今日は娘が通う保育園で運動会が催されたので、家族で参加してきた。
とはいえ娘が通うのは1歳児クラスのため、自由参加のかけっこがあるだけだ。
少し前まではこんなことを言っていた娘も、保育園で教わったのか、運動会の前日に私が「明日は運動会だよ!」と言うと、「うん!」と自信満々に頷き、「よーい、どん!」と言いながら走る真似をして見せてくれた。
おおー!と感動した私は、その後何度も「よーい、どん!」と言って娘と一緒にかけっこの特訓を行いながら、「うちの子は天才じゃ」と例によってひとりごちていた。
当日の朝、娘は一番のお気に入りであるミニーちゃんのトレーナーを着てやる気満々といった様子であった。
パパがのそのそと起きてくると、昨日の特訓の成果を見せ、「完璧だね」と褒められると私たちはうふふと笑った。
三人で保育園に向かうと、年長クラスの子どもたちが太鼓の演奏を披露しているところだった。
それを見て泣いている親御さんを見ては、「あああ」となんとも言えないセンチメンタルな気持ちになる。
撮影係のじいじも合流し、私たち親子は入場門の前でスタンバイした。
家を出るまでルンルンだった娘は、保育園のいつもと違う雰囲気に完全にビビっている。
「抱っこ、抱っこ」と言って私のそばから決して離れなかった。
そんな娘を抱えながら列に並んで入場し、所定の位置で走る順番を待った。
前に並んでいた0歳児クラスの子どもたちが走るのを見て、「去年は娘ちゃんもあんなに小さかったんだよねえ」と、ひとりでうんうん頷いた。
そして娘の順番が来るまでに、手遊びなどをして娘の緊張をといてやった。
娘にだいぶ笑顔が増えたころ、娘の前の列の子たちが走る順番になり、私も娘に「そろそろだよ」と伝えた。
そして、「よーい、どん!」と、前の列の子たちが走り出した。
それと一緒に、娘も走り出した。
「違うよー!娘ちゃん!違うよー!」
私は慌てて娘を連れ戻した。
「まだだよー!次ね、次。」
連れ戻された娘は仏頂面になってその場に寝転んでしまった。
しまった。いじけてる。
「わーごめんごめん、分かりにくかったよね。今度こそ娘ちゃんの順番だよ!ママと一緒に走ろう!」
慌てて取り繕っても娘は応じずに寝転んだままだ。
そんな娘をよそに、娘と同列の子どもたちの名前がひとりひとり呼ばれ、娘はもちろん返事をしないまま、その時はきた。
「よーい、どん!」
周りの子どもたちが一斉に走り出した。
寝転んだままの娘を「ほらほら、娘ちゃんの番だよ!走ろう!」と囃し立てると、
「いいいいやあああああだああああああ!!!!!」
これである。
昨日の特訓は一体何だったのか。
横で見ていたパパはそんな娘の姿に爆笑している。
他の子どもたちがゴールをしてメダルをかけてもらい終わっても、娘は梃子でも動かなかった。
結局私が暴れる娘を抱きかかえてゴールをした。
抱えられて号泣しながら先生にメダルをかけてもらい、おみやげのお菓子をもらった。
大好きなじいじがカメラを構えて「メダルを見せて〜」と言っても娘は目に涙を浮かべてブスッとするだけだった。
仕事へ向かうパパとじいじに別れを告げ、私たちは自転車に乗って家へと向かった。
おみやげの中に入っていたアンパンマンジュースをチューチューしながらも、娘はまだご機嫌ナナメである。
私は先ほどの娘がいじけて寝転ぶ姿を思い出しては、可笑しくなってニヤニヤしながらペダルを漕いだ。
「運動会どうだった?」
「やだ!」
「そうかー。嫌かー。…間違えて走っちゃったのが嫌だった?」
「うん。」
「そうかー。」
娘の “すっかり子どもらしくなった” 様子が愛おしくて、私はうふふと笑った。
「でも大丈夫。娘ちゃんは一等賞だから。」
肌寒い秋の空気が漂う青空の下で、笑顔ひとつ見せない彼女の胸には、確かに金メダルがピカピカと輝いていた。
おしまい。
(2014年10月11日「はなこのブログ」より転載)