出口の入口:『働く君に伝えたい「お金」の教養』第1回

この本の企画は、ある20代半ばの編集者が困ったような、怒ったような顔をして僕のもとにやってきたことからスタートしました。

『働く君に伝えたい「お金」の教養: 人生を変える5つの特別講義』

20代と60代のチームでつくられた1冊

この本の企画は、ある20代半ばの編集者が困ったような、怒ったような顔をして僕のもとにやってきたことからスタートしました。

「出口さん、僕はいま、将来がとても不安です。

生まれてすぐにバブルがはじけ、物心がついたときからずっと『失われた20年』の長いトンネルのなかで過ごし、ようやく就職だと思ったら、今度はリーマン・ショックや東日本大震災まで起こったんですよ! 高度成長なんてどんなものかも知らない。いまの職場が10年後どうなっているかもわからない。政府はとんでもない財政赤字を抱え、年金だって破綻間近だと聞きました。

いまはなんとか普通の生活をしているけれど、がんばったからといって明るい未来が待っているわけでもなさそうで......。出口さんのような『逃げ切り世代』にはなれない僕は、これからが不安です」

話を聞いていくうちに、具体的には次のような不安を抱えていることがわかりました。

「年金がもらえないのではないかと不安」

「このままの収入で結婚し、子どもを産めるのか」

「定年退職するまでにいくら貯めれば安心なのか」......。

そう、彼の抱いている不安はすべて「お金の不安」だったのです。

年金問題ひとつ取り上げても、世代間格差といった不安や不満をむやみに煽るメディアは数多くあります。僕は「若い人が安心して子育てできるように」という思いで生命保険会社を立ち上げ、これまでに多くの若い方々と接してきました。だから、そうしたメディアの言説を真に受けて「どうせ自分たちの世代は......」とネガティブになってしまう人が多いことも、肌感覚で理解しています。

多くの若者が、漠然とした不安を抱えて生きている。もっと楽しく、そしてお金の不安から解放されて自由に生きてほしい――。

そう思い、日本の若い人、そして編集者の彼のために本をつくることを約束しました。たくさんの国に行き、たくさんの本を読み、たくさんの人と会い、長年保険業界でお金に関わってきた身として、次の世代に伝えられることはあるはずだ、と。

たまたま編集者の彼が僕を訪ねてきたのと同じ頃、ライフネット生命では、これまで以上に新しいことに挑戦する「チャレンジ30」と呼ばれる施策が行われていました。すると、僕が「20代向けのお金の本」をつくっていることを知った20代から30代の若手社員が、「チャレンジ30」の一環として出版に協力したいと手を挙げてくれたのです。

彼らは編集者と協力し、僕が語った内容を20代向けに「翻訳」したり古くさい表現を修正したりして、若者が「読みたい」と思えるような本に磨き上げてくれました(ライフネット生命はCEOと社員の垣根が低いため、容赦なくダメ出しされました......)。

僕は60代も後半の人間です。20代の読者に目線を合わせようと思っても、どうしても感覚にズレが生じてしまいます。僕が伝えたいこと、知っていることをどのようにまとめれば読者の方に届けることができるのか? 彼らは必死に頭をひねり、知恵を絞って考えてくれました。そのおかげで、僕は知恵や知識を伝える役に専念できたわけです。

本書で学べる5つのこと

さて、本書はお金の原理原則を、「知る編」「使う編」「貯める編」「殖やす編」「稼ぐ編」の5つの章に分け、講義形式で構成しています。

「知る編」では、年金や社会保障問題といった若い人が感じている不安の正体を、ファクト(事実)やデータをもとに丁寧に潰しています。

読者からも、本づくりに携わってくれた社員からももっとも反響が大きかったのは「使う編」でしょうか。若いうちは貯め込むな、お金は使ってこそ価値が出る、という考えが新鮮だったようです。「濃度の高いお金」が使える20代だからこそ、ただケチるのではなくどのように使うかを考え、「自分なりの使い方スタイル」を模索してください。

不安の矛先として向かいがちなのが、預金額。しかし、ただ無闇に口座残高を増やしていっても幸せにはなれません。「貯める編」では、最低限どれくらい預金しておくべきか、月々の給与からどのように貯めていくかご紹介しています。

「殖やす編」では、投資を「自分への投資」と「お金への投資」にわけ、投資の本質に迫ります。投資というと後者の株式や投資信託を思い浮かべますが(もちろん本書でも詳しく解説しています)、20代の方にとってリターンがより大きいのは自分に投資し、価値を高めることです。

最後が「稼ぐ編」。平均寿命が男女ともに80歳を越える現代においては、「稼ぎ続けること」がなによりも大事です。親世代とはまったく違う働き方、そしてこれから人口が減っていく日本での心構えと働く意味を解説します。

嬉しかったのは、これら5つの内容を講義するうちに、最初に僕を訪ねてきた編集者の顔つきがみるみる変わっていったことです。不安はどこかへ吹き飛んでしまったようで、明るく自信の満ちた表情になっていきました。

それと同じことを、読者ハガキや感想のメールでも感じています。みなさん晴れ晴れとして、「お金に支配されない生き方を選択しよう」という心意気が伝わってくるものばかりなのです。

それにしても正直、20代、30代の若い読者からこれほどの読者ハガキや感想のメールをいただくなんて思ってもいませんでした。とくに、出版元であるポプラ社の読者ハガキは自分で切手を貼って投函する形式なので、手紙を書き慣れていない若者には少しハードルが高い。それでもその一手間を惜しまず、たくさんの方が熱のこもったハガキを送ってくださいます。これは本当にありがたいことですし、弊社の若手社員も手応えを感じていることでしょう。

20代の若者にかぎらず、誰だって残りの人生を自由に楽しく生きたいですよね。その障壁となるものは、早いうちに潰したほうがいい。そのために、まずは「お金」とのつきあいかたについて、考えてみてください。

注目記事