「除染土は福島県外で最終処分」7割の高校生が認識せず。「東北電力福島第一原発」と誤答も【1000人調査】

除染土の最終処分、福島第一原発の経営主体ーー。このような話を知らない「災害記憶消滅世代」に関するアンケート結果が公表されました。【メディアと差別】

東京電力福島第一原発事故の除染で出た「除染土」は、中間貯蔵施設開始から30年以内に福島県外で最終処分されると法律で定められているーー。

この問いについて、「知っていた」と回答した高校生は、県内外ともに3割程度にとどまることがわかった。東日本大震災・原子力災害伝承館(福島県双葉町)と東京大学(東京都文京区)の共同調査で判明した。

また、7割が「福島第一原発でつくられた電気は全て首都圏などに送られていた」ことを認識しておらず、半数が福島第一原発の経営主体が東京電力であると答えられなかった。

東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から13年。調査は、災害の実体験の記憶がほとんどないと思われる若い世代で、「知識や関心を高める努力が必要である」と指摘している。

震災当時は2〜5歳の「災害記憶消滅世代」

調査は2023年12月18日〜24年3月11日、高校生を対象にウェブフォームを用いて実施した。東京圏8校に通う642人と、福島県内5校に通う271人が回答した。

調査対象となった高校生(15〜18歳)は、震災と原発事故があった2011年当時は2〜5歳。十分に物心がついていなかったと思われ、調査ではこの世代を災害記憶消滅世代」としている。

また、この調査は、伝承館の中高生研究プログラム「福島学カレッジ」に参加する成城学園中学校高等学校2年の井上天凱さんが主導。福島の被災地を研究する社会学者で、東京大学大学院情報学環の開沼博准教授が統括した。

同種のテーマについて、高校と大学の連携による大規模な社会調査は初めてという。

世代間で「認識の断絶」も

調査によると、「除染土は中間貯蔵施設(双葉、大熊両町)開始から30年以内(2045年3月まで)に福島県外で最終処分されると法律で定められていることについて、「よく知っていた」「少し知っていた」と回答した人は、全体で31.2%にとどまった。

内訳は、東京圏が31.4%、福島県が28.5%と、県内外で大きな差はなかったが、この結果と環境省の調査(2023年)を比較すると、「災害記憶消滅世代」とそれ以上の世代との間に「認識の断絶」が生じていることが明らかになったという。

環境省の調査は20〜74歳の成人を対象に行われたが、前述した最終処分に関する認知度は、福島県内が54.8%、県外が24.6%だった。

つまり、県内は県外の2倍超の認知度があったが、今回の「災害記憶消滅世代」は県内外で大きな差はなかったことから、福島県内で生まれ育ったり、暮らしたりしているだけではなく、意識して知識や関心を高める努力をしなければ、身につくものではない」ということがわかった。

また、「福島第一原発でつくられた電気の消費地」について7択で問うと、「すべて首都圏などに送られていた」と正確に答えた人は30.1%にとどまった。

残りの約70%は、「首都圏への供給は一部」や「東北地方・福島県に一部または全部が供給されている」と誤解していた。地域別の正答率は、福島県(37.3%)が東京圏(27.1%)を上回った。

さらに、「福島第一原子力発電所の経営母体」について8択で尋ねると、「東京電力」と正答した人は52.4%だった。残りの半数は実在しない「東北電力福島第一原発」や「福島電力福島第一原発」を選んだという。

この結果が特異なケースではないことを示すため、福島県内の大学に所属する1年生145人(2024年4月時点)に同様のことを尋ねたところ、「東京電力」と答えた人は51.7%と同程度で、今回の調査と大きな差はなかった。

除染土を保管する中間貯蔵施設(2022年2月22日、福島県大熊町)
除染土を保管する中間貯蔵施設(2022年2月22日、福島県大熊町)
時事通信

原発事故のメカニズムも正答は4割弱

このほか、原発事故のメカニズムを7択で聞いたところ、「原子炉が冷却できなくなり、燃料が溶け落ちた」と正確に答えた人は37.9%(東京42.1%、福島28.0%)にとどまり、残りは「原子炉が加熱できなくなり」や「燃料が爆発」など誤った回答を選んだ。

除染の方法についても、7割が「時間が経つのを待つ」「盛土する」「除染剤を配布する」などと誤答し、「表土をはぎ取る」と正しい答えを選んだ人は32.7%だった(東京27.4%、福島45.4%)。

体内の放射性物質量や自然被ばく放射線量については、基礎知識が普及していないことがわかった。

「体重が60kgの日本人の場合、体内に含まれる放射性物質」を「7000ベクレル」と正答できた人は7.3%日本人の自然被ばく量の年平均を「2.1ミリシーベルト」と正答できたのは22.8%だった。

一方、除染土の最終処分について「知っていた」と答えた層は、ほかの知識への正答率も高い傾向にあった。

この層に対し、「除染土の最終処分に関する知識を何で情報を得ましたか」と聞いたところ、71.5%が「テレビ」、42.7%が「学校」と回答した。「新聞や雑誌にはそもそも接触せず」は約5人に1人の割合だった(21.5%)。

また、福島県立医大に通う学生145人に延べ15分の講義をし、その2週間後に抜き打ちで同じ内容の調査を実施したところ、「福島第一原子力発電所の経営母体の正答率は51.7%から96.6%に、原発事故のメカニズムの正答率は29.3%から92.4%にそれぞれ増えるなど、認知が大きく改善された。

調査は、「テレビ番組の災害に関する報道の内容、学校での震災・原発事故による学習や現地訪問も一定程度進んでいるが、その教育内容や現地プログラムの教育効果には大きな不足があることが示唆された」と分析。

「短時間でも専門家による講義などを実施すれば状況は劇的に改善されることを踏まえ、今後の災害伝承が進められる必要がある」と指摘した。

調査を統括した開沼准教授は取材に

今回の調査では、除染土の最終処分に関する話や、首都圏に電気が送られていたこと、福島第一原発の経営主体などについて知らない若い世代が多くいることが示された。

この結果について、専門家はどう捉えたのだろうか。

調査を統括した開沼准教授はハフポスト日本版の取材に、「最低限の事実が共有されていないことが、今も被災地に残る課題の解決を困難にしている」と指摘。

その上で、「国立国会図書館も掲げる『真理がわれらを自由にする』という言葉があるが、多くの人が『真理』となる事実を共有することが民主的な議論を促し、社会課題から私たちを解放する」と述べた。

特に、除染土の県外最終処分・再生利用の促進は、中間貯蔵施設周辺の住民にとって切実な願いだ。この問題の背景には、福島で生産された電力が首都圏の消費、日本全体の経済成長を支えてきたという事実もある。

しかし、震災と原発事故後の13年間でこのような経緯や事実が十分共有されず、「災害記憶」のない新たな世代が社会に出る年齢になってきた。除染土を最終的に県外で処分するという取り決めにも影響するのではないか。

開沼准教授は、「個人が政治的な問題に関わる上では、幅広い『真理』の共有は不可欠。それこそが民主主義の大前提となる」とし、次のように話した。

「差別につながる情報を発信する一部メディアや党派・活動家は、事実として存在する地域の思いや歴史を看過してきた傾向がある。無知につけ込む形で、除染・中間貯蔵問題を解決困難にするような印象操作や世論誘導が国内外で生まれかねない状況は依然としてある」

「その被害のしわ寄せは、最も苦しんできた被災者にもたらされる。いまも残る被災地の難題の解決のため、13年たった今だからこそ改めて事実の共有の重要さを私たちは認識すべきだ」

また、開沼准教授は、福島の話を含む政治や社会問題については、正面から向き合わなければならないと語った。

例えば、「誤認識を持つ人を専門家が科学のこん棒で殴るな」といった“対立回避”を促すような言説が唱え続けられてきた結果、調査で現れたような「無知」が広がって強固に根付いた上、差別と分断を残し、事実共有の抑制に直結してきた、との見解を示した。

さらに、除染土の最終処分に関する知識は「テレビ」で得ている人が多く、「新聞や雑誌にそもそも接触しない」という割合が約5人に1人に上るという調査結果についても触れた。

「漠然とつけていたテレビからたまに流れてくる福島の話がかろうじて、数少ない学習機会になっている」

「子ども・若者は他の世代より相対的に変化する余地をもっている。それは『学校』という『専門知・専門家に接することができるメディア』に常にアクセスできる立場にあるからだ。授業や課外活動は『番組』で、その質を上げる必要がある」

「出演者」(誰が教えるのか)や「番組」(何を教える)の内容を考えることが重要で、それは「福島について正確な事実をおさえてきた専門家による教育の機会を、義務教育段階、高校・大学でも増やしていくことで補完可能だ」とも述べた。

開沼博准教授
開沼博准教授
開沼博准教授提供

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