認知症の見守りは住民だけでは網の目が粗い

認知症の予防と対策をテーマに行政視察で愛知県の国立長寿医療研究センターを訪れた。

認知症の予防と対策をテーマに行政視察で愛知県の国立長寿医療研究センターを訪れた。

高齢社会が進む地方自治体にとって、どのように今後益々増えると言われている認知症の方と付き添う家族が安心して暮らせるための地域システムを構築するかは大きなテーマである。

まず、認知症の基本的な前提知識だが同センターの資料を基に以下に列挙する。

【認知症は稀な病気ではなく身近な病気】

・65歳以上高齢者の15%が認知症

・全国で既に462万人(2012年)が認知症

・生涯、半数の方が認知症になるとの報告もある

【認知症の症状】

(1)認知機能症状(中核症状)

・記憶障害

・判断力低下

・見当識障害

・言語障害

など

(2)行動・心理症状(周辺症状)

・妄想

・うつ

・幻覚

・興奮

・徘徊

【認知症を治す薬はなく、進行を遅らせる薬しかない】

(1)の中核症状には認知症治療薬、(2)の周辺症状には眠り薬や抗うつ薬などそれぞれの症状に合わせた薬が投与されることがあるが、基本的に認知症を治す薬は現段階では存在せず、あくまで症状の進行を遅らせる薬しかない。

以上が、簡単な認知症の基本的知識であるが重要な点は風邪や盲腸等と違って病院に行って薬を貰ってそれを飲んだり手術すれば治る病気ではなく、むしろ病院に行った後、長期的に家族ぐるみで付き合っていく必要がある病気である。

さらに、昨今問題となっているように徘徊する高齢者の方や一人暮らしの高齢者も増えたため、家族だけでは対応できず地域ぐるみで対応が必要な病気なのである。

そういうわけで、現在どこの自治体でも認知症予防や見守りに力を入れようとしているのだが残念ながらその見守りの主体が町内会や老人クラブ、民生委員、ボランティアや商店街といった住民ベースのみになってしまっているのが現状だ。

これはかなり見守りの網の目が粗い。

特に自治体の町内会や商店街などはその存在自体が一昔前より弱体化しており、毎日毎日、認知症の方の自宅にチェックできる体制は今後益々困難となっていく。

ゆえに、自治体が強化すべきは地域に根付いている大手企業とのネットワーク作りである。

参考になるのが東京都練馬区の「高齢者見守りネットワーク事業協定」である。

これは町内会や老人クラブ等だけではなく、郵便局や信用金庫、ガス会社、新聞販売店、佐川急便やヤマト運輸などの大企業だが地元に根付いている企業と協定を結んで、それらの企業は訪問先のポストに新聞や郵便物がたまっている、同じ洗濯物が干されたままである、などの異変に気付いた場合、区の地域包括支援センターや警察、消防に速やかに通報してもらう。

そして区は、通報に基づき、住民を特定し、安否確認など必要な対応を行うといった住民ベースだけではなく企業も巻き込んだ見守りの網をひく試みをしている。

ガス会社や電力会社、郵便局などはかなり頻度が高く自宅に配達や点検等で訪れるので極めて強力なネットワークだろう。そして何より、訪れてくれる従業員の方は年齢も若い。認知症対策には住民の協力が不可欠と言われるが、やはり限界がある。企業も巻き込むことが必要だ。

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