(ワシントンDC)― アメリカ政府は対ビルマ制裁を撤廃せずに、ビルマ国軍による民主化改革の妨害を防ぐべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは最近、オバマ政権がアウンサンスーチー国家最高顧問兼外相のワシントンD.C.訪問に合わせて主な制裁の解除を検討しているとの情報を得た。訪問は9月14日からの予定だ。9月2日付のマスコミ報道は、オバマ政権が制裁の全面解除も検討していると報じた。
State Counsellor of Burma Aung San Suu Kyi and U.S. Secretary of State John Kerry speak at a joint news conference in Naypyitaw, Burma, on May 22, 2016. © 2016 Reuters
「アメリカの制裁対象はビルマ国軍とその取り巻きであり、国民ではない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア・アドボカシーディレクターのジョン・シフトンは指摘する。「一連の制裁は、国軍に圧力をかけ、人権侵害の停止と文民政権への権力委譲を実現するうえできわめて重要である。民主的改革がしっかりと固まるまで、制裁は完全に解除されるべきではない。」
ビルマの金融機関、輸入、およびアメリカの対ビルマ投資を制限する制裁の多くは、2012年7月から2016年5月の間にすでに緩和または撤廃されている。残る制裁の大半は、国防省、国家武装組織、非国家武装組織、米国財務省の「特別指定国民」(SDN)リストに掲載された個人と法人に対象を絞ったものだ。
8月にビルマ下院は、成立すればアメリカの制裁に異議を唱えることになる法案を否決した。アウンサンスーチー氏率いる与党・国民民主連盟(NLD)の高官フラ・モー氏は、否決を受けてマスコミにこう述べた。「議論の余地はない。制裁対象はわが国[全体]ではなく、民主化への動きの妨げとなる存在に課されているからだ。したがって議会は、制裁緩和を訴える必要はない。」
5月の共同記者会見の席上、ビルマのアウンサンスーチー国家最高顧問兼外相とアメリカのジョン・ケリー国務長官は、根本的な欠陥のある2008年憲法の改正をビルマ国軍が認めることが制裁緩和の条件であると共に示唆したと思われる。現憲法は国軍に議員の25%を割り当て、国防相、内務相および国境問題相の任命権を認め、国家非常事態時には政府を解散させる権限を与えている。
ケリー国務長官は5月の共同記者会見で「制裁解除は、ミャンマーで民主化に向けた歩みが前進し続けられるかどうかにかかっている...。この歩みの完結はとても困難だ。実際のところ、現行憲法のままでは不可能だろう。憲法改正の必要がある」と述べた。
またスーチー氏は「私たちは制裁を恐れてはいない。精査されることが怖いのではない(...)。米国が友人であること、私たちを苦しめるためではなく、私たちの力になろうとして制裁を維持していることを私は理解し、受け入れ、信じている。私にはこのことを受け入れる用意がある。私は制裁を恐れていない」と述べた。
制裁の中核にあるのは、ビルマ国軍が長年不法かつ人権侵害的な開発に関与してきた宝石輸出だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。現行の制裁枠組の主な条項には、アメリカの企業と個人による軍人および軍所有企業との商取引の禁止、ビルマ産ヒスイと宝石の輸入禁止、企業と個人の当該セクターへの関与の制限がある。
ヒスイ・宝石セクターの問題に対処する最近のビルマの法制度改革は、全面的には実施されていない。結果的に、8月23日に米国税関・国境取締局は、ビルマからの宝石輸入を禁止する規定を更新・延長したと伝えられる。
米国財務省は「特別指定国民」リストに、アメリカの企業と個人に商取引を禁止するビルマ国民と法人を引き続き多数挙げている。アメリカ政府が、平和、治安、ビルマの政治改革の安定性を脅かすか、ビルマで人権侵害行為を実行または共謀したと認定した個人が複数存在する。
「アメリカの制裁対象者となるビルマ国民の多くが、犯罪容疑者で人権侵害の実行者だ」と前出のシフトン・ディレクターは述べた。「アメリカは真の経済発展の促進でビルマを支援すべきであり、軍政期に不法な利益を得た人びとを支援してはならない。」
またヒューマン・ライツ・ウォッチはオバマ政権に対し、制裁枠組の多くの部分が有効となるための基本的な「非常事態」を存続させるよう求めた。制裁の根拠である現行の大統領令が解除または改正された場合、制裁措置が再び実施可能な新たな大統領令に置き換えられるべきである。
アメリカ議会は、ビルマの主要な人権侵害の実行者に対する制裁措置の実施と継続に重要な役割を果たしており、ヒスイ・宝石セクターに関与する人びとは特にその対象となってきた。行政府がどのような措置を講じようとも、連邦議会は指導力を引き続き発揮し、適切な制裁法を維持すべきだ。ビルマ国軍が改革を後退させることがあれば、この措置は特に有効なものとなるだろう。
米国と海外ドナーはこのほか、ビルマの鉱山セクターと国または国軍の所有企業に関する財政上の透明性を強く求めるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。すべてのドナー、および世界銀行やアジア開発銀行などの国際金融機関は、歳入の透明性をビルマへの財政支援および採掘産業への投資の前提条件とすべきである。
米国など各国政府は、軍事協力と軍の訓練に関する制限を維持するとともに、二国間および多国間援助の増加は、主要な改革の実施と軍の文民政権からの撤退を条件とすべきだ。
「これまで制裁は常に、ビルマ国軍に対して権力放棄と改革実施への圧力となることが意図されてきた」と、シフトン・ディレクターは述べた。「事態が前進している今こそ、こうした目標の達成まで圧力がかけ続けられることが重要である。」
(2016年9月6日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)