またTPPを理由にという怪しげな予算が盛り込まれたようです。そもそもが、農業になぜそこまで補助金をつぎこむのか理解に苦しみます。これまで、どんどん補助金をつぎ込んできたにもかかわらず、農業はそれに比例するように弱体化してきたというのにです。
予算規模は数百億円のようですが問題の「産地パワーアップ事業」は"個人の施設整備への補助"で、農業の集団化、また法人化によるパワーアップと矛盾する補助金だと週間ダイヤモンドが批判しています。選挙対策なら個人を対象としたバラマキが効きます。
今回のTPP対策では、農業でなく日本を衰弱させる悪夢となった1993年のガットのウルグアイ・ラウンドでの貿易自由化対策が教訓としてあったはずです。そんなバラマキへの反省や警戒感は与党内にもあったと思います。
当時の農林水産省と大蔵省の調整結果で、その関連対策費が3兆5000億円という予算が示されていたのですが、自民党議員が対策費を決めるのは政治だとして、強引に2倍近くの6兆100億円にまで膨らませたのです。
それはドブに捨てるように、温泉や保養施設、農業にはまったく関係がない、まるで高速道路のような広域農道などに化けていきました。それで農業が強くなったのでしょうか。いや逆です。
そして今回のTPP「政策大綱」ですが、輸出力強化なども盛り込まれているものの、また自民党の農水族から、「産地パワーアップ事業」だけでなく、さらに土地改良事業など公共工事予算の増額を求める声が強まっているようです。
凝りないというか、またそういった補助金に都市部の納税者側の立場を代表して、まっこうから反対する政党がでてこないのが日本の野党の弱さにつながっているのではないでしょうか。
民主党の岡田代表も農村票を集めたいのか、「TPPには、農業の現場からさまざまな不安が出ている。コメや麦などの5品目を守るという約束が果たされていないのではないかという点など、議論しなければならないことが農産物だけでもたくさんある」といったい立ち位置を誰に、またどこにおいているのかがよくわからないことを発言されているようです。それでは実際に予算をばら撒いてくれる自民党に票が流れて当然です。
自立し始め、また輸出に向かい始めた産地、それに農業法人にとっては、そんな後ろ向きのバラマキ予算はまったく必要がないはずです。
なぜ農業には金をばら撒くのか、それは兼業農家も含め、非効率な農業が残っているために関わっている人数が多く、選挙対策につながるからでしょう。
農業に関しては、もう農水省の詐欺まがいの「食料自給率」キャンペーンも、あまり聞かなくなりました。しかし、まだ党派を超えて「農水族」だけはそれを掲げ、予算をとって農村の票にしようとする姿はもう滑稽でなりません。きっと農村民主主義、シルバー民主主義の欠陥がそうさせるのだと思います。
いっそ、よく言われるように、子供にも選挙権を与え、親がその選挙権を子供に代わって行使して投票する制度にすればそんな弊害から抜け出し、もっと将来を明るくする政治が実現するのかもしれません。
(2015年11月30日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)