乱高下する本田圭佑の評価だが、インテルの番記者は冷静に見ている。ライバルクラブ追う彼にはどう映ったのか? また未だ調子が上がらないミラン。コッパ・イタリアで見えた課題とは?
■インテル番記者の視点
「よう、本田はどうだ?」
22日のコッパ・イタリア準々決勝、ミランvsウディネーゼ戦の前で、あるベテランのイタリア人記者に声を掛けられた。チームの事情にも精通するインテル番で、長友にしっかりとプレーを見て評価したり、批判をするべき時も厳しくも冷静な言葉で書ける、信頼の置ける記者だ。
「時々ミランの仕事をすることもあるんだ」と語る彼は、ベローナ戦での本田の様子についておもむろに話しだした。
「良かったと思ったんだけどな。パスを展開する時はだいたい彼を経由していただろう。ピッチを俯瞰で把握出来ている様子も気に入ったよ。だから正直、私には解せないんだな。なんでみんな、本田のことをあれだけ悪く書いたんだ?」
本田はサッスオーロ戦の途中出場でバーを強襲するミドルを放ち、スペツィア戦では点も決めた。一方、ベローナ戦ではそれがなかった。直接ゴールを脅かすプレーがなかったので悪い評価につながったのではないかということは前回でも書いた通りだが、前述の記者のように、違う観点で評価をする人も中にはいるということだ。
シンプルなパスのつなぎでボールのキープ率を上げられる本田は、モントリーボとともに新たなチームの柱となり、セードルフ監督の志向するポゼッションサッカーには欠かせない存在となれる可能性がある。
しかしそのためには、チームとしても整備しなければならないことが山積みだ。本田がベンチに座っている間、ミランは優秀な若手が揃う実力派のウディネーゼを前に、再生に向けてたくさんの課題を露呈した。
■本田抜きの前線。機能したのは20分まで
先制点は、理想に近い形で取れた。6分、トップ下のカカーが、右に展開したビルサに展開。そこからの右クロスに2人がゴール前に入り、バロテッリが押し込んだ。3枚の攻撃的MFのうち一人がサイドへと大きく幅を取り、相手DFラインを横に押し広げたスペースを味方が活用する。ベローナ戦では上手く機能していなかった動きだ。
地元記者の中には、本田をトップ下ではなく、サイドとしてプレーさせるように推す声もある。しかしタソッティ助監督は21日の会見で、「サイドが出来る汎用性は本田よりもカカーの方がある」と語っていた。もし本田が、こういったオフ・ザ・ボールの戦術的なランニングがこなせない場合は、ポジション争いの上では不利になるかも分からない。
だが、カカー、ロビーニョ、バロテッリにビルサを加えた前線が機能したのはそこまでだった。インテンシティが持続したのは20分ばかり。
その後はミランの選手たちより全体的に若く、戦術的な規律の取れているウディネーゼが中盤で猛烈にプレスを掛けていく。そんな彼らを前に中盤で繋がらなくなったミランは前半終了間際、相手の速攻からPKを献上し同点に追いつかれた。
■まだ整備すべき点が多々あるミラン
ミランの布陣は2ボランチを境に前と後ろに分断。こうなると、パスサッカーもあったものではない。ミランの攻撃陣は中盤の密集を避けサイドへと張るが、休養を取らせたモントリーボの不在に加えてDFラインも押し下がり、ビルドアップは不可能。
前線自体に動きがなく、パスの出しどころをさらに減らし、パス出しに困るノチェリーノやデ・ヨンクがボールを失いカウンターを掛けられる始末。やがてミランは守備まで緩慢となってしまい、後半33分に逆転を許した。
U-20W杯のシルバーボール、ニコ・ロペスのドリブルシュートは見事だったが、それに至るまでの縦パスはたった一本。あまりにもルーズだった。
後半37分、この状態で本田を投入しても、チームが崩壊した状態ではもはや出来ることはない。終了間際にボレーを狙ったのが精一杯だった。
DFラインは押し上げきれるのか、そして前線の4人が、どれだけ中盤をサポート出来るのか。本田をトップ下に使ったポゼッションサッカーをする上で前提となる戦術的な条件が、まだミランには整っていない。
本田自身にも、コンディションを上げるとともに、他の前線の選手とスムーズな連係が早期に築けるかという課題が残っている。ファンにとっては、しばらく忍耐が続きそうである。
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(2014年1月24日「フットボールチャンネル」より転載)