ジンバブエ:夫と死別の女性 財産権を奪われる

ジンバブエ政府は速やかに、寡婦をこうした悪しき慣習から救うための対策を講じるべきだ。

Two widows in eastern Zimbabwe, facing harassment from in-laws who are trying to force them to vacate their homes and fields. Rural Eastern Zimbabwe, October 2016.

© 2016 Tendai Msiyazviriyo for Human Rights Watch

(ハラレ、2017年1月24日) - ジンバブエでは夫と死別した女性(寡婦)が家を追われたり、土地や財産を義理の家族に奪われることが常態化していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。ジンバブエ政府は速やかに、寡婦をこうした悪しき慣習から救うための対策を講じるべきだ。

報告書「『お前には何もやらない』:財産権・相続権を奪われたジンバブエの寡婦たち」(全52ページ)で、夫を亡くした直後に義理の家族から、それまで夫婦で何十年も暮らしていた家や土地、あるいはその他の財産を引き渡すよう迫られている寡婦の実態が明らかになった。

ある寡婦は夫の葬式の後、集まった親族の前で義理の兄弟から言われた言葉を次のように引用した。「彼は私に面と向かって言いました。お前はクズだ。何も渡さない。全部俺のものだ、と…。」

本報告書を執筆したヒューマン・ライツ・ウォッチ調査員のベサニー・ブラウンは、「財産の剥奪で夫を亡くした女性たちが被る悪影響は甚大だ」と指摘する。「財産を奪われた女性たちは、住むところや生活の糧を失い、貧困状態に陥っている。」

Widows in Zimbabwe are routinely evicted from their homes and land, and their property is stolen by in-laws when their husbands die.

本報告書は、2016年5月〜10月にジンバブエ全10州の寡婦59人に行った聞き取り調査を基に、彼女たちが置かれた脆弱な状況と直面する人権侵害を調査・検証したもの。

ジンバブエは2013年、遺産・財産権もふくめ、女性に平等な権利を保障する新憲法を制定した。しかし実際のところ、既存法は政府に婚姻届を出していた寡婦にしか適用されない。ジンバブエでは結婚の大半が慣習法の下で行われているため、婚姻が公式登録されておらず、親族による財産剥奪から寡婦を保護する法律が適用されないでいる。

寡婦の多くは自らの財産をまもったり、またはそれを取り戻すために法的措置を取ることに関し、乗り越えがたい障壁に直面している状況を詳述した。

夫の死を悲しむかたわらで親族をかわしつつ、牛といった生活の糧となる財産を売却して、裁判の費用や交通費を捻出することはこうした障壁の一部に過ぎない。

公式な婚姻届なき慣習的な夫婦関係であれば、裁判で不利になると寡婦たちは証言する。裁判所は、まさに利益相反の関係にある義理の家族に婚姻関係の確認を求めるため、寡婦の命運は完全に夫の親族が握ることになるのである。

本報告書の聞き取り調査に応じた寡婦のなかで財産を確保できたのは、ほとんどがLegal Resources FoundationWomen and Law in Southern Africa Research and Education Trust, Zimbabweといった団体の法的支援を受けた人たちだ。

高齢の寡婦たちは、家や夫と共に耕してきた畑を失ってしまったことに絶望を感じると証言する。これまでの生涯を通じて培ってきた暮らしを再建する時間もエネルギーも残っていないからだ。多くは主な生活の糧、土地を取り上げられてしまい、生計が立てられなくなっている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、高齢者の脆弱性が人権侵害と密接な関係にあることを立証する取り組みの一環として、本調査を行った。

世界中で高齢者人口が急速に増加していることに伴い、差別、年齢差別、ネグレクト、虐待行為が高齢者にどのような影響を及ぼしているのか、また政府が高齢者の権利を守るためにどのような措置をとるべきなのかを理解する必要性が高まっている。

2050年までに世界人口のほぼ4分の1にあたる20億人が60歳以上になる。その過半数は女性だ。寡婦たちは異なる国や文化的背景で、実に様々な課題に直面している。

南部アフリカ地域では、こうした財産剥奪が常態化している可能性が高く、その他の経済的オプションを持っている高齢女性は少ない。寡婦はどの年齢層においても財産剥奪のリスクを抱えており、その悪影響は深刻だ。

聞き取り調査対象者の中には、夫の死亡直後にそのまま家を追い出されたという女性も一部いた。家を去れと、義理の家族から脅迫や身体的な威嚇、侮辱を受けたという女性たちもいる。亡き夫の遠い親戚が数年後に突然現れ、財産を奪っていったケースもあった。

多くの女性は、配偶者と築いた財産を維持する権利を有していることを知らなかった。長年にわたり人生を共有し、自分や子どもをサポートしてくれるだろうと期待していた義理の家族との関係が悪くなることを恐れていたと語る女性たちもいる。

2012年の国勢調査によると、ジンバブエには58万7,000人の寡婦がおり、60歳以上の大半が夫に先立たれている。国連食糧農業機関(FDA)は、農村地域の女性の少なくとも70%が公式書類なき慣習的な婚姻関係にあり、慣習法に基づいて生計を立てていると推定している。

前出のブラウン調査員は、「ジンバブエ政府は、慣習的な夫婦関係を含むすべての婚姻を公式登録し、かつ婚姻法を改正し、かつ寡婦の財産権に対する意識を高めるために、すみやかな措置を取る必要がある」と指摘する。「そうすれば、夫に先立たれた途端に家を追い出されてしまうという不条理から、多くの女性をまもることができるようになるだろう。」

報告書からの抜粋証言:

彼[私の義理の兄弟]は私の畑をすべて奪い、私の家の玄関先まで庭をも耕しました。今は「彼」の畑を歩き回るなと言ってきます。そこは私の土地ではないからと。村長に報告したら、物ごとを荒立てるなと言われました。義理の兄弟は強引です。もしかしたら私たちが苦しんでるのを見るのがうれしいのかもしれません。この歳になってどこへ行けというのでしょう。新境地を開くなんてとても無理です。

- デボラ(58歳)・東マショナランド州

私の夫がなくなる数年前に、私の義理の兄弟の葬儀で、彼ら[私の義理の家族]が義理の妹と子どもからすべてを奪い去り、彼らはすっかり貧乏になってしまいました。それで私が面倒をみることにしたのです。今は私の義理の母が、亡き息子[私の義理の兄弟]とその妻のものだったベッドで、夫婦の結婚の贈り物だった毛布に包まれて眠っています。

−チャリティ(49歳)・東マショランド州

私は遺言をみていませんが、裁判所にあることがわかりました。私の義理の兄弟が[夫の遺言の]執行者でしたが、彼は私をひどい目にあわせたのです。[夫の死の]直後に、私は食糧を確保するために家財道具を売りました。それを見た義理の兄弟が、勝手に売ったとして私を逮捕させたのです。裁判では無罪になりましたが、公判前に1週間、留置所に入れられました。本当にひどい体験でした。1週間が1カ月のように感じました。

−ミンディ(54歳)・ミッドランズ州

夫が葬られるよりも前に、義理兄弟が動いていました。役所から役所へと走り回って夫の年金を手に入れようとしていたのです。彼ら[役人]にまだ年金の準備はできていないが、死亡証明書が必要だと言われ、義理の兄弟は私の夫は寡夫だったと嘘をついて、死亡証明書を手に入れました[後略]。私がそれを知ったのは、夫の死後3週間経ってから。義理の兄弟は私から車を奪っていきました。こんなことをされてとても驚いています。それまでは仲のいい親戚でしたから。

−ベテル(41歳)・ブラワヨ市

(2017年1月23日「Human Rights Watch」より転載)

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