領土拡張よりも失うもののほうがが大きくなりそうなロシア

クリミアのロシア編入決議があり、ロシア軍が制圧する状況となりましたが、さてどのように事態が移っていくのでしょうか。

クリミアのロシア編入決議があり、ロシア軍が制圧する状況となりましたが、さてどのように事態が移っていくのでしょうか。最悪は、親ヨーロッパと親ロシアの地域での内戦勃発、また分裂でしょうが、プーチン大統領は、これ以上のウクライナ分断は不要という発言で市場はやや落ち着いたと見て、ロシアの株、通貨がともに値が上がりました。

今日の資本が国境を超えて行き交う時代は、経済が相互に依存しあっており、ウクライナ情勢は、その複雑さを見せてくるものと思われます。

クリミアは、ロシア編入に喜ぶロシア系の人びとの姿が報道されたり、美人検事総長が登場したりと威勢がいいのですが、この先どうするのでしょうか。ロシアは軍事基地や港は守ったものの、クリミアからすれば、産業は観光ぐらいしかなく、しかも、ロシアとは地続きでないために、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、天然ガスの約25%、水道の70%、電力の90%とウクライナ本土にインフラを依存しているということでは、ロシア編入後もウクライナ依存は続くということです。

さっそくウクライナが電力供給をカットしはじめたのではないかというニュースも流れています。現代版の兵糧攻めです。そのリスクよりもナショナリズムをロシア系住民は選んだことになります。

欧米からの制裁は拡大するのでしょうか。ロシアの出方次第でしょうが、ヨーロッパはロシアからの天然ガスに依存しており、天然ガス供給ストップという最悪の事態は避けたいでしょうし、ロシアは輸出のほぼ7割が、天然ガスを主とした資源輸出に頼っている状態です。もちつもたれつの依存関係にあるわけで、事態のさらなる悪化はどちらにも打撃になります。つまり、膠着状態のまま駆け引きが続く可能性が高いのではないでしょうか。

しかし、そういった政治の駆け引きよりも、ロシアはもっと大きなものを失ってしまう可能性が高まってきています。ロシアは、GDP経済成長率が一昨年の3.4%から昨年は1.3%と成長に急ブレーキがかかってしまいました。ヨーロッパの経済成長の鈍化で、輸出の7割程度を占める鉱物、とくに天変ガス需要が減ったこと、また海外からのロシアへの投資にブレーキがかかってしまい、国内産業の成長の足かせになってしまったからです。経済の立て直しが求められているわけですが、産業を活性化させようとすると、産業基盤が弱いロシアの場合は、その原資となってくるのは海外からの投資です。

プーチン大統領就任時の目標の5%を下回る状況となってきたのですが、ウクライナ問題が長引けば、ロシアが経済成長で頼る海外からの対ロシアへの直接投資が細ってくることは避けられません。そうなるロシア経済減速という事態も起こってきます。

今、ロシアではクリミアのロシアへの編入で、プーチン大統領の支持率が高まったようですが、ナショナリズムの高揚に頼るというのはそうそう長続きしません。もしロシアに経済後退が起こり、閉塞感が広がってくれば、それが人びとの不満となり、やがて実質がともなわない支持率は剥げ落ちてきます。

昨年、フィナンシャルタイムズの社説が述べていたように、ロシアのウクライナへの介入は、さらにロシア経済を悪化させる可能性が高いのです。

成長鈍化がもたらす重大な問題は、生活水準の向上のために民主主義的な自由をある程度あきらめてきた市民とプーチン政権の暗黙の取引を揺るがすことだ。プーチン氏の1、2期目に、この取引を裏付けたような高成長がもはや望めないことは明らかだ。

調査会社キャピタル・エコノミクスによると、ロシアの固定資本投資は国内総生産(GDP)の21%にとどまり、中国の50%強、インドの35%、新興国平均の27%を下回る。中国が投資主導型から消費主導型の成長に移行すべきだとすれば、ロシアは正反対の方向を目指す必要に迫られている。

それでもナショナリズムの高揚や陶酔による政権基盤維持をプーチン大統領は選んでしまったのです。しかしそのツケが大きくのしかかってくる事態となれば、ロシア国民も、クリミアの住民も、いかにナショナリズムが経済のリスクを呼び寄せるのかを思い知ることになります。ただ、気がついた時にはもう時既に遅しということになるのではないでしょうか。

(2014年3月24日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

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