26.アンソニー・スカラムッチ広報部長(53)
ロシア政府による2016年米国大統領選挙への介入にトランプ陣営が共謀していたのではないか、との「ロシアゲート」疑惑に対するメディアの追及が益々強まる中、ホワイトハウスの広報活動強化の一環として、トランプ大統領が7月21日に「広報部長」に指名した。
広報活動の経験が全くないにもかかわらず広報部長に指名することに対し、ショーン・スパイサー大統領報道官がトランプ大統領に猛烈に抗議したものの受け入れられず、同ポストを即座に辞任。
広報部長起用を積極的に支持したのは、トランプ大統領の長女イヴァンカ・トランプ大統領補佐官と娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問の夫妻である。
とりわけ、自身がロシアゲート疑惑に関与していたとの『CNN』の報道を誤報と認めさせ、CNNの記者3名を辞職に追い込んだことが、トランプ大統領やクシュナー夫妻から高く評価されたと見られている。
対照的に、共和党全国委員会(RNC)委員長時代から、メディア担当のスパイサー氏とともに二人三脚で取り組んできたラインス・プリーバス大統領首席補佐官や、スティーブ・バノン首席ストラテジスト兼大統領上級顧問の2人は、スパイサー氏とともにスカラムッチ氏の広報部長起用に反対していたが、2人の意見もトランプ大統領には受け入れられなかった。
本来はウォール街の投資家である。投資銀行ゴールドマン・サックスに勤務していた経験があり、2005年には投資会社スカイブリッジ・キャピタルを創業した元共同創業者兼取締役。金融関連のテレビ番組にもコメンテーターとして頻繁に出演するなど、メディアでも活発に活動していた。
トランプ大統領とはもともと友人関係にあり、2016年大統領選挙でトランプ氏が勝利した後、政権移行チームの執行委員会の委員に就任。選挙資金の調達などにも手腕を発揮していた。
ちなみに、バラク・オバマ前大統領とはハーバード大学ロースクール時代の同窓生という関係であったため、かつては同前大統領に対して政治資金を提供していた。
ただし、オバマ氏が現職大統領として再選を目指した2012年大統領選挙キャンペーンでは、オバマ氏ではなく、共和党大統領候補であったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事を支持していた。
1964年1月6日生。ニューヨーク州ロングアイランド出身。タフツ大学、ハーバード大学ロースクール卒業。
27.サラ・ハッカビー・サンダース大統領報道官(34)
2017年1月20日のトランプ政権発足時から大統領副報道官を務めていたが、政権発足から半年しか経過していない7月21日、前項(26)で記述した通り、アンソニー・スカラムッチ氏の広報部長就任にショーン・スパイサー大統領報道官が抗議して即刻辞任したため、副報道官から報道官に昇格した。
女性の大統領報道官としては、第1期クリントン政権のディー・ディー・マイヤーズ氏、第2期ジョージ・W.ブッシュ政権のダナ・ペリノ氏に次いで3人目となる。
5月以降、スパイサー大統領報道官に代わってホワイトハウス担当記者に対する定例記者会見に臨む機会が増えていたが、その頃から、スパイサー氏が何らかの理由で辞任した場合の後任として昇格するのではないかとの見方が流れ始めていた。
トランプ政権はメディアに対して対決姿勢を鮮明にしており、メディアと激しく対立している状況下で大統領報道官としていかにトランプ大統領をメディアの批判から守るのか、その手腕が注目される。
父親は、南部アーカンソー州のマイク・ハッカビー元州知事。少女時代から父親の州知事選挙出馬キャンペーンを支援するなど政治に深く関与しており、父親が2008年と2016年の2度の共和党大統領候補指名獲得争いに出馬した際も、選挙キャンペーンを積極的に支援していた。最終的に父親が指名獲得争いから撤退を余儀なくされた後、トランプ陣営にコミュニケーション担当上級顧問として参画していた。
夫のブライアン・サンダース氏は共和党系政治コンサルタントであり、2008年共和党大統領候補指名獲得争いでは、義父であるハッカビー元州知事を支援していた。
3人の子供の母親。アーカンソー州ホープ出身。1982年8月13日生。ワシタ・バプテスト大学卒業。
足立正彦
住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。
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(2017年7月25日フォーサイトより転載)