「肌の色や人種が理由の職務質問は違法」と訴え。レイシャルプロファイリング巡り国などを提訴

肌の色や国籍、「人種」などを理由とした差別的な職務質問は「レイシャルプロファイリング」と呼ばれ、国連の委員会も防止に取り組むよう各国に勧告している。
記者会見を開くゼインさん(左から二番目)ら原告と弁護団=東京都内
記者会見を開くゼインさん(左から二番目)ら原告と弁護団=東京都内
Machi Kunizaki


肌の色や国籍、「外国人ふうの見た目」などを理由とした人種差別的で違法な職務質問を受けたとして、外国にルーツがある3人が1月29日、国、東京都、愛知県の三者を相手取り損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した。

警察などの法執行機関が、「人種」や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすることは「レイシャルプロファイリング(Racial Profiling)」と呼ばれる。

在日アメリカ大使館は2021年、日本の警察官によるレイシャルプロファイリングに関して異例の警告を出した。レイシャルプロファイリングの改善を求める署名キャンペーンに1万8000人以上が賛同するなど、国内でもこの問題への関心が近年高まっている。

弁護団は提訴後に記者会見を開き、「肌の色など外国ルーツの特徴を理由とした職務質問は違法。国には、レイシャルプロファイリングを是正し監督する義務がある」と訴えた。

弁護団によると、人種差別的な職務質問の違法性を問う訴訟は日本で初めてという。

日本国籍を取得するも「在留カードがないなら逮捕する」。原告が訴え

訴状などによると、原告は20〜50代の3人。いずれも外国にルーツがあり、日本で暮らしている。

原告の一人で自営業のゼインさん(26)は、パキスタンで生まれ、8歳で来日し、2011年に家族と共に日本国籍を取得した。「外国人ふう」の外見を理由に職務質問を繰り返し受けたと訴え、回数は15回ほどに上る。一日のうちに同じ場所で2度、職務質問をされたこともあるという。

ゼインさんによると、日本国籍を持つ日本人であるにも関わらず、職務質問のたびに在留カードの提示を求められるという。

2019年には、アルバイトの予定時刻に遅れていたため、名古屋駅内を早足で歩いていたところ、警察官から呼び止められ、壁際に押し付けられるようにして半ば強制的に止められたという。

在留カードの提示を求められ、ゼインさんが「在留カードは持っていません。持っていないとどうなりますか?」と尋ねると、「持っていないなら君をここで逮捕しなければならない」と警察官に迫られたと証言する。

同じ年に受けた別の職務質問では、大学から自宅への帰り道で自転車に乗っていた時にパトカーとすれ違い、「お兄さんちょっと」と呼び止められ在留カードを見せるよう言われた。在留カードはないと伝えると、今度はパスポートを見せるよう求められたため、免許証と保険証を出して自身のルーツや日本国籍を取得したことを説明したという。

それでも、警察官から「日本国籍を取ると在留カードなくなるの? 持ち歩かなくてもいいの?」となじるように問われ、困惑したと振り返る。

ゼインさんは「職務質問は犯罪防止や摘発のために大事な活動であり、その必要性は十分理解しています」とした上で、原告になると決めた理由をインタビューでこう語った。

「第一印象は『外国人』に見えても、私のように日本で育ち、日本人として生きる人はたくさんいます。『外国人ふう』の見た目で犯罪の疑いをかけられ、高圧的な態度で職務質問を受けるたびに悲しい思いをしているのは私だけではありません。

外国にルーツがあっても日本人として生きる人たちがいることを認識し、職務質問のあり方を見直してほしい。外国ルーツの人や色んなルーツをもって生まれる子どもたちにとって、生きやすい社会になってほしい。そのためには自分が覚悟を決めて、顔を隠さず前に出るしかないと思いました」

「憲法や条約に違反」と弁護団

原告の一人で南太平洋諸島の国で生まれたマシューさんは、2002年に日本国籍の配偶者と結婚して日本に移住後、永住権を取得した。これまでに100回ほど職務質問を受け、1日に2回職務質問を受けたことが4度あると主張する。職務質問を頻繁に受けることから、外出をためらい引きこもりがちになったという。

アフリカ系アメリカ人の原告モーリスさんは、日本での生活は約10年で、永住者の在留資格を持つ。2021年4月、自宅からバイクで出かけたところ、交通違反がないにもかかわらず警察官に停止を命じられ、職務質問を受けた。これまでに16、17回ほど職務質問されたという。

弁護団は、原告たちが受けてきた職務質問が、法の下の平等や幸福追求権を定めた憲法や人種差別撤廃条約などに違反すると主張。国などに対して原告一人当たり330万円の損害賠償の支払いのほか、レイシャルプロファイリングによる差別的な職務質問の運用を違法だと認めること、国は差別的な職務質問をしないよう指揮監督する義務があることの確認を求めている。

原告代理人の谷口太規弁護士は、「多くの外国ルーツの人が日本で生活し、職場で働き、家族と暮らしている。(差別的な職務質問の)影響を受ければ、日本国籍のあるなしにかかわらずコミュニティ社会全体が傷ついていく。この社会にいる全ての人にとって重要な訴訟だ」と訴えた。

国連の委員会も防止策を求める

在日アメリカ大使館は2021年12月、「レイシャルプロファイリングが疑われる事案で、外国人が日本の警察から職務質問を受けたという報告があった」として、日本で暮らす同国民にSNS上で警告を出した。

東京弁護士会は2022年、外国にルーツのある人に対する職務質問に関する調査結果を発表(有効回答数は2094件)。過去5年ほどの間に職務質問を受けた人のうち、 76.9%が「外国人または外国にルーツを持つ」こと以外に警察官から声をかけられる理由はなかった、と認識していると回答した。

調査では、職務質問の受けやすさと民族的ルーツに関連があることも明らかになった。

職務質問の回数を尋ねる質問で、「6〜9回」または「10回以上」と答えた人はアフリカ系37.1%、南アジア34.5%、中東33.3%だった一方で、韓国や中国など北東アジアは10.6%だった。「外国人ふう」の見た目により職務質問の対象とされやすい傾向が浮かび上がる。

在日アメリカ大使館による警告が2022年に国会で取り上げられた後、警察庁は全国の都道府県警察に対して調査を実施。人種や国籍などを理由とした職務質問に関する調査の結果、2021年中に6件で「不適切・不用意な言動があった」と認定している

一方、同庁はハフポスト日本版の取材に「(対応した警察官は)人種や国籍への偏見に基づく差別的な意図は持っていなかった」「警察として、レイシャル・プロファイリングがあったとは判断していない」との見解を示した

レイシャルプロファイリングを巡って、国際人権機関も各国に対策を求めている。

国連の人種差別撤廃委員会は2020年の勧告で、「レイシャルプロファイリングとの効果的な闘いには、人種差別を禁止する包括的立法が欠かせない」と強調。レイシャル・プロファイリングを禁止する法律の策定や実施を各国に求めている。

警察庁、警視庁、愛知県警察はいずれも「訴状が届いていないのでコメントは差し控えます」と述べた。

【UPDATE】2024年1月30日午前9時40分
警察庁と愛知県警察の返答を追記しました。

【アンケート】

ハフポスト日本版では、人種差別的な職務質問(レイシャル・プロファイリング)に関して、警察官や元警察官を対象にアンケートを行っています。体験・ご意見をお寄せください。回答はこちらから

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