法律を読みやすく、理解しやすくする提案

法律自体をもっと読みやすく、理解しやすくできないものだろうか。
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安全保障関連法案を審議する衆議院の特別委員会で、質問中の辻元清美議員に、「バカか」と公明党議員がヤジを飛ばして、陳謝したそうだ。辻元氏が徴兵制について質問していた際だというが、安全保障関連法案には、徴兵制はかけらもない。

安全保障関連法案は、自衛隊法、武力攻撃事態法、周辺事態法などの改正案と、「国際平和支援法」という新法の制定案をセットにしたものである。内閣官房のサイトには法律案が掲載されているが、「第二条中第七号を第八号とし、第四号から第六号までを一号ずつ繰り下げ、第三号の次に次の一号を加える。」であるとか、「第一条中「同じ。)」及び「により、武力攻撃事態等」の下に「及び存立危機事態」を加え、「、併せて武力攻撃事態等への対処に関して必要となる法制の整備に関する事項を定め」を削る。」といった記述ばかりで、理解はむずかしい。新旧対照表も掲載しているが、改正に関係しない条項は記載が省略されているので、全貌を把握するのはむずかしい。

国会では法案自体について審議してほしいものだが、内容を理解するのが国民にとってはむずかしい状況にあるので、戦争法案の次は徴兵制が待っているとアピールする道を辻元議員は選んだのだろう。通信傍受法に盗聴法とレッテルを張ったように、安全保障関連法案に戦争法案とレッテルを張る政治手法である。

安全保障関連法案からは離れるが、法律自体をもっと読みやすく、理解しやすくできないものだろうか。税制は頻繁に改正される生活に密着する法律だが、専門家でなければ(ときには、専門家であっても)理解がむずかしいために、毎年、「よくわかる税制改正」「早わかり税制改正」といった書籍が発行されている。税制自体がわかりやすくなれば、このような書籍が出版される必要はなくなるはずだ。

そのために、法律の原本は電子ファイルとしインターネットを介して提供する、法律はバージョンを管理するといった原則の下で、法律に特有な「及び、並びに、又は、若しくは」といった表現はandやorを使った論理的な表記に改める、法律の相互参照関係はハイパーリンクで辿っていけるようにするというように、ソフトウェアのように法律を表現する手法が提案されている。

安全保障関連法案には国際平和協力法の改正が含まれているが、国際連合平和維持活動への参加にはまず5原則があり、参加5原則を満たした上で3要件のいずれかが存在する場合に参加することになる。andやorを使った論理的な表記はこういう組み合わせをわかりやすくする。自衛隊法の一部を改正すると自衛隊法全体がどう変わるかも、ハイパーリンクがあれば前後の条項に及ぼす影響が読み取りやすくなる。論理的に記述することで、立法ミスも防ぐことができる。

ソフトウェアのように法律を表現する手法を提案した榎並利博氏は、『立法爆発とオープンガバメントに関する研究 ― 法令文書における「オープンコーディング」の提案 ―』と題する研究レポートを公表している。情報通信政策フォーラム(ICPF)では、榎並氏の提案について6月30日にセミナーを開くことにした。

法律は国民にとってわかりやすいものでなければならない。ソフトウェア技術を利用して法律を書くという提案は、読みやすく、理解しやすい法律への第一歩である。これが進めば、国会での議論も「徴兵制につながるのでは」といった感情的な議論から、論理的な議論に変わっていくかもしれない。

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