トラウマ克服のため通っていた都内のカウンセリングオフィスで、公認心理師から陰謀論を聞かされたという女性に取材しました。
「誰でも巻き込まれる可能性がある」。そう語る女性の証言や記録をもとに、シリーズ「私が巻き込まれた陰謀論」を全5回でお届けしています。
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春の匂いを感じられるようになった2025年4月。
穏やかな日の中にも、時折、突風が吹き抜けることがあった。
公認心理師もまた、あの“怖い話”を度々口にするようになった。
《海外の人達は聖書以外に道徳や正義感をつくるものがない》
彼は、私の出身地である東北の人々を「辛抱強い」とし、「日本は生まれながら生活の中に正しい心のあり方がある」と語った。
その後、当然のように「でも、キリスト教は……」と、人種を絡めた話に展開させた。
表情は穏やかで、口調も優しい。ただ、平然と「差別」に繋がるような言葉を口にする人間が、目の前に座っている。
この事実に、私の体は小刻みに震えた。
これまで、自らのトラウマを克服するため、公認心理師との信頼関係を築こうと努力してきた。
「我慢したらそのうちセラピーをしてくれる」と信じ、通い続けてきた。
ただ、彼は《能登は人工地震だった》《三浦春馬はアドレノクロムを知って殺された》といった話だけでなく、差別的な話も私にぶつけるようになっていた。
もう聞きたくない。もはや信頼関係を築く相手でもないのかもしれない。
「いずれ見極めないといけない時期が来る」

季節が巡り、5月になった。
街の緑が濃くなった頃、公認心理師は完全に“戻った”。
《白人はIQが低く、人から奪う人種》
《白人を登場させて、世界を一回崩すことになった》
《AIによって世界が一回破壊されている》
《まずい世の中をあえて作った人が国際金融資本家》
受け入れ難い言葉の一つひとつが、無理やり頭の中に入り込んできた。
もう限界だった。
「これはセラピーでもなんでもない。私の心に必要な『薬』でもない。私の心を削る単なる『毒』だ」
カウンセリングの帰り道、私は何度も「もう、行かない」と呟いた。
そして、心を落ち着かせた後、次回以降の予約を全てキャンセルするメールを送った。
【怖い話はやめてほしいと伝えていたのに、今回も怖い話をされ、本当に苦しいので、予約を全てキャンセルさせてください】
翌日、公認心理師から返信が届いた。
【そのくらいの話でも、後になって怖くなるのですね。その怖がりのところに何か意味があると思います。こちらでの進め方が合わないということなので、キャンセルで構いません】
まるで、“私に問題があった”かのような書き方だった。
私は再びパソコンに向かい、これまでのカウンセリングで語られた“怖い話”の数々を書き出した。
【三浦春馬と竹内結子はアドレノクロムを知って殺された】
【アメリカ民主党は悪魔儀式でアドレノクロムをやっている】
【能登は人工地震だった (珠洲市がスマートシティだったから狙われた)】
【ミシェル・オバマもレディガガも実は男】
【安倍元総理は薬を盛られて潰瘍性大腸炎になった】
【習近平は神奈川で軍事兵器を発注し始めた】
【財務省はDSとつながっている】
【田中真紀子邸はアメリカによって放火された】
【ビル・ゲイツは世界人口を減らすためにワクチンを製造している】
そして、こう問いかけた。
【今まで不信感を感じつつも、『自分の心のケアに関わる話なのかもしれない』と思い、通い続けてきました。心理的ケアの観点で、このような話はどのような意味があったのでしょうか】
返信は、その日の夜に届いた。
深呼吸をして開封すると、そこには自己弁護のような“言い訳”が延々と綴られていた。
【職場でのハラスメントの問題、副業での対人関係の問題、怒りの感情調整の問題、お仕事の業界の問題などについて話をしています】
【その中での話を意味のないこととおっしゃるのは、こちらとしては心外】
心外ーー。その一言に、思わず乾いた笑いが出た。
期待はしていなかったが、反省の言葉はどこにも書かれていなかった。
前回のカウンセリングで聞かされた言葉については、「歴史、経済の話で普通に使う用語」と説明していた。
では、《アドレノクロム》《DS》《ワクチンによる人口削減》とは何だったのか。普通に使う用語なのだろうか。
メールの中で、彼はこう言い切っていた。
【怖がらせるような話をしているつもりはありません】
私は、もう返信しなかった。
その一文を見つめながら、返信する気力を失っていた。(取材・文:相本啓太)
【第4回は11月13日午前6時30分配信予定】
