東京プライド、今年のスポンサーにBDS対象なし。イスラエル支援企業のボイコット呼びかけ団体からは「非常に勇気のあるもの」と歓迎の声

昨年の東京プライドのスポンサーに含まれていたBDS運動の対象企業は、今年は協賛企業に含まれていないことが分かった。

日本最大級のLGBTQ+関連イベント「東京プライド」(旧・東京レインボープライド)のスポンサーに今年は、イスラエル支援企業に抗議するBDS(ボイコット、投資撤収、制裁)運動の優先リスト対象企業が含まれていないことが分かった。

2024年にクィアコミュニティの一部から、東京プライドのスポンサーにBDS運動の対象企業が含まれていることへの批判が上がっていた。今年の協賛に、昨年スポンサーとなっていたBDS対象の8企業が含まれていない経緯については明らかにされていないが、BDS運動の関係者は「非常に勇気あるもの」「歓迎する」としている。

Tokyo Pride 2025
Tokyo Pride 2025
Sumireko Tomita/ HuffPost Japan

今年はBDS対象企業、協賛せず。昨年からの経緯は

BDSは、イスラエルによるパレスチナ占領やパレスチナ人への暴力・差別に抗議して、同国政府や軍と直接取引してアパルトヘイト政策の維持に貢献したり、違法植民地での事業活動への関係が深かったりする企業の製品の不買(ボイコット)などを呼びかける運動だ。

パレスチナ市民の主導で2005年に始まったBDS運動は、世界各地に広まっている。

2024年の東京プライドでは、イスラエル大使館などは協賛・出展しなかったものの、BDS運動の対象となっている外資系・日系の企業が複数、スポンサー企業に名を連ねていた。

そのため、クィアコミュニティではイベントへの参加自体を「ボイコット」する人たちもいた。抗議の意味も込め、SNSなどで不参加を表明する人も相次いだ。

有志のグループは2023年12月、スポンサー企業について運営事務局であるNPO法人「東京レインボープライド」宛に公開質問状を送付。

それに対し運営事務局は「すべての戦争、虐殺、暴力や弾圧に反対しています」「より良い運営のあり方について検討を続けてまいります」と回答した。また、2024年11月には「協賛にあたってのお願い」を発表。

2025年以降の協賛の条件に、「全ての命と人権を尊重」することや、「あらゆる暴力に反対し、許容し」ないことなど、新たに5つの項目を追加した。

2024年のスポンサーに含まれていたBDS運動の対象企業8社は、今年のスポンサーリストには含まれておらず、2023年以前に協賛をしていたBDS対象企業も昨年に引き続き、協賛していない。

対象8社が今年は協賛企業に入らなかった経緯について詳細は明らかにされていない。ハフポスト日本版は東京プライド事務局宛に同件について質問状を送ったが、事務局は「ハフポストからの個別の取材については、ご対応いたしかねる」とし、取材に返答しなかった。

「非常に勇気のあるもので、敬意と歓迎の意を示したい」

国内外のBDS運動呼びかけ団体からは、歓迎の声が上がっている。

BDS Movementのインスタグラムは5月17日、「イスラエルの学術・文化ボイコットのためのパレスチナ・キャンペーン(PACBI)」からの声明を投稿で掲載。「東京プライドの決定を歓迎する」とした上で、以下のように分析した。

《これは、パレスチナの権利を支持し、パレスチナ人に対するイスラ工ルの重大な犯罪への加担を拒否し、イスラエルのピンクウォッシング*を拒絶するクィアやトランスの団体、プライド行事主催者の数が増加している流れに加わるものである》

《このスポンサーシップ方針は、抗議運動としてのプライドの原点に立ち返り、社会正義とすべての人の平等に向けた力を取り戻す一歩である》

(※)ピンクウォッシング(ピンクウォッシュ)とは、人権侵害など不都合な事柄を隠す意図で、同性愛者らLGBTQ当事者に対してフレンドリーであるとアピールすることを指す。

共に声明を発表したBDSブレティンジャパンはハフポスト日本版の取材に対し、以下のようにコメントしている。

「今回のTokyo Prideの決断は、決して今の日本の現状では『達成された』といい難いLGBTQ+の権利の長い闘いの中で勝ち取った『スポンサー』をスクリーニングするという非常に勇気のあるもので、敬意と歓迎の意を示したい。

Tokyo Prideが、今後もこのような変化の中で、交差性を尊重しながら、LGTBTQ+の権利獲得と全ての命を祝福する場所として、より安全で意義のある祝祭の場になると期待します。 そして、Tokyo Pride以外の他のプライドの活動やイベントがこれに続くことを願います」

また、事務局が新たに2024年11月、「全ての命と人権を尊重」することや、「あらゆる暴力に反対し、許容し」ないことなどの5項目を協賛の条件に追加したことに対しては、次のように指摘した。

「スポンサーに対するアドボカシー方針を立てたことで、パレスチナ連帯だけではなく、琉球やアイヌを含む他の先住民族の権利、脱植民地主義、反人種主義、(社会に)障害のある人の権利、労働者の権利、環境保護と気候正義など他の様々な問題に対応する運動に連帯していく可能性が広がっていると感じています。既にこれらに取り組まれてきた人たちもこれまでTRPに多く参加されていると思いますが、事務局としてスポンサーにこれらを求めることはとても意味があると思います」

6月8日正午開始予定のプライドパレードの際には有志が沿道で、パレスチナに連帯し、虐殺に抗議するスタンディングを行う。パレードに参加している人々と繋がり、関心の輪を広げることを目的に、パレード開催中の午後2時から行われる。

米国ではトランプ政権の顔色伺い、プライド月間の活動縮小傾向も

一方、8社のうち全てがイスラエル支援との関連を理由に協賛を取りやめることになったわけでもなさそうだ。

BDS運動の文脈とは別に、DEIの取り組みに批判的な第二次トランプ政権の発足後、初めてプライド月間を迎えたアメリカでは、企業によるプライド月間の活動縮小の傾向も見受けられる。

トランプ大統領の攻撃の標的となることを恐れ、これまでスポンサーを続けてきた大企業が協賛の打ち止めを発表するなど、影響が広がっている。東京プライドにもこれまで、多くのアメリカ系企業が協賛・出展してきた。

現地報道によると、ニューヨークプライドは約4分の1の企業の協賛打ち止めにより総額推定75万ドルのスポンサーシップを失い、ワシントンD.C.のワールドプライドでは、約26万ドルを失った。

約50社の大企業の幹部を対象に米調査会社が行った調査によると、プライド月間のキャンペーンや販促活動などを昨年より「減らす」と回答した企業は39%で、「増やす」とした企業はゼロだった。

(取材・文=冨田すみれ子/ ハフポスト日本版)

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