米国:トランプ氏の提案は無数の人びとの権利を侵害しうる 次期大統領への書簡で危険な公約の撤回を要請

「選挙キャンペーンの過程でなされた、危険な公約や提案の実施をとりやめるという重い責任を、あなたは大統領として負うことになる」

(ニューヨーク)― ドナルド・トランプ米次期大統領は、もし実施されれば、米国内外の実に多数の人びとに危害を与えることになるであろう公約を撤回すべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチはケネス・ロス代表からトランプ氏に送付した書簡内で述べた。

本書簡でヒューマン・ライツ・ウォッチは、深刻な人権懸念を抱かせる、トランプ氏の拷問やグアンタナモ米軍基地、移民、難民、女性の権利、ヘルスケア、報道の自由に関する発言を引用した。

ロス代表は、「選挙キャンペーンの過程でなされた、危険な公約や提案の実施をとりやめるという重い責任を、あなたは大統領として負うことになる」と記した。「こうした提案をきっぱりと取り下げ、あなたの名を冠した憎悪のレトリックや行為を非難し、国際人権法や人道法の下の米国の義務を守ると約束することが、その第一歩となるだろう。」

US President-elect Donald Trump addresses supporters during his election night rally in Manhattan, New York, November 9, 2016.

トランプ氏は、米国法および国際法が犯罪と定める拷問を使用するという案を否定すべきである。 拷問のいかなる使用も、関与した個人の刑事責任を問うことに繋がる可能性があり、かつ米国の国家安全保障を損なうことにもなりかねない。これには、拷問を正当化しようとする法的意見の起草さえも含まれる。トランプ氏は最近、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで、これまで考えていたほど拷問が効果的ではないかもしれないと気づいた、と述べているが、これらの行為に対するかつての支持をはっきりと撤回すべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはトランプ氏に対し、ジュネーブ条約ほか武力紛争法に対する米国のコミットメントを再確認し、選挙キャンペーン中に示唆した、致死的な軍事作戦で一般市民を標的にするという戦法を、明確に否定するよう強く求めた。また、グアンタナモ米軍基地における無期限拘禁の拡大などの提案が、諸権利や米国の国家安全保障に重大な危険を及ぼすことも強調した。

数百万人もの移民を強制送還するというトランプ氏の公約は、米国にとり大規模な人権侵害の道を開くことになりうる。 また、人種プロファイリング、恐怖、警察への不信感を促進することで、公共の安全が損なわれる可能性もある。 イスラム教徒を登録し、特定の国の出身者を「極度に審査」するという提案も重大な侵害となるだろう。

加えて、スティーブ・バノン氏の主席戦略官兼上級顧問への起用も取り消すべきである。この起用は、トランプ氏の大統領選キャンペーンを特徴づけた人種差別主義的、女性嫌悪的、かつ外国人嫌いのレトリックを改めて明確にするものだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、女性の保健、安全、および権利を脅かす可能性のある提案についても指摘した。 トランプ氏は、米連邦最高裁判所の判事に「妊娠中絶反対派」を指名すると公約。このことでロー対ウェイド判決(合衆国憲法は女性の中絶の権利を保障しているという判決)が「自動的に」覆されるだろうと述べている。そして、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する)医療へのアクセスを広げた医療費負担適正化法(ACA)の大半を廃止するとも公約している。同法のもと、米国は医療アクセスの分野で重要な前進を果たしたが、それを維持するための計画は何も提案されていない。加えて、性暴力に関するトランプ氏の冷淡な声明は、女性に対する暴力が常態化するリスク、およびこれと闘う取組みが損なわれるリスクをはらんでいる。

トランプ氏が初期に提案した外交方針の中には、大規模な人権侵害を犯しているシリアやロシア、エジプトといった政府との無批判な協力を示唆しているものもある。

ロス代表は、「米国の人権へのコミットメントや法の支配からの後退を示唆する声明は、米国内の人びとの安全と、世界における米国の地位を脅かす」と指摘する。 「諸問題への立場をあいまいにしておくことさえ、長期にわたる腐食作用をもたらすだろう。」

(2016年11月23日「Human Rights Watch」より転載)

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