言葉はよく聞くけど「カミングアウト」って何?学校の友達や家族への伝え方は?実際、どうやって話した?
カミングアウトについて気になる質問を、LGBTの子ども・若者の居場所を作る一般社団法人「にじーず」代表の遠藤まめたさんに聞きました。
(初出:BuzzFeed Japan News 2023年1月23日)
「LGBT」:性自認が女性で同性を好きになるレズビアン(L)、性自認が男性で同性を好きになるゲイ(G)、性的指向が男女どちらにも向くバイセクシュアル(B)、出生時に割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダー(T)の頭文字をとった言葉
「性自認」:自分の性別をどのように認識しているかということ
「性的指向」:恋愛感情や性的関心がどんな人に向くか向かないかということ
「してもいいし、しなくてもいい」カミングアウトは自分のタイミングで
ーまず、カミングアウトとは、なんですか?
すごく簡単に言うと、カミングアウトとは、自分がLGBTなどの性的マイノリティであることや、あるいは「そうかもしれないと思っている」と周りに話すことです。
なんでカミングアウトするかというと、黙っていると今の社会では、周りの人が勝手に「この人は異性が好きなんだ」と思ったり、見た目の性別で「この人は男だ」「この人は女だ」と自分が思っているものと違う性別だと捉えたりすることが多いからです。
黙っていると誤解されてしまうので「周りが思っていることが違うよ」と伝えることがカミングアウトです。
自分の性別や、自分が好きな人の性別について、周りに本当とは違うことを思われたり言われ続けたりしたら、居心地が悪かったりすると思うんですよね。
「本当は同性の人が好きなのに困ったな」とか「話を合わせなきゃいけないな」とか。
または「本当のことを言ったら相手がびっくりするかな」「ひょっとしたら相手に偏見があって酷いことを何か言うかも」と不安に思いながら、その人と遊んだり話したりということが続いていくと、だんだんつらくなってくるかもしれません。
「本当のことを言えたらいいのにな」と思うこともあると思います。
そんなとき、「本当のことを言って、もっとその人と仲良くしたい」「安心して、その人と遊んだり話したりしたい」というような気持ちでカミングアウトする人が多いかなと思います。
ーカミングアウトするタイミングについては、どうやって決めたらいいと思いますか?
「カミングアウトしてもう少し仲良くなりたいな」とか、「話しても信頼できそうで、否定する変なことを言う人ではないな」という相手ができたら、準備をしたらいいと思います。
どう言葉で説明したら相手に伝わりやすいのかや、話しやすいタイミング、誰にどこまで話すのかなど、あらかじめ考えてみましょう。誰に話すかを考える時も、ちょっと作戦を立てた方がいいですね。
例えば噂好きで秘密を喋ってしまいそうな人に話すと、本当はその人だけに話したくても、学校のクラス中の人に知れ渡ってしまうかもしれません。
ある人がLGBTであることを、勝手に周りの人が話してしまうことを「アウティング」といいます。
アウティングはしてはいけないことなのですが、残念ながら秘密を守ってくれない人もいます。
約束をちゃんと守れる口がかたい人なのかを気にした方がいいかもしれませんし、その人がLGBTについてどれくらい知っているかも、もし事前に探れそうだったら探ってみたらよいかもしれません。
例えば、自分が読んでいるLGBTの登場人物が出てくる漫画を貸してみて、感想を聞いてみるのもいいですね。そのときに差別的なことを言っていたら、その人へのカミングアウトは少し考え直したらいいかもしませんね。
「今の名前で呼ばれるのが実は好きじゃないから、この名前で呼んでほしい」みたいに、相手に変えてほしいことをカミングアウトの時に一緒に伝えるのも良いかもしれません。
ーカミングアウトはしないといけない?しなくてもいい?
カミングアウトはしなくてもいいし、してもいいです。
それは自分で考えて決めることなので、周りが「こうした方がいい」っていうものではないです。
カミングアウトしていないことで、相手と仲良くできていないと感じたり、「『本当の自分』を知っている友達が一人もいないんじゃないか」「家族にも嘘をついてしまっている……」と気分が落ち込んだりしてしまう人も多いようです。
一つ覚えていてほしいのは、あなたがもし黙っていることがつらいなら、それはあなたのせいじゃないということ。
もともと周りの人が勝手にあなたの性別や好きな人について決めつけてしまうことが、困りごとが発生している原因です。
周りの人があなたのことを誤解しているとしたら、その人たちが周りにLGBTの人がいることを知らないからであって、カミングアウトしていないあなたの責任じゃないんです。
だから「自分のせい」だとか、「自分が黙ってるからいけない」とかいうふうには思わないでほしいなって思います。
カミングアウトしていないことで、自分のことを責めないでほしいです。
ー家族へのカミングアウトについて、アドバイスはありますか?
結構、話すのが怖いと思う人が多いんじゃないかなと思います。
家族って毎日一緒にいることがほとんどだし、友達は辞めようと思ったら簡単に辞められるけど、家族は簡単には離れられませんよね。
だから、「カミングアウトがうまくいかなかったらどうしよう」と心配になってしまうかもしれません。
家族へのカミングアウトも、できれば準備した方がいいですね。
LGBTの登場人物が出てくる漫画やドラマなどを家族と一緒に読んだり見たりして、「お母さんの友達にもこういう人いるの?」と聞いてみるのも一つの手。
または、「お父さん、LGBTのこととか勉強したことあるの?」とさりげなく聞いてみるのも手かもしれません。
最近だと、職場でLGBTについての研修があるところもあるので、勉強をしたことがあるかもしれません。
そうだとしたら、カミングアウトするのも少し安心できますよね。
でも一つ知っていてほしいのは、家族へのカミングアウトは友達へのカミングアウトよりも、理解に時間がかかってしまうこともあるということです。
家族は関係性が近い分、友達以上にカミングアウトされた側もすごく考え込んでしまう場合もあります。
自分の子どもの将来について思い描いている家族もいます。例えば「この子は将来は結婚して孫が生まれて……」とイメージしている家族にとっては、カミングアウトされたことで、それと違った将来を受け止めるのに時間がかかる人もいるようです。
言われてから受け止めるのに1ヶ月や、半年、数年以上かかる人もいます。
でも、「受け入れられていない」と感じても、時間が経つことで変わっていくこともあると思います。カミングアウトを一回して終わり、にはならずに何度も話をすることになるかもしれません。
家族へのカミングアウトは、自分の体力やエネルギーも使うから、自分が元気な時に、何度か話をしていくんだというイメージを持つといいかもしれませんね。
ーなるほどです。でもそれを知っておくだけで、一回の話で「なんで受け入れてくれないんだろう」って傷つきすぎずに済むかもしませんね。
「家族だからわかってくれる」というアドバイスをくれる人もいるんですけど、実際にはそうではなくて、家族だからこそたくさん考えてしまうこともあると思います。
子どもが幸せになれるのかどうか分からなくて心配する親もいます。
親も友達にLGBTの友人がいたことがない人が多いから、幸せに生きられないんじゃないかと思って、せっかく話をしてくれた子どもにつらく当たる人もいる。
子どもに興味がないからではなくて、幸せになってほしいからこそ親が悩んでしまうこともあります。
家族のメンバーの中でも、一番打ち明けやすい人から話して、仲間を増やしていくというのも作戦の一つです。
友人、家族にどう話す?遠藤さんの場合
ー遠藤さん自身は、どうやってカミングアウトしましたか?
友達に関しては、高校2年生の時に、当時バンドを組んでいた仲の良い友達にまずカミングアウトしました。
自分はトランスジェンダーだという話をして、高校時代は全員で20人くらいの友達に、個別で会って話したり、メールで伝えたりしました。あんまりネガティブな反応はなかったです。
当時は、学校の制服がスカートで嫌だったんですけど、その悩みも一緒に考えてくれたり、一緒に旅行にいく時にはお風呂に一人で入れるように宿の人に交渉してくれたりもしました。
ー家族はどうでしたか?
家族はまず、高校2年生の時にお母さんに話しました。
お母さんはトランスジェンダーの人を見たことがなかったから、子どもの人生がどうなるのか想像がつかなくて、すごく心配していました。
その話になると気まずくなってしましました。その後10年くらい、就職するまではその話を家の中ですると緊張が走っていました。
お父さんは、職場にトランスジェンダーの人がいたので、トランスジェンダーについては知っていました。でも、仕事につけるのか心配はしていました。
ー逆に、もし自分が周りの人からカミングアウトを受けたらどう反応すべきですか?
一つの正解があるわけじゃないと思います。
話を聞いた時に、びっくりしたり、なんで話してくれたんだろうと思ったり、うれしかったり、なるほどなと思ったり……。きっと色々なことを考えると思うんですけど、まずは「相手になんて言葉を返すのか」は自分で考えることが大事かなと思います。
なんで話してくれたのかを聞いてみたり、困っていることがあって工夫できることがあれば教えてねと聞いてみたりすることもできると思います。
黙ってるのがつらくなったから話したのかもしれないし、何か困っていることがあって、相談がしたくて話してくれたのかもしれない。全然困っていないけれど、単に「知っておいてほしかっただけ」なのかもしれません。
「全然自分は詳しくないから、おすすめの本やYouTubeチャンネル教えて!」とか、「LGBTのこと、自分も一緒に学びたい!」みたいに「知りたい」という気持ちを伝える方法もいいかもしれません。