(ジュネーブ)― シリアとイエメンでのクラスター爆弾による攻撃は民間人には許されない被害を生んでおり、強力な対応が必要だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書「クラスター爆弾モニター2016年版」で述べた。
2012年7月から2016年7月にかけて、シリア政府軍は360回以上の攻撃で少なくとも13種類のクラスター爆弾(大半は旧ソ連製)を使用した。ただし実際の数はこれをはるかに上回る恐れがかなり高い。ロシアが2015年9月30日にシリア政府軍との合同軍事作戦を開始して以来、反政府勢力支配地域でのクラスター爆弾使用回数が大幅に増加しているが、その大半は同国によるものと思われる。
「クラスター爆弾がシリアやイエメンで民間人に被害を出さないようにする最良の方法は、その使用を強く非難し、使用を続ける国に止めるよう圧力をかけることだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの武器局アドボカシー・ディレクターで本報告書を編集したメアリー・ウェアハムは述べる。「この悪名高い無差別殺傷兵器の被害者は、支援を受けるとともに、被害を否定されたり、退けられたり、ごまかされたりすることなく、まともな対応を得てしかるべきである。」
An unexploded M77 DPICM submunition found in Dughayj village, northern Yemen, after a cluster munition attack in June or July 2015. © 2015 Ole Solvang/Human Rights Watch
「クラスター爆弾モニター2016年版」は、クラスター兵器連合(CMC)の年次報告書。CMCは、ヒューマン・ライツ・ウォッチが共同設立し、議長を務めるNGOの世界的連合体だ。活動の目的はクラスター爆弾を禁止し、残存物の除去ならびに被害者支援を義務づける2008年の国際条約へのすべての国の加盟とその遵守である。現在クラスター弾に関する条約の批准国は100を超え、19カ国が署名している。
クラスター爆弾は砲台やロケット砲、発射体、航空機投下などによる発射が可能。通常は空中で爆発し、無数の子弾を広範に飛散させる。子弾は着弾時に不発であることも多く、地雷と同じく、除去・破壊されるまで長年にわたり潜在的な危害を及ぼす。
米国およびその有志連合が、2014年8月以降のシリアとイラクでのイスラミックステート(ISIS)に対する軍事行動で、クラスター爆弾を使った証拠はこれまでのところない。米中央空軍の報道官はワシントン・ポスト紙の取材に対し、「われわれは『生来の決意作戦』でクラスター爆弾を使用していない。米国と有志連合の飛行機ともにその通りだ」と回答している。
Man holding the remnant of a ribbon from an M77 submunition used in an M26 cluster munition rocket attack on Malus village, Yemen, on June 7, 2015. © 2015 Ole Solvang/Human Rights Watch
イエメンで2015年4月から2016年2月にかけて、少なくとも19回の攻撃で7種類のクラスター爆弾が使われていることが確認されたことを、クラスター兵器連合が報告している。使用者は、首都サヌアと一部地域を支配するフーシ軍(正式名称:アンサール・アッラー=神の支持者)への軍事作戦を展開しているサウジアラビアおよび連合軍だ。
このほかアゼルバイジャンとアルメニアが、係争地のナゴルノ・カラバフをめぐり2016年4月に短期間衝突した際、相手国が民間人にクラスター爆弾を用いたと互いを非難している。両国ともクラスター爆弾の使用を否定している。
米国はクラスター弾に関する条約に署名していないものの、5月にオバマ政権は、イエメンの民間人地域でクラスター爆弾が使用されたとの報道を受け、サウジアラビアへの引き渡しを見合わせた。非署名国のブラジルは、サウジアラビア主導の連合軍が、ブラジル製ASTROSII(多連装ロケットシステム)でクラスター爆弾を発射していることを示す証拠についてのコメントを出していない。
英国は、サウジアラビア主導連合軍によりイエメンで英国製BL-755クラスター爆弾が使用されている、との信頼できる報道に異議を唱えている。英国は2008年にクラスター弾に関する条約に加盟する前に、サウジアラビアにBL-755クラスター爆弾を引き渡している。
2010年8月1日にクラスター弾に関する条約が発効して以来、新たなクラスター爆弾の使用、生産あるいは取得が確認された報告や申立てのあった締約国はない。しかし署名国のケニアは、2016年1月にソメアリーアで同国がクラスター爆弾を使用したとの申し立てを否定している。
昨年、フランス、ドイツ、イタリアが本条約に従い、貯蔵するクラスター爆弾の破壊を終えた。2015年は本条約の下で、9カ国がクラスター爆弾計79,000発、子弾計870万発を破壊した。
「クラスター爆弾モニター2016年版」は、締約国が2015年末までに約140万発の貯蔵弾(計1億7,200万発の子弾を内包)を破壊したことを明らかにしている。締約国が貯蔵を申告するクラスター爆弾全体の93%、子弾全体の97%が破壊されたことになる。
クロアチア、スロバキア、スイスでは貯蔵弾の破壊が大きく進んでいるが、ボツワナ、ブルガリア、ギニアビサウ、ペルー、南アフリカ、スペインは貯蔵弾の破壊を始める予定と述べているものの、作業にまだ入っていない。
「貯蔵されているクラスター爆弾の破壊を進めることは、人の生命や生活の破壊を防ぐことだ」と前出のウェアハムは述べる。「監視を継続し、貯蔵弾の破壊を進めることこそが、本条約のこれまでの優れた遵守状況を損なわないためには欠かせない。」
クラスター兵器連合によれば、2015年に少なくとも417人がクラスター爆弾の犠牲となった。うちシリアの犠牲者は214人、イエメンは104人で、大半はクラスター爆弾による攻撃中に亡くなっている。爆発性の残存物、とくに不発の子弾による犠牲者が多数出ることが予想されるため、シリアでは緊急救援部隊が、イエメンでは現地の地雷除去隊が個別に緊急対応し、除去・破壊活動を行っている。
シリアとイエメンで禁止対象のクラスター爆弾が使用され、民間人が犠牲となっている現状は、ただちに世論の激しい抗議を招き、世界的に報じられてもいる。クロアチアで行われた2015年9月の第1回再検討会議では、締約国により「ドブロブニク宣言」が採択され、「あらゆる主体によるクラスター爆弾のいかなる使用も非難する」ことがうたわれた。
2015年11月に民間企業のシンガポール・テクノロジーズ・エンジニアリング(STE)社はクラスター爆弾の生産停止を発表した。シンガポールは条約締約国ではないが、クラスター爆弾の輸出凍結を遵守している。報告書はシンガポール政府がクラスター爆弾の取得停止を公約しない限り、同国をクラスター爆弾製造16カ国の1つとして引き続きリストアップすることになる。
2015年12月には本条約を支持する初の国連総会決議が投票で採択されることとなり、圧倒的支持の賛成139、反対2で可決された。棄権した40カ国は、キプロスとウガンダを除きすべて未締約国だ。両国は署名済みだが批准はまだだ。
クラスター弾に関する条約に最近加盟した国にはキューバとモーリシャスがある。
「クラスター爆弾をいまだに禁止していない国々は、その態度を見直すとともに、本条約への加盟を公約し、この兵器の被害者と手を携えるべきだ」と、前出のウェアハムは述べた。「問題は、こうした兵器がもたらす苦しみに終止符を打つために定められた唯一の国際条約になぜ参加するかではなく、どうして参加しないのか、である。」
(2016年9月1日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)