「食べるものは、あればいい」? 続く避難生活、能登半島地震被災地の「食」の現状

東日本大震災から13年。災害大国の「食」の課題は能登半島地震でも

小魚の切れ端3本、スプーン1杯ほどのかぼちゃの煮物、大根の味噌汁、コメ。

3月、石川県珠洲市で配られた、自衛隊の炊き出しだ。2月下旬の炊き出しは、2種類の酢の物とコメだった。

能登半島地震の被災地では、今も厳しい食事が続いている。

「ありがたい」自衛隊の炊き出しの中身

3月4日の炊き出し。小魚とかぼちゃの煮物、コメ、味噌汁
3月4日の炊き出し。小魚とかぼちゃの煮物、コメ、味噌汁
住民提供
2月26日の炊き出し。酢の味の副菜2種とコメ
2月26日の炊き出し。酢の味の副菜2種とコメ
住民提供
3月12日の炊き出し。野菜のあんかけ風、ナムル、コメ、スープ
3月12日の炊き出し。野菜のあんかけ風、ナムル、コメ、スープ
住民提供

炊き出しは、県の要請を受けた自衛隊が給食しているが、献立を決め、食材を調達しているのは、被災した珠洲市だ。

ある日の昼食は、肉じゃがの予定だったが玉ねぎがなく、担当した隊は料理を変更。レトルトパックの中華丼の具を温めて配った。隊員らが「おかずがこれだけでは」と機転を利かせて味噌汁をつくり、メニューに加えていた。

珠洲市が用意した、炊き出しの献立表。調理する自衛隊員は「昼だけでなく夕飯の材料のストックも切れていて、献立を変更した」と語った
珠洲市が用意した、炊き出しの献立表。調理する自衛隊員は「昼だけでなく夕飯の材料のストックも切れていて、献立を変更した」と語った
Photo by Naoko Kawamura

珠洲市危機管理室によると「住民から不満の声は出ていない」。実際、炊き出し場所の近くで声を聞くと「地震直後の頃に比べれば随分良くなった」「頂けるだけでありがたい」「内容をあれこれ言える立場じゃない」などと答える人が多かった。

自宅が全壊し、会社の倉庫で寝泊まりを続ける女性(55)は「地震から2カ月以上が過ぎて、みんな疲れている。避難所での自主的な炊き出しを手伝っているが、自分で何もしなくていい温かな配食があるだけで助かる」と話していた。

今もカップ麺やパンでしのぐ

同市では1100人以上が、避難所または自主避難所での生活を強いられている(3月11日現在)。ほとんどの地域で断水が続いており、自宅での調理が難しい在宅避難者も多い。

だが市によると、自衛隊がつくるのは朝昼夕合わせて1日約1300食分。自衛隊が給食していない地域では、ボランティアによる炊き出しや、支援物資のアルファ化米やパン、缶詰、カップ麺などで対応している。

炊き出しの味噌汁を配る自衛隊員ら
炊き出しの味噌汁を配る自衛隊員ら
Photo by Naoko Kawamura

災害救助法には、炊き出しを含む食に関する支出は1人1日あたり1230円以内、という一般基準が設けられているが、県は実情に合わせて加算した特別基準を設定できる。市は長期にわたるボランティア団体の炊き出しについて、食材費を災害救助法の対象とする予定で、自衛隊の炊き出しメニューについても「金額が理由ではない。必要な食数を把握するのが難しい。多めに作って無駄にできない」と説明する。

今後は、被災して営業できない複数の飲食店に弁当づくりを担ってもらい、雇用もつくっていけるよう調整しているという。

避難所に並ぶアルファ化米や非常食パン
避難所に並ぶアルファ化米や非常食パン
Photo by Naoko Kawamura

必要数の把握は困難

仮設住宅の建設やライフラインの復旧具合など、被災地の状況は日々刻々と変わる。自炊できるようになる人がいる一方で、市外の2次避難所から戻ってくる人もいる。

県栄養士会によると、県内の栄養士らは、日本栄養士会の協力を得ながら指定避難所を回り、困りごとを聞いたり、栄養素ごとに支援物資を整理したりして、被災者自身で不足した栄養素を補いやすいよう工夫しているが「自主避難所や在宅避難者の対応までは行き届かない」。

高齢者施設から1.5次避難所に避難した人たちなどへの、嚥下状態に合わせた食事の提供も担っており、人手が足りないという。

珠洲市内の避難所。自主避難所を含めて44カ所に1100人以上が避難している
珠洲市内の避難所。自主避難所を含めて44カ所に1100人以上が避難している
Photo by Naoko Kawamura

体をかたちづくる「食」、災害では後回しに

仙台白百合女子大学・健康栄養学科の佐々木裕子教授は、災害時に家の片付けや瓦礫の撤去などが優先され、食が後回しにされることを危惧する。

佐々木教授は、東日本大震災翌日の3月12日から7週間にわたり、宮城県女川町で避難所の食事を調査した。5大栄養素のすべてが目標値を下回る避難生活が続いたことは、住民の後々の健康状態に影響したという。

災害時の食の支援は高齢者や妊産婦に目が行きがちだが、被災した子どもたちは菓子類で気を紛らわせる機会が増え、その成長に差が見られた。健康な大人であっても、タンパク質不足で胃や腸などの臓器や粘膜の修復機能が弱ったり、カップ麺やレトルト食品による塩分の摂りすぎで高血圧になったり、生活習慣病が進行した。

だが当時、保健所などの会議で食の重要性を訴えても「パンやおにぎりを出している。ぜいたくを言うな」と反発を受けたという。「食べるものはあればいい、という感覚。それは今も変わっていないのではないでしょうか」

佐々木教授は、行政の役割について「外部の人間が食の調査や助言をしても、実際の施策を決めるのは市や町です。市や町は、本気で住民の栄養を考え、SOSを外部に発信する。県や国は、在宅避難者の数や年齢層の把握を含め、必要な支援を行う。その両方が大切です。食の影響は、明日すぐに結果が出る、というものではなく、長期的に見ていく必要があります」と指摘する。

今後起こりうる災害への備えとして「食に困ったとき、住民、ボランティア団体、公的機関の3者がどう動くのか。地方自治体は、平時からネットワークをつくり、防災訓練のように『災害食の訓練』をしてほしい。迅速な食材調達のためには、機動力のある全国規模のスーパーなどと協定を結んでおくことも有効です」と提言。また「国が整備して、被災地で活動するキッチンカーの数が増えれば、生野菜や果物なども加えられて、食のバリエーションが早期から広がる。彩り良く、野菜、生もの、温かいもの、ご飯が揃えば、人は元気になっていきます」と語った。

(取材・文=川村直子)

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