた
ドイツ・デュッセルドルフの駅でパトロール中の警察官が装着しているボディカメラ(2016年)
ドイツ・デュッセルドルフの駅でパトロール中の警察官が装着しているボディカメラ(2016年)
picture alliance via Getty Images

警察庁は、公務執行妨害の抑止などを目的に、警察官が職務中に着用する「ウェアラブルカメラ」を2024年度に試験導入する。

警察官と市民のやり取りを記録した証拠になることから、レイシャル・プロファイリング(※1)の被害を訴える人などからは導入に期待する声も上がる。

アメリカなど海外でもボディカメラを取り入れる動きが広がっているものの、専門家からは「現在の制度のまま日本で導入することは危険で、市民にとってのメリットはかなり限定的」との見方が出ている。

警察官のウェアラブルカメラは、市民にとってどんなリスクがあるのか。本格的に導入される前に、どのような規制や仕組みを設けておくべきか。

刑事法学を専門とする大阪公立大学の三島聡教授と、「情報ネットワークと法」に詳しい成城大学の指宿信教授に聞いた。

(※1)レイシャル・プロファイリング・・・警察などの法執行機関が、「人種」や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすること

モデル事業の目的は?

そもそも、なぜウェアラブルカメラの導入を進めようとしているのか。

警察庁は取材に、「限られた人的・財政的資源の下で警察機能を最大限に発揮するには、各種技術・機材を導入し、警察活動の高度化・合理化を図ることが必要なため」と回答した。

つまり「警察官が活動しやすくする」ことが最大の目的だ。さらに、期待する具体的な効果として、①公務執行妨害事案の抑止 ②適正な職務執行の担保 ③警察本部などからのリモート指示━の3つを挙げている。2024年度に試験的に導入し、効果を検証した上で本格運用を検討するという。

ウェアラブルカメラを装着するのは主に、市民にとって身近な場所で活動する警察官たちだ。警察庁によると、いわゆる「お巡りさん」である地域警察官のほか、交通取り締まりや雑踏警備に当たる警察官、情報通信部の職員が使用することを想定しているという。

モデル事業で導入するカメラは合計76式(内訳:地域39式、交通18式、警備・情報通信19式)で、予算は計1000万円。ただ、警察庁は「仕様が確定していないため、 現時点でモデル事業に関して詳細を答えることは困難」と付け加え、実施自治体と配分台数は2月13日時点で確定していないという。

映像の保存期間や管理方法といった運用ルールについては「検討中」と述べるにとどめ、モデル事業の実施までに策定する予定だと説明した。

映像データの市民への開示・不開示に関しては「情報公開制度や個人情報保護制度に基づいて対応することが原則」といい、開示請求先はデータを保有する各行政機関だとしている。

「デメリット大きく、避けるべき」

━警察官がボディカメラをつけて活動することで、どのようなメリットがあると考えられますか

三島聡氏(以下略):

ボディカメラをすでに導入している国では、次のようなメリットがあると言われてきました。

①職務質問や逮捕など、市民に対する警察活動の具体的な状況について、視覚的な証拠が得られる

②映像が残ることから、警察官と市民双方の行き過ぎた言動の抑止が期待される

③①と②から、警察活動の違法性を問う損害賠償請求訴訟の提起や不服申し立てが減る

④映像が犯罪の捜査・起訴に役立つ

⑤映像を警察官の研修に活用できる

これら5点のうち、市民、特に職務質問や逮捕の対象になった人にメリットとなり得るのは①と②です。

例えば、職務質問の際に暴力をふるったとして公務執行妨害の疑いで逮捕・起訴された事例で、被告人が「関わり合いになるのが嫌なので避けて立ち去ろうとしたら、(ボディカメラを装着した)警察官が私の肩を強く掴んで引っ張ったので、軽く手で振り払おうとしただけだ」として公務執行妨害罪の成立を争った場合には、ボディカメラの録画媒体が検察側から公判廷に証拠として提出される、あるいは少なくとも公判審理前に弁護側に開示されることになります。

また、別の起訴事例で、弁護人が「警察の証拠収集の過程に違法があり、その資料は証拠として使えない」と主張する場合には、収集を担当した警察官のボディカメラの録画媒体が弁護人側に開示されることになるでしょう。

このように被告人・弁護側がボディカメラの映像を利用できるようになれば、警察活動の行き過ぎにある程度歯止めがかかるのではないかと思います。

とはいえ日本では、このような市民にとってのメリットは、かなり限定的なものにとどまるでしょう。

━なぜ限定的なのでしょうか

①〜③における市民にとってのメリットは、市民にボディカメラの映像データが開示されることが前提です。対象となった市民が起訴されて、録画中の事実について争えば、刑事訴訟法の証拠開示制度を通じて、その映像データへのアクセスが可能になります。

しかし日本では、それ以外の場合には、映像データへのアクセスは市民にとって容易ではありません。

この点、警察庁は、モデル事業を開始するにあたって、ボディカメラ映像のデータ開示の可否は「情報公開制度や個人情報保護制度に基づいて対応する」としています。

個人情報保護法は「開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると当該行政機関の長又は地方公共団体の機関が認めることにつき相当な理由がある」と判断した場合、その情報を開示しなくて良いと定めています。各地の情報公開条例も、これとほぼ同様の規定を置いていると思います。

つまり、現在の個人情報保護や情報公開の制度のもとでは、映像にうつっている本人が開示を求めても、警察側の裁量によって開示しなくて良い仕組みになっています。

職務質問や交通取り締まりなどの際に警察官の対応がいかにひどくても、刑事裁判以外の場面ではその場にいた警察官のボディカメラの映像データ全体が本人に開示されない可能性が濃厚と言えます。

警察活動の違法を問う国家賠償請求訴訟の場であっても、警察側に有利にならない録画媒体であれば、提出されないことも十分考えられます。

市民の側に情報が開示される仕組みがないままにボディカメラが導入されれば、警察活動の透明化にはつながらず、むしろ警察権限が肥大化するだけです。ここに大きな問題があります。

━海外では、ボディカメラ映像は当事者に開示されますか

アメリカでは、第三者への開示は地域によって可否が分かれていますが、撮影された本人への開示は広く認められているように思います。

2014年に米ミズーリ州で、当時18歳だった黒人のマイケル・ブラウンさんが白人警官に射殺された事件(ファガーソン事件)を機に、警察官のボディカメラ装着が全米で広がりました。

さらに、2020年に盛り上がったBlack Lives Matter運動がその動きに拍車をかけました。警察活動の透明化は、ボディカメラ導入の最大の目的でした。そうした経緯があったからこそ、市民から導入が支持されたのです。

日本でもアメリカと同様に外国人などマイノリティに対するプロファイリングの問題が起きていますが、市民の側が警察活動に関する必要な情報を得られるような仕組みになっていません。

開示制度を見直すことなく、単に警察活動をしやすくするためのボディカメラ導入は、デメリットが大きいので避けるべきだと思います。

本格導入している国々がすでにあり、議論の蓄積もあるのですから、モデル事業を始める前に、それらの国の実践も踏まえて、何のためにこの事業を開始するのか、開始に伴うデメリットにはどのように対処するのかなどを明らかにし、具体的な実施要領をしっかり作って公開するのが筋でしょう。

加えて、モデル事業の運用結果もきちんと公開するべきです。モデル事業から本格制度化へとなし崩し的に進むことが大いに懸念されます。

━他の国では、警察官にとって不都合なボディカメラ映像が削除される事案が報じられています

個々の警察官が勝手に利用や改変できないような仕組みを構築することが不可欠です。それのみならず、単に路上を歩いている人や集会に参加した人の画像を警察が自由に利用できて良いのか問題になります。個々人の行動のデータを大量に集積して解析すれば、その人の普段の行動パターンや思想も把握できてしまいます。

この点で特に問題になるのは、個人の特定が可能になる顔認証でしょう。技術的にはすでに十分可能であり、ボディカメラ導入に当たっては議論する必要があります。アメリカでは、顔認証を認めない地域もあります。

警察の画像データの無制限な利用に歯止めをかけるためには、警察から独立した機関がデータを管理し、警察が利用の目的や範囲を明確にして請求して初めてその目的・範囲でデータを提供する、といった仕組みが必要ではないかと思います。

▼三島聡氏 大阪公立大教授。専門は刑事法学。研究テーマは警察活動の透明性など。単著・共著に『刑事法への招待』(現代人文社)、『刑事司法改革とは何か』(同)など。

「人権侵害のコストも下がる」

━ウェアラブルカメラを導入する上で、どんな点に気をつけるべきでしょうか

指宿信氏(以下略):

特に重要なポイントが三つ挙げられます。

一つ目は市民のプライバシーをどう保護するか。二つ目は、警察がどんな場合に映像を利用できるかを決めること。三つ目は「いつからいつまで撮影するか」という点です。常時スイッチをオンにするのか、それとも警察官がオン・オフを切り替えるのか。後者であればどのような場面でオンにするか。

常時スイッチを入れた状態にするのであれば、それは「動く監視カメラ」になります。そうなると、街中での法執行とは関係ない撮影が大部分を占めることになるので、別立ての規制が必要になります。

米イリノイ州は、どの場面で警察官がスイッチをオンにするのかを規則で列挙しています。具体的には職務質問、交通取り締まり、犯人追跡、逮捕時などです。

日本の場合、警察官は撮影を始める前に相手の同意を得るべきで、相手が拒否した段階で原則として撮影を止めないといけません。拒否されても撮影を継続できるのは、犯人追跡時や交通違反の摘発時、危険事態などに限定されると考えます。

━ウェアラブルカメラの運用ルールについて、警察庁は「検討中」であり、モデル事業の開始までに策定すると説明しています

警察庁は、ウェアラブルカメラの運用を内規で取り決めるべきではありません。

位置情報を取得するGPS捜査の訴訟事例を振り返ると、IT技術を利用した捜査の手続きを警察が内々で決定することの危うさが分かります。

GPS捜査の違法性が争われた裁判で初めて、警察庁が全国の警察に出していたGPS捜査に関する通達(※2)の存在が明らかになりました。

GPSは装置のリースに上司の許可が必要ですが、個人で使うウェアラブルカメラは手続き上の障壁がほとんどなくなります。IT技術は確かに捜査のコストを減らすことができますが、同時に「人権侵害のコスト」も下がります。そのバランスを取るには、明確なルールと第三者のチェックが必須です。

━第三者のチェックは、具体的にどの段階で必要ですか

まず、ウェアラブルカメラの規則を作る段階で、第三者へのヒアリングや公聴会の開催など外部が介入するべきです。叩き台を作成したら、パブリックコメントを募ることも考えられます。

モデル事業の開始から本格導入まで、警察庁が想定しているスケジュールを公開し、各フェーズで具体的に何を整えるのかという工程をオープンにする必要があります。市民の暮らしへの影響が極めて大きい問題なのです。非公開のまま警察内部だけで進めるのは適切ではありません。

運用に関するルールを作った後も、モデル事業の検証と、本格導入後の定期的なチェックが欠かせません。

ウェアラブルカメラ全体に関して、国家公安委員会の責任で監督することを明確に規定するべきです。例えば、犯罪捜査のための通信傍受も国家公安委員会規則で定めており、通信傍受法は政府が実施状況を毎年、国会に報告することを定めています。ウェアラブルカメラも同様にするべきです。

その上で、不適切な撮影やデータ利用をしていないか、市民が拒否しているのに警察官が撮影を継続していないかなどを、第三者でつくる委員会が定期的に審査し、評価することが必要です。

━警察官による盗撮事件は繰り返されており、カメラが悪用されるリスクもあります

警察官にとって、秘匿撮影できる道具が身近にありすぎるのです。任意捜査という位置付けで令状なしの隠し撮りは常態化しており、同意のない撮影に対する心理的な障壁も、違法性への警戒感も低い。大分県警による隠しカメラ問題(※3)は、その象徴と言えます。

ウェアラブルカメラの導入で、違法な法執行や人種差別的な職務質問の抑止が期待できる一方で、不適切な撮影が増えてしまうのではと懸念しています。

そもそも、ウェアラブルカメラに限らず、隠しカメラなど秘匿撮影が違法に行われていないかを事後的に検証する制度がないことは大きな問題です。不適切な撮影を防ぐための教育や訓練も大切ですが、捜査機関によるあらゆる監視技術の利用について、第三者が事後的に検証し、監督する仕組みを作るべきです。

▼指宿信氏 成城大教授。専門は刑事訴訟法。単著・編著に『証拠開示と公正な裁判 増補版』(現代人文社)、『GPS捜査とプライバシー保護 位置情報取得捜査に対する規制を考える』(同)など。

(※2) 警察庁が2006年6月30日付で、全国の都道府県警察に出した『移動追跡装置運用要領の制定について』と題する通達。捜査の対象となる車両にGPS端末を取り付け、位置情報を取得する捜査を「任意捜査」とすることや、保秘の徹底として

①取り調べ時に容疑者にGPSを用いて捜査したことを明らかにしない

②捜査書類の作成時に、GPS捜査を推知させる記載をしない

③事件の広報時に、GPS捜査を実施したことを報道機関に明らかにしない

━などの規定が盛り込まれていた

最高裁は2017年、被告人の承諾のないまま被告人らの車両にGPSを装着し、位置情報を収集していた捜査手法について「個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するもの」とした上で、刑事訴訟法上、特別の規定がなければ許されない強制処分に当たると判断した。

警察庁の通達の詳しい内容は非開示とされていたが、同年の刑事裁判で、弁護側の請求に基づき東京地裁が検察側に開示を命じたことで上記のような保秘規定の詳細が明らかになった。

(※3) 大分県別府署の警察官が2016年の参院選の期間中、当時の民進党現職らの支援団体が入居する建物の敷地内に隠しカメラを無許可で設置し、人の出入りを録画していた問題

【取材・執筆=國﨑万智(@machiruda0702)】

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