7月20日投開票の参議院議員選挙に向けた選挙運動では、候補者らによる街頭演説で、排外主義を煽動するような外国人に対するヘイトスピーチが相次ぐという事態が起きている。
危機感を抱いた外国人の人権問題に取り組む支援団体などが7月8日、排外主義の煽動に反対するNGO緊急共同声明を発表した。声明は8日までに266団体の賛同を得ている。
緊急共同声明を呼びかけた8団体が8日、都内で記者会見を開き、「外国人の優遇は全く根拠のないデマ」「外国人が物価高や生活苦への不満のスケープゴートに」と強調。
公約や街頭演説を通した、選挙運動におけるヘイトスピーチや根拠のないフェイク情報の流布を強く批判した。

「排外主義の急速な拡大に強い危機感」
NGO緊急共同声明では、「ヘイトスピーチ、とりわけ排外主義の煽動は、外国人・外国ルーツの人々を苦しめ、異なる国籍・民族間の対立を煽り、共生社会を破壊」すると指摘し、強く批判した。
外国人人権法連絡会の師岡康子弁護士は会見で、「参議院選挙にあたり『外国人が優遇されている』『外国人が治安を悪化させている』などのデマに基づいて、日本社会に外国人や外国ルーツの人たちに対する排外主義が急速に拡大していることに強い危機感を持っています」とし、以下のように述べた。
「私たちは、国籍、民族、性別などの属性に関わらず、誰もが差別されたり排除されたりせず、人間としての尊厳が尊重される社会。そして、すでに一緒に生き、社会をつくっている外国人、外国ルーツの人々と共に平和に生きる社会を目指したいです。
外国人や外国ルーツの人々が置かれている状況を、直接知っている私たちが声を届けなければならないと考え、急遽、共同声明を出すことにしました」
「日本人ファースト」に潜む危険性。外国人が不満の「スケープゴート」に
参政党は「日本人ファースト」を掲げており、街頭演説などでも繰り返しその考え方について神谷宗幣代表や各候補が論じている。
師岡さんは、「日本人ファースト」という言葉に対し、「外国人というだけでファーストではない、ないがしろにしていいというメッセージを含んでおり、排外主義につながる」と指摘。
アメリカでは現在、「アメリカ・ファースト」のスローガンのもと、移民に対し暴力的な排斥が行われている状況と重なるとした。
また、外国人が経済苦の「スケープゴート」にされてしまっているとし、本質的な問題の解決を促した。
「そもそも、米などの物価が高くなり、賃金が上がらず皆が生活に困っているのは外国人のせいではありません。これまでの政府の政策が原因です。外国人を攻撃して排除しても、私たちの生活が良くなるわけではないのに、外国人がそのような不満のスケープゴートにされてしまっています」

フェイク情報の流布、ヘイトスピーチも選挙期間の大きな問題に
候補者の街頭演説や応援演説などでは、外国人の生活保護受給、税金や年金の支払いなどをめぐって、根拠のないフェイク情報が流布される事態も起きている。
日頃から、困窮状態にある外国人の支援に尽力している一般社団法人「つくろい東京ファンド」の大澤優真さんは会見で、外国人の生活保護受給に関するデマについて指摘。
「生活保護の受給において、外国人が優遇されたり、増えているというようなことはない」とした上で、「デマがもとになった議論というのはしてはいけない。社会を壊すことになる。事実に基づいた議論が行われるべき」だと強調した。
日本で働く外国人は、日本人と同じように、税金や年金、社会保険料を支払っている。

加えて、これまでも外国人や外国ルーツの人々に対するヘイトスピーチをめぐる裁判に携わてきた師岡弁護士は「選挙運動の名の下に、『黒人、イスラム系の人たちが集まっていると怖い』『外国人労働者は日本人の物を盗む』などの露骨なヘイトスピーチも行われている」と指摘。
「各政党、候補者に対し、直ちに排外主義キャンペーンをやめることを求めます。また、政府・自治体に対しては、選挙運動におけるヘイトスピーチが許されないということを徹底して広報することを強く求めます」と話した。
(取材・文=冨田すみれ子)
