【判決要旨全文】東京地裁が「違憲状態」と判断した理由は? (結婚の平等裁判)

結婚の平等訴訟・東京2次訴訟の判決要旨全文を掲載する。
判決後に裁判所前で報告する原告ら
判決後に裁判所前で報告する原告ら
HuffPost Japan

法律上同性カップルの結婚を認めるよう求め、性的マイノリティ当事者が国を訴えていた裁判で、東京地裁(飛澤知行裁判長)は3月14日、「婚姻や家族の法律は、個人の尊厳に立脚して制定すべき」と定めた憲法24条2項に違反する状態との判断を示した

この裁判は「結婚の自由をすべての人に」訴訟と呼ばれ、東京地裁(2次訴訟)と札幌、東京(1次訴訟)、名古屋、大阪、福岡の5高裁で行われている。原告はいずれも「法律上同性カップルの結婚が認められないのは、結婚の自由や法の下の平等を保障した憲法に違反する」と訴えている。

14日に判決が言い渡された東京2次訴訟は最後の地裁判決で、6つの地裁判断で5件目の違憲・違憲状態判決となった。

東京地裁はなぜ「違憲状態」と判断したのか。判決要旨全文を掲載する。

【判決要旨・全文】

令和6年3月14日(木)午前10時30分判決言渡し (103号法廷)

令和3年(ワ)第7645号

原告ら (閲覧制限) 8名

被告 国

判決要旨

第1 事案の概要及び本件の争点

1 本件は、法律上同性の者同士 (以下「同性カップル等」という。)の婚姻を希望する原告らが、 現行の法律婚制度を利用できる者を法律上異性の者同士(以下「異性カップル」という。)の婚姻に限定している民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)が、憲法14条1項、24条1項及び同条2項に違反するにもかかわらず、被告が、正当な理由なく長期にわたって、同性カップル等の婚姻を可能とする立法措置を講ずるべき義務を怠っているなどと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料各100万円及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

2 本件の主たる争点は、本件諸規定が、①憲法24条1項に違反するか、②憲法14条1項に違反するか及び③憲法24条2項に違反するかの3点である。

第2 主文

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第3 理由の骨子

1 本件諸規定が憲法24条1項に違反するかについて

(1) 憲法24条1項の「両性」及び「夫婦」という文言からすれば、 同条は、異性カップルの婚姻を想定しており、また、明治期における民法の学説、憲法の制定過程及びその審議過程並びに昭和22年の民法改正時の国会審議の状況等を踏まえると、同性カップル等の婚姻については、検討対象の範囲外であったといえる。そうすると、憲法24条1項は、同性カップル等の婚姻を想定していないものといえるから、(同項が、) 当初より、同性カップル等の婚姻(の自由) を保障するよう要請していたとはいえないというべきである。

(2) また、法律婚制度の対象としては、社会的承認を受けた人的結合関係が想定されているところ、確かに、国民の婚姻に対する意識の変化及び諸外国の婚姻制度に係る動向に伴い、婚姻が、異性カップルのみに認められるべき法制度であるとは当然には解されない社会状況になってきている。しかし、他方で、婚姻等についての意識調査の結果によれば、婚姻は、単純な男女の性関係ではなく、男女の生活共同体として子の監護養育や分業的共同生活等の維持によって家族の中核を形成するものといったような伝統的な婚姻の捉え方が、なお、相当程度あることがうかがわれる。そして、同性カップル等の婚姻についての賛否等に関する意識調査において、反対の意見を有している者の割合が少なからずいるという事実も、上記のような婚姻の捉え方が反映されている面があることは否めない。また、諸外国の中には、同性カップル等の婚姻を法制度としては認めないものの、婚姻類似の制度によって、同性カップル等に対し、婚姻類似の保障を与えようとしている国が存在する。

このような諸事情を踏まえると、同性カップル等に対し、異性カップルの婚姻と全く同一の婚姻に係る法制度を認めるべきかどうかについては、依然として慎重な検討を要する状況であり、憲法制定時から現在までの社会状況の変化等を踏まえても、現時点において、なお、同性カップル等に対し、異性カップルの婚姻と全く同一の婚姻に係る法制度を認めることに対する社会的承認が得られるに至ったとまでは認め難いといえるから、憲法24条1項が、同性カップル等の婚姻(の自由)を保障するよう要請するに至ったとまでは認められない。

(3)したがって、本件諸規定が憲法24条1項に違反するということはできない。

2 本件諸規定が憲法14条1項に違反するかについて

(1)本件諸規定における「夫婦」とは、法律上の男性である夫及び法律上の女性である妻を指すものとされ、同性カップル等の婚姻は認められていない。そうすると、本件諸規定は、同性カップル等と異性カップルとの間で、性自認及び性的指向に基づく区別取扱い(以下「本件区別取扱い」という。)をしているといえる。

(2)しかし、前記1のとおり、憲法制定時から現在までの社会状況の変化等を踏まえても、現時点において、憲法24条1項が、同性カップル等の婚姻を保障するよう要請するに至ったとまでは認められないことからすれば、同項は、その文言どおり、異性カップルの婚姻のみを保障し、それに基づき、同条2項は、異性カップルの婚姻に係る法制度の立法を要請しているものといえること及び、同性カップル等に対し、異性カップルの婚姻と全く同一の婚姻に係る法制度を認めるべきかどうかにつき、依然として、慎重な検討を要する状況であるといえることからすれば、本件諸規定は、異性カップルの婚姻に係る法制度の立法を要請している同条2項に基づき、婚姻の主体を、異性カップルのみとしているにすぎないといえる。

(3)したがって、本件区別取扱いが、直ちに、国会に与えられた裁量権を考慮しても合理的な根拠が認められないとまではいえないから、本件諸規定が憲法14条1項に違反するということはできない。

3 本件諸規定が憲法24条2項に違反するかについて

(1)婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が、憲法24条2項にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断するのが相当である。

(2)この点、本件諸規定が、婚姻の主体を異性カップルのみとし、同性カップル等に婚姻やこれに類似する制度が設けられていないことによって、同性カップル等は、①婚姻したことにより得られる民法の各規定の適用や、税・社会保障に係る優遇措置の適用等に伴う法律上の利益、②人的結合関係を社会的に公証されるという利益及びそれに伴う医療機関においてパートナーの診察状況を当然に知ることができること、医療保険等の受取人に指定できること等の事実上の利益といった個人の尊厳に関わる重要な人格的利益を一切享受することができない状況にある。また、自己の性自認や性的指向を変更することができないことや、現在の医学の見地からすれば、性的少数者に係る性自認及び性的指向は、自らの意思等により変更することができないその人自身の特質又は個性というべきものであるといえるから、自己の性自認及び性的指向に即した生活を送るということは、重要な人格的利益に根差したかけがえのない権利であるといえる。しかし、同性カップル等が、本件諸規定によって、婚姻をする機会を一切与えられていないという事実は、自己の性自認及び性的指向に即した生活を送ることを阻むことにほかならないといえる。

以上のとおり、同性カップル等が、現状、人格的利益の享受について大きな不利益を被っており、また、昨今の国際的な潮流や、日本における国民の婚姻に対する意思の変容も踏まえれば、婚姻の主体を、異性カップルのみにすべきであるといった伝統的価値観は、揺らいでいるといえる状況にある。それにもかかわらず、本件諸規定が、同性カップル等の婚姻を認めず、また、法律上、同性カップル等が婚姻による法的利益と同様の法的利益を享受したり、社会的に公証を受ける利益を享受したりするための制度が何ら設けられていないのは、同性カップル等が、自己の性自認及び性的指向に即した生活を送るという重要な人格的利益を、同性カップル等から剥奪するものにほかならないから、本件諸規定及び上述したような立法がされていない状況は、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理的な理由があるとは認められず、憲法24条2項に違反する状態にあるというべきである。
(3) もっとも、同性カップル等の婚姻等に係る法制度の在り方については、その時々の社会構造や国民の意識等の変化に対応する形で決せられるべきものであると ころ、同性カップル等が婚姻による法的利益と同様の法的利益を享受したり、社会的に公証を受ける利益を享受したりするための制度の構築については、なお、複数の選択肢があるといえ、そのような制度設計については、国会の立法裁量に委ねられているといえる。そうすると、本件諸規定が改廃されず、法律上、同性カップル等が婚姻による法的利益と同様の法的利益を享受したり、社会的に公証を受ける利益を享受したりするための制度が立法されていない状況が、現段階において、直ちに、憲法24条2項に違反するとまでいうことはできない。

4 結論

以上によれば、本件諸規定を改廃していないことについて、被告に国家賠償法1条1項の違法があるということはできないから、原告らの被告に対する請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

第4 担当部及び担当裁判官

民事第44部

裁判長裁判官 飛澤知行

裁判官 金田健児

裁判官 川本涼平

以上

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