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2021年06月26日 07時39分 JST | 更新 2021年06月28日 11時28分 JST

「母と母」で出生届を提出したふたりのママ。届けに込めた思いとは

「絶対にこれで出したいんです」。母と母で書いて、区役所に提出した出生届には、ふたりの強い思いが込められていました

「母」「母」で提出した出生届、受理されました――。  

東京都・世田谷区に住むErikaさんは2月、パートナーとの子どもが生まれたことをTwitterに投稿。出生届を「母」と「母」で提出して受理されたと伝えました。

ツイートは2万9000以上のいいね!がされ、たくさんの祝福のコメントが寄せられています。 

出産したのはパートナーのNobukoさんです。ただErikaさんがその後にツイートしたように、出生届は受け取ってもらえても、Erikaさんは生まれた赤ちゃんの親としては戸籍に記載されません。日本では同性のふたりの結婚が法律上認められていないからです。

それでも、母と母の出生届を受け取ってもらえたことはとても嬉しかったとErikaさんは言います。

これで出したいんです 

ErikaさんとNobukoさんは、子育て真っ最中のふたりのママ。Erikaさんが8年前に出産した長男に、Nobukoさんが2月に出産した長女が加わり、4人家族になりました。

出生届を区役所に提出しに行ったのはNobukoさん。「受け取ってもらえるだろうか、もしかしたら突き返されてしまってその日は提出できないかもしれない」と不安だったといいます。

提出した窓口では最初、「同性婚は認められていないので……」と受け取りが難しいことを告げられました。

しかしNobukoさんが「絶対にこれで出したいんです」 と伝えると、責任者が出てきて色々調べた上で、「戸籍上では配偶者としての記載ができない」「パートナーが母であるという記載は、本来記載しなくてよいものを記載した『余事記載』扱いになる」と説明されました。

それでもNobukoさんが「これで出したい」と伝えると、「余事記載となることは前提ですが、おめでとうございます」と受け取ってもらえたといいます。

パートナーの欄を空欄にせずに母と母で提出したことで「これから子どもに対してもふたりともママなんだよ、と言っていこうと思いました。そういう自覚にもつながりましたし、ふたりで育てていくんだという安心したような気持ちになりました」とNobukoさんは振り返ります。

母と母で出した理由

自分たちの認識通りで出したいという思いの他にも、ErikaさんとNobukoさんが出生届を母と母で出したことには理由があったといいます。

その1つは、いつか日本でも結婚の平等(通称・同性婚)が認められた時に、ふたりの関係が戸籍上でも親とされる可能性を残したかったから。

「同性婚が将来認められたとしても、過去に出した出生届に名前を記載していなければ、Erikaが戸籍上で母親として認められない可能性もあるんじゃないかと思います。だけど母と母で出しておけば、Erikaが母として記録されるかもしれない。そういう期待を持って出しました」とNobukoさんは説明します。

また万が一不利益が生じた時の備え、という意味もあったといいます。

LGBTQ当事者の人たちの出生届を巡っては、戸籍上の性別を女性から男性に変更した男性が、妻が産んだ子どもの戸籍の父親欄に自分の名前が記載されなかったケースがありました

男性は戸籍の訂正を求めて裁判を起こし、最高裁で父親欄に男性の名前を記載するよう命じる判決を勝ち取りました。

Nobukoさんはこの裁判の勉強会に参加して、自分たちが望む形で書類を提出しなければ、何か問題が起きた時に争うためのベースがなくなってしまう可能性があると知ったと話します。

例えばErikaさんが亡くなってしまった場合、Nobukoさんの産んだ子どもは遺族年金を受け取れないなどの不都合が生じるかもしれません。

「何かあった時に自分たちが最初から届けを出していないと、自分たちが出していないんだから空欄なのはしょうがないということになってしまいます。だけど、Erikaを母として書いた出生届があれば、何か不利益が生じた時にそれをベースにして争うことができるかもしれない。そう思ってふたりの名前を書きました」とNobukoさんは言います。

さらにもう1つ、結婚の平等を求める裁判の原告になる可能性も考えたといいます。

結婚の平等の実現を求めて、現在全国5つの裁判所で複数のLGBTQ当事者たちが国を訴えています。

ふたりは今すぐに裁判をすると考えてはいないものの、将来そうなった場合に「出生届にErikaさんが母と記載されなかった」という争点で国を訴えることもあり得る、と当時考えたとNobukoさんは言います。

「現在の同性婚訴訟では、同性婚を認めなかったことで精神的な損害を受けていると国を訴えています。もし私たちが将来原告になった時には、出生届欄にふたりとも母として記載されず精神的な損害を受けたと訴えることもあるかもしれないと思いました」

パートナーシップ制度で変わった

様々な思いを込めて提出した母と母の出生届。もしかするとその日のうちに受理されないかもしれない、とふたりは思っていました。

それでも、待ち時間も含めて受け取ってもらうのにかかった時間は1時間足らず。その場で受理証明書ももらえました。

思ったよりスムーズに受理されたのは、世田谷区にパートナーシップ制度ができたからだと感じています。

Erikaさんが8年前に第一子を出産した時にはまだパートナーシップ制度がなく、区役所での対応も違ったといいます。

「息子が生まれた時、区の窓口の人は同性パートナーと子育てをしているということが全然理解できないという感じで、『お父さんはいるんですよね?』という聞かれ方をしました。また初めからシングル家庭扱いをされて、出生届や児童手当の書類の書き方を聞いても、パートナーは『同居人になる』と言われました」

また最初の保育園で、同性パートナーがいることを「表に出さないようにしたい」と言われたこともありました。

しかし今では、学校や学童の書類、児童手当の申請など自治体が管理する書類は全て「母と母」で記載しており、問題になったことはありません。学校からはErikaさんとNobukoさんの両方に、保護者連絡がくるといいます。

「色々な家族がいることを先生たちはわかっているという感じです。すごく変わりました」と、Erikaさんは言います。

理解が進んだからこそ母と母の出生届もスムーズに受け取ってもらえたのだろうと思う一方で、Erikaさんは複雑な気持ちも感じています。

「これまで母と母で提出した書類で『余事記載になる』と言われたことはありませんでした。出生届を受け取っていただけたことは嬉しかったものの、余事記載になるという法律の高い壁を感じたのも正直な気持ちです」

そんなふたりにとって嬉しいニュースだったのが、3月に札幌地裁で言い渡された「同性カップルが結婚の法的利益を受けられないのは違憲」という判決でした。

「涙なくして判決文を見ることができませんでした。家でもお祝いのディナーを食べたくらい、当事者にとっては大きな一歩であり希望です」とErikaさんは振り返ります。

パートナーシップ制度のおかげで今すぐに困っているということはないものの、将来のことを考えると様々な不安もあるといいます。

「例えば、万が一私たちふたりが事故で死んだ時に、子ども達は別々の場所に引き取られるかもしれません」

「他にも、自分のおじいちゃんやおばあちゃん、ましてや自分の親と思っていた人と戸籍上のつながりがないということを子どもたちが知って、精神的ダメージを受けるのではないかという心配もあります」とErikaさんは言います。

結婚が認められ、法的にきょうだいや親、家族としてつながることが子どもたちのためにすごく大事だと思うとErikaさんは強く感じています。

「世論調査でも同性婚賛成は反対に比べて圧倒的に多数です。同性婚を認めない理由が他に見当たりません。私たちが子育てをしている間に、同性婚が認められることを願っています」