昨日安倍内閣は安全保障に関し、「国家安全保障戦略」、「防衛大綱」、「中期防衛力整備計画」を発表した。これに対し、BBCはこの具体的な中身とこれを懸念する日本国内世論を紹介している。一方、新華社通信は、最早お約束といって良いかも知れないが、日本の右傾化、軍国主義化など手厳しく批判している。しかしながら、今までは中国以上に「歴史を直視しない国に未来はない」、「右傾化により日本はアジアで孤立する」などと、機会を捉え対日批判を繰り返して来た韓国、朴大統領の声が聞こえて来ない。日本の安全保障政策を支持したという事であろうか? 私は韓国、朴大統領は従来の対日外交の抜本的な見直しを迫られていると理解している。
■ 韓国、朴大統領が直面する三つの課題
韓国、朴大統領は三つの深刻な課題に直面しており対日批判を繰り返している場合ではない。年明け早々にでも日韓関係改善に向け舵を切る必要に迫られていると考えている。
その第一は、高まる北朝鮮の脅威である。日本は日本海を隔て北朝鮮と対峙している。従って、核や核弾頭を搭載するミサイルの開発計画と開発の進捗を注視しつつ対策を練れば良い。時間的余裕がある訳だ。しかしながら、地続きの韓国の場合、そんな悠長な事はいってはおれない。在来兵器による攻撃が来年早々にあったとしても不思議はない。従って、日米韓、安全保障体制の強化は待ったなしの状況である。
第二は、迫り来る通貨危機への対応である。アメリカ経済は堅調に推移しており懸案の失業率が7%を切り、6%台になるのも時間の問題である。一方、アメリカ経済は好調で2014年の経済成長率は+2.2%との予測である。FRBが拙速にQE縮小に向かうとは思わないが2014年中にQE縮小に向け舵を切るのは確実であろう。当然、これを受け韓国市場に投資された資金はアメリカに帰って行く事になる。韓国は貨準備態勢が脆弱であり、これを座視すれば投機筋に狙い撃ちにされ、韓国通貨ウォンが売り浴びせられる事になる。韓国に取って、これを未然に回避する最良の施策は日本との「通貨スワップ」の締結であろう。
最後は、脆弱な韓国社会福祉体制への対策である。中長期的には高齢者に対する年金額増額に代表される社会福祉一般の改善を実行する必要がある。一方、短期的には経済成長を達成し、少なくとも社会保障受給者の数を増やさない、税収増により社会保障の財源を確保する事が必要と思う。朴政権に移行後、貿易の中国依存を加速している様に見受けられるが、不良債権問題、労働者の賃金の上昇、公害問題などもあって、今後中国経済は調整色を強めて行く事になる。従って、韓国に取って通商の対中依存一本槍は極めてリスクが高い。実質日本とのFTA締結という事になるがTPPに加盟し、アジア・太平洋地域重視に舵を切り直す必要があるのかも知れない。
■ 韓国の安定は日本の国益に資する
昨年8月に韓国、李明博前大統領は突如竹島に上陸した。更に天皇は謝罪すべきなど、普通の日本国民ならば到底許容出来ない言葉を発した。以来日韓関係は悪化の一途を辿っている。朴大統領に政権が移行し、本来ならば悪化した日華関係を復元すべき努力をすべきところを、朴大統領はまるで李明博前大統領に対抗するかの如く世界中で日本を誹謗中傷する事をやめようとはしない。これでは、日本国民が韓国嫌いになるのも致し方ない。しかしながら、外交を好き嫌いでやるべきでないのも今一方の事実である。
韓国が安定し対北朝鮮防衛の最前線を担当する事によって、日本の役目は後方支援に限定される。尖閣によって顕在化した様に今後日本は長きに渡り中国の領土的野心と対峙せねばならない。実質、テロ国家、ならずもの国家である北朝鮮の脅威は決して看過出来ず、それ故に北朝鮮との間に韓国という、日本に取っての緩衝地域がある事は日本に取り望ましい訳である。
北朝鮮は、本来終戦直後にスターリン率いるソ連軍が北緯38度線以北の朝鮮半島を占領して共産主義国家を建設するための傀儡政権に過ぎない。しかしながら、本家本元のソ連が崩壊した後も、傀儡政権を管理する方便に過ぎない金一族が3代も続く独裁国家を建設し、世襲王朝を現在に至るまで維持している。流石に4代目はないだろうし、3代目の終焉もそんなに遠い将来ではないだろう。問題は王朝の終わり方である。巷間伝えられる様な軍の暴発に起因するものであれば結果多数の難民が発生する事になる。日本は応分の支援はするとしても、この難民は同じ民族である韓国に先ず引き受けて貰わねばならない。
一方、対韓貿易に目を転じてみる。対韓貿易は一貫して巨額の日本の貿易黒字が維持されている事が一目瞭然である。韓国は日本から「技術」を導入し、「生産機器」、「主要部品」、「高機能材料」を輸入し、組立、全世界に輸出している訳である。日本からの迂回輸出といっても良いだろう。好調な韓国経済は、結果、日本の国益に資す事になる。
■ 成果があったバイデン米副大統領の訪韓
私は膠着した日韓関係の打開、改善をバイデン米副大統領の訪韓に期待した。
■ バイデン米副大統領の韓国訪問に期待する
バイデン米副大統領が来週日中を訪問の後韓国を訪れ朴大統領と会談する。日韓首脳は本来、北朝鮮問題(ミサイル及び核開発)、中国問題(一方的な防空識別圏設定他)、通商問題(TPP他)胸襟を開き話合わねばならないはずである。しかしながら、朴大統領の奇矯で頑固一徹な性格が災いして一向に首脳会談が開催される可能性は見えて来ない。従って、ここは「苦しい時の神頼み」ではないが、バイデン米副大統領の仲裁に期待しても良いのではないだろうか? 具体的中身は、「韓国のTPP加盟」、日本の集団的自衛権行使認可を容認する「対北朝鮮対応」、「対中国対応」(一方的な防空識別圏設定他)といったところである。
仮に朴政権が軟化し、こういった課題に前向きに対応する様であれば韓国経済のアキレス腱ともいえる「通貨危機対応」に日本が支援するという事もあり得る。日本として実質的な費用がかからない「通貨スワップ」を再開する訳である。日本の後ろ盾があれば国際投機筋が韓国通貨ウォンを売り浴びせる展開にはならないはずである。
韓国、朴政権が誕生して約1年が経過した。率直にいって迷走が続いた1年だったと思う。そして、この迷走を更に続ける様であれば人心は離反し朴大統領はレイムダック化してしまう。それが嫌なら、朴政権は安全保障、通商、そしてそのベースとなる外交などで現実路線に舵を切りなおす必要がある。バイデン米副大統領の説得に改めて期待する。
期待通り、或いは、期待した以上の効果があったのではないだろうか? 少なくとも、今後は過度の対中傾斜は改まり、喫緊課題である安全保障に関して、バイデン副大統領の12月6日に朴大統領との会談で、「米国は韓国に賭け続けるだろう。米国の反対側に賭けるのは良い賭けではない」という忠告を尊重する事になる。朴大統領は就任後、安全保障はアメリカに丸投げし、通商は中国といった様に両大国を手玉に取り、大物ぶりを国民に見せ付ける事に腐心して来た。勿論、対日批判もその一環である。そして、今回かかる韓国外交に対し同盟国アメリカから駄目だしが出た訳である。朴大統領としてはアメリカの意向に従い、日米韓の安全保障体制の強化、深化に舵を切り直すしか選択の余地はない。
■ 日韓仕切り直しの第一歩は財務相会談
産経新聞が伝えるところでは、日韓財務相会談を開催と韓国紙が報道 来年1月開催と、との事である。韓国財務省関連喫緊課題といえば「通貨危機対応」であろうから、多分来月日韓通貨スワップ協定の再開が議論されるはずである。通貨スワップについては、日本政府は要請主義を取っていたはずなので、本来は外交ルートで韓国側から正式の要請書を提出し、日本政府が審査の後許可するという形式のはずである。しかしながら、朴大統領の面子を立てて日韓財務相会談のテーマにしたのであろう。日韓通貨スワップ再開が決着すれば、何事も極端から極端に動く韓国の事であるから、今度は出遅れているTPP加盟に向けての側面支援とかいって来るかも知れない。その時は、2013年に朴大統領が如何なる対日批判を繰り返したなどと野暮な事はいわず、日本の国益を第一に是々非々で対応する事が肝要と思う。2014年、日韓関係は安倍政権が対応を間違わなければ大きく改善するはずであり、これは結果として日本の国益に資するものである。