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2018年04月23日 12時44分 JST | 更新 2018年04月23日 12時44分 JST

日銀「出口戦略」に立ちはだかる「18兆円爆弾」の処理方法--鷲尾香一

日本政府、日銀に残された時間は多くない。

Toru Hanai / Reuters

 続投が決まった黒田東彦・日本銀行総裁だが、その行く手には難題が山積している。特に、自らが「異次元の金融緩和」と命名した未曽有の政策からの正常化(いわゆる出口戦略)が大きな課題だが、そこで最大の難点となるのが、これまで買い入れたETF(株価指数連動型上場投資信託)をどのように処理するのかという問題だ。

 日銀がETFの買い入れを開始したのは、2010年の白川方明総裁時代。この時、日銀は株式市場のリスクプレミアム縮小をETF買い入れの理由とした。つまり、リスクの大きい株式投資を日銀がETFを買い入れることでリスクを小さくし、投資を活発化させようとしたのだ。当初は、年間4500億円の買い入れ額でスタートした。

 そして2013年3月に黒田氏が総裁に就任すると、同年4月から始まった異次元緩和でその買い入れ額は年間1兆円に増額される。さらに、2014年10月の追加金融緩和で年間3兆円、2016年7月には現在の年間6兆円にまで引き上げられた。

 ETFの買い入れについて日銀は、「株価の上昇は、資産効果などを通じて個人消費を押し上げるほか、企業の資金調達環境やマインドの改善によって設備投資を促すことが期待できる」とした。

 しかし、日銀が金融緩和政策の目標に掲げた個人消費を表すCPI(消費者物価指数)上昇率2%の達成には程遠い状況にありながら、すでに日銀のETF保有額は18兆円を上回っている。これは実に、日本株全体の約4%にあたるのだ。

 日銀が日本株全体の大株主となったことに対する弊害は数えきれないものがある。例えば、本来株価は株主による経営のチェックや業績のチェック、株式の発行数という需給により変動するものだが、日銀がETF買い入れを行っていることで、株価変動の機能が損なわれている。

ETF売却で株価暴落の可能性

 こうした弊害のより詳細な問題点についてはまた別機会の稿で指摘したいと思うが、とりわけ最も重要な問題は、日銀のETF買い入れが"日本経済を崩壊させる爆弾"になり得るという点にある。

 日銀の金融緩和策の中心施策は、国債の買い入れにある。現状では、年間に新規で80兆円の国債を購入することになっている。買い入れの中心は10年物国債で、日銀ではその平均残存期間(償還までの期間)が7年程度になるように買い入れを行っている。

 つまり、現在どれだけ大量・巨額な国債を保有していても、7年間買い入れをストップすれば、すべて償還を迎えて残高はゼロになるわけだ(この間に景気の悪化により、金融緩和を再開して国債の購入を行う可能性は高いが)。

 だが、ETFには償還がない。日銀が一旦買い入れてしまったETFは、金融緩和政策の終焉とともに、その出口戦略として"売る"しかないのだ。

 日銀は、「TOPIXが前場に下落するとETFを買い入れる」(株式市場関係者)と見られている。事実、このケースでの買い入れは多い。つまり、「株価が下がったら日銀の買いが入る」ということ。 

 ここに大きな錯覚がある。日銀は株価が下がったらETF買いを行っているので、常に利益が出ていると思われがちだ。だが、例えば、日経平均が1万1000円から1万500円に下がった時に買うのと、1万2000円から1万1500円に下がった時に買うのとでは、買いを入れている水準は1万1500円の方が1000円も高い。つまり、下がっているとはいえ、高い価格で買い入れているということ。その点、日銀のETF買いは、日々、株価が下がった時に行われてはいるが、必ずしも株価の絶対水準が安いところで買っているわけではないのだ。

 まして、今の株式市場では、「日銀のETF買いを"クジラ"と呼び、株価が下がると"クジラの買い"を期待する」(株式市場関係者)ようになっており、完全に日銀のETF買いが株価の下支えとして機能している。

 このような状況の中で、もし日銀が金融緩和策の出口戦略として保有するETFの売りに動けばどうなるのかは想像に難くない。「実際にETF売りを行わなくても、売りを行うというアナウンスだけでも、株価が暴落する可能性がある」(株式市場関係者)と見られている。アベノミクスの唯一の成果である株高・円安の株高は崩壊する。そうなれば株価暴落は間違いなく、実体経済に悪影響を及ぼすだろう。

"飛ばす"ほかない

 そもそも先進国で、金融緩和を目的に株式を購入した中央銀行はない。株式の購入は、物価への波及効果が見えづらいほか、何よりも、その恩恵が上場企業や富裕層に偏るためだ。

 つまり、日銀のETF買い入れは、金融政策における"社会的実験"であり、"劇薬"なのだ。

 日銀内部でも、ETF買い入れについて懸念が出ている。昨年10月30~31日開催の金融政策決定会合では、政策委員から「政策効果と考え得る副作用について、あらゆる角度から点検すべきだ」との声が出た。今年3月8~9日の金融政策決定会合でも、ETF購入について同様の意見が出ている。

 国債については、2016年9月に長短金利操作(YCC)付き量的・質的金融緩和政策を導入し、金融政策の手段は量から金利へと回帰、国債購入は徐々に減額されてきている。しかし、ETFはいまだに年間6兆円の買い入れが続いている。

 では、日銀は保有するETFをどのような方法で処理できるのか。

今、水面下で言われているのが、「ETFを日銀の勘定から切り離す方法」だ。保有するETFを別の機関の勘定に移し、ここが株式市場に影響が出ないよう長い年月をかけ、ジワジワ売却するシナリオだという。簡単に言えば、バブル経済崩壊後の不良債権処理で銀行や証券会社が行った"飛ばし"である。現在、当時のような"飛ばし"は金融商品取引法で禁じられているが、実は、いわば"合法的飛ばし"を行っている機関が存在する。

 2002年、銀行による政策保有株(いわゆる持ち合い株式)の市場売却の影響を避けるために、「銀行等保有株式取得機構」が設立された。同機構は、政府保証の付いた借り入れや債券発行で調達した資金により、銀行から株式を買い入れ、長期間をかけて株式市場への売却を行っている。

 水面下で言われているのは、これと同様の機能を持つ機関を作り、日銀保有のETF売却に利用しようという考えだ。

 もっとも、この方法が実現可能か否かは、現時点では未知数である。実施するためには日本銀行法を含め、既存の関連法の改正や新法の制定が必要であるはずだからだ。

 それでも、"爆弾の処理方法"は検討しておく必要がある。処理のできない爆弾の存在をそのまま放置しておくことはできない。しかも、欧米各国ともすでに金融緩和の出口戦略を始めている。日本政府、日銀に残された時間は多くない。

鷲尾香一 金融ジャーナリスト。金融業界紙、通信社などを経てフリーに。
関連記事 (2018年4月20日フォーサイトより転載)