アメリカの南カリフォルニア大学(USC)は4月15日、2024年の卒業生総代のスピーチを取りやめると明らかにした。
卒業生総代の学生はイスラム教徒で、親パレスチナの姿勢を表明していた。
名門私立大学として知られるUSCの2024年卒業生総代に選ばれたのは、医用生体工学を専攻し、副専攻で大量虐殺への抵抗を学んだアスナ・タバサムさんだ。
アンドリュー・グスマン学長は、スピーチ中止の理由を「ソーシャルメディアと、現在起きている中東の紛争に煽られた激しい感情の高まりが、卒業式のセキュリティと混乱の重大なリスクを生み出している」からだと説明している。
「慎重に検討した結果、卒業生総代によるスピーチを行わないことを決定しました。残念ではありますが、伝統は安全に道を譲らねばなりません」
一方、タバサムさんは「自分の大学、4年間過ごした場所が私を見捨てたことに驚いています」とハフポストUS版の取材で述べた。
タバサムさんは学長発表と同日の15日に「米イスラム関係評議会(CAIR)」に声明を掲載した。
その中で「大学に、具体的な脅威の根拠を提供するよう求めたものの拒否された」と説明。「安全のみを根拠に、スピーチを中止したかどうかについて重大な疑念が残る」としている。
タバサムさんは「大学側から『スピーチのために適切な安全策を講じることはできるものの、大学が打ち出したいイメージではないため、警備を強化するつもりはない』と言われた」とも述べている。
USCなどの大学が、厳戒態勢を敷いてバラク・オバマ元大統領やラッパーのトラヴィス・スコット氏、極右活動家のマイロ・ヤノプルス氏など、時には論争の的になるような著名人を招くのは珍しくない。
タバサムさんは、「これまで大学は多くの安全策を講じて、私より物議を醸す人や重要な人物のスピーチの場を設けてきました」とハフポストUS版の取材で指摘した。
「私は卒業生総代であり、大学が学生の代表として選んだ人間です。もし、大学が安全を理由に中止の決定をしたのであれば、大学はキャンパスを訪れた他の人々は守ったのに、私は守らないと決めたのだと受け止めざるを得ません」
USCの学生新聞デイリー・トロージャンによると、卒業生総代が発表された後、イスラエルを支持する一部の学生や卒業生が、タバサムさんがソーシャルメディアのプロフィールにパレスチナを支持するリンクを載せていることなどを批判していた。
USCは、スピーチ中止の決定は「言論の自由とは無関係で、キャンパスの治安と安全の維持を重視した結果」と説明している。
しかし、イスラム教徒のイルハン・オマル連邦下院議員は、大学の決定を「言論の自由に対する攻撃」とXで非難している。
「恥ずべきことであり、言論の自由に対する直接的な攻撃です。彼女は長年の努力と優秀な成績で、卒業生総代の座を勝ち得たのです。マイノリティの学生に対する偏見を常態化させてはなりません」
イスラエルの攻撃により、パレスチナ・ガザ地区では10月7日以降3万3000人以上が死亡している。
大学でもイスラエルに対する抗議運動が広がる中、大学側はキャンパスで増加する反ユダヤ主義やイスラム嫌悪への対応に苦慮している。
南アジア系アメリカ人でイスラム教徒のタバサムさんは、「自分のコミュニティーの代表として、重要なスピーチをする姿を見てもらう機会を奪われた」と語った。
「USCのような教育機関でも、私たちは成功できるという希望を伝えたいと思っていました。どうすれば、私が代表するコミュニティーだけでなく、すべてのコミュニティーのために人権の表現を守れるのでしょうか?」
卒業式は5月10日に開かれ、卒業生約1万9000人を含む約6万5000人が出席する予定だ。
USCのアネンバーグ・メディアよると、大学はタバサムさんに代わる卒業生総代スピーチは行わないとしている。
タバサムさんは声明で、スピーチでは希望のメッセージを伝えたかったと語っている。
「私はジェノサイドへの抵抗を副専攻して、恐怖に煽られた憎しみから、普通の人々が言葉にできない暴力行為に及ぶこともあるのだと学びました」
「恐怖が蔓延しているからこそ、私は卒業式のスピーチでクラスメートを希望のメッセージで鼓舞したいと思っていました。USCはスピーチを中止にすることで、恐怖に屈し、憎しみに報いるだけです」
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。
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