筆者は経済ジャーナリストの肩書きで株式相場に関して語る際、「政策買い」という言葉を中長期的なトレンドにおける重要なキーワードとして講演などで解説している。
「政策買い」というのは、文字通り、株式市場において、その時点における「政策」にマッチした銘柄を買うこと。たとえば、今なら地方再生や東京オリンピック・パラリンピック開催などによって公共事業が活発化しているため、恩恵を受ける建設株は買い──となる。少し前では、民主党政権誕生時に目玉政策だった「子ども手当て」を手掛かりに、ベビー用品、学習塾など関連銘柄が人気化したのが記憶に新しい。
予算が執行され、政策に関わる企業にお金が回り、収益が向上することが簡単に読めるため、「政策買い」というのは、株式市場において“政府のお墨付き”がある相場テーマとみることが可能なのだ。
個々の例を挙げたが、昨今の東京株式市場の上昇は、全体的に「政策買い」の様相を呈している。株価が上昇する要因として不可欠なのは企業業績の向上は言うまでもないが、それとともに見逃せないのが金融政策だ。低金利では、安全確実な確定利付きの金融商品では思うような運用成績をあげることができない。そうなると、資金は必然的にリスクを取るようになり、その代表格が株式投資となる。
株に詳しくない人も、現在の株価上昇の起点がどこであったか思い出して欲しい。それは、安倍政権の誕生(正確に言えば、野田元首相が党首討論において解散を明言した日)だった。アベノミクスで金融緩和を掲げたのが理由として大きい。そして金融緩和には、もう1人、黒田日銀総裁という役者がいる。異次元の金融緩和と言われるような緩和策を実施、それがこれまでの株高を支えてきた。そこから、今の上昇を“アベクロ相場”などと称されている。
さて、その“アベクロ相場”に不安材料が出てきた。内閣支持率の低下である。
共同通信社が17、18両日に実施した世論調査によると、内閣支持率が37・7%となり前回から9・7ポイント急落。不支持率は51・6%の8.6ポイント上昇と過半数に達し、の第2次安倍政権以降で初めて支持と不支持が逆転した。時事通信の7月世論調査でも急落。支持率は最低まで落ち込み、不支持は最高となった。
「アベクロ相場」では、安倍首相、黒田総裁が歩調を合わせ、政策を続けることが不可欠となる。市場関係者が描くシナリオとして、安倍政権の人気がこのまま続くことを前提に、少なくとも2017年に迎える黒田総裁の任期満了までは、ブル相場が演じられるというのが多い。黒田総裁に任期どころか、今回の世論調査によって「アベクロ相場」に翳りが生じるかもしれない。
繰り返しのようになるが、「政策買い」では政策の継続が相場上昇の前提となる。先述した子ども手当て関連株は、支給額が半額になった途端、人気が離散した例もあった。このまま安倍首相が退陣とならないまでの、政策面でのフリーハンドに足かせがかかった場合、マーケットがどう見るかが心配になる。
なぜなら、上昇相場を仕上げる材料となりうる、規制緩和などを中心とした“第3の矢”が道半ばだからだ。金融緩和とともに、主に海外機関投資家を中心に、これに対する期待が大きい。内閣支持率低下で、与党内で“守旧派”の勢いが増した場合、“第3の矢”が失速してしまえば失望売りを浴びかねない。何より、安倍首相が退陣、ポスト安倍政権が経済政策、金融政策を継続しないことは、「アベクロ相場」の破たんを意味するのだ。
ある意味、高い内閣支持率は、株価上昇の担保になっていたと言えなくもない。政策は株価を語る上で重要──ゆえに、「政治など株価に関係ない」などと言わず、政局もじっくり見極めて、投資家は今後の相場に対処した方がいいと思っている。