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2015年12月03日 22時18分 JST | 更新 2016年12月03日 19時12分 JST

シリーズ「2016年台湾総統選」日本人として、台湾総統選に思うこと

この総統選は日米にとって他人事ではありません。

中華民国総統選挙、いわゆる台湾総統選です。

その舞台を台湾に移して以降、ほとんどを中国国民党が制しています。

中国国民党とは、現在の中国共産党に破れた中国の民主主義政府です。初の総統直接選挙は1996年に実施されました。そして同年に第3次台湾海峡危機が起こります。二国論(両国論)を提唱した李登輝元台湾総統に対する中国側からの圧力です。この圧力に屈せず、李登輝氏が当選しましたが、その後の台湾政府は対中融和政策を進めました。

いよいよその審判を仰ぐ中華民国総統選挙が2016年1月16日に行われます(1)。

■注目すべき、認識の違い

現在は中国国民党が政権を担っていますが、次期総統選では台湾共和国の建設を掲げる民主進歩党が政権を担おうとしています(ロイター11月9日発表支持率、民進党48%、国民党21%)。

以前一度、民主進歩党が政権を担いましたが、スキャンダル等によって再び国民党に破れ、現在の政権になっています。しかし、いよいよ台湾世論が、中国や中台関係強化への不信をつきつける日が近づいてきました。

民主進歩党は台湾に生まれた本省人(台湾人)を主体とする政党です。時代とともに台湾国民の感情も変化しています。特に若者世代は中国離れが加速しています。

そして我々が普段日常生活を過ごしていても、こういう言葉を耳にします。「台湾は親日国だ」。

このように、日本国民の間では親日国、親日国家だと(台湾を国として)表されますが、日本政府は国家としては扱っていません。この認識の違いにも注目したほうがいいでしょう。

■国民感情の本質

さて、日本が台湾を統治していたのは周知の事実ですが、待遇は同じ帝国支配下にあった韓国と大きく異なったため、現在の国民感情がまったく違います。

その本質を李登輝元総統が、日本政策学校における講義で以前語ってくださいました。

「1898年に第4代総督として後藤新平氏が台湾に来ました。元々いた官吏をクビにし(台湾人にこれが出来なかった)、優秀な人材を、日本から呼んできました。そしてその中の一人に新渡戸稲造(武士道著)氏がいたのです。彼は私の先生です。このような優秀な人達が今の台湾の基礎を作ってきました。台湾経済を変えた日本人の水利技術者・八田與一氏もその優秀な人材の一人です」。

李登輝元総統は台湾人として、そして恩返しも込めて、阪神淡路大震災が起きたときに直ちに救援部隊を送る旨を日本政府に伝えたそうです。しかし、ご存知の通り台湾政府と日本政府には国交がありません。ですので、日本政府は救援を受け入れませんでした。つまり日中関係に配慮した外交です。

李登輝元総統はこの時、「台湾はこんなに親日なのに、日本政府は台湾を受け入れてくれない」と嘆いたそうです。

そして最近では東日本大震災の時、台湾からの義援金の額(200億)に日本人も驚いたことでしょう。また、このような支援を受けたにもかかわらず、1周年追悼式で台湾代表団に献花の機会を与えなかったことも記憶に新しいと思います。中国への配慮から、このような親日国を冷遇する事態に対し、日本国民として恥ずかしいばかりです。

(※現在の政権になってからは、日台漁業協定の締結等、日本政府の対応も良好なようです。)

■台湾で政権交代があった場合の中国

さて、台湾総統選に話を戻します。民主進歩党に政権交代した場合、今後台湾はどうなるのでしょう?

当然中国共産党はおもしろくありません。これは想像の範囲内ですが、誰しも民主進歩党をつぶしてかかるのは目に見えています。やり方はいくらでもあります。台湾海峡危機の時のように、圧力をかけるかもしれません。また、チャイナマネーを絡ませて、スキャンダルを押し付けるかもしれません。

しかし前回と違って、もう台湾国民の感情は中国に向かないのではないでしょうか?

それを焦ってか、現在の国民党党首と分断後初の会談を行いました。しかし結果はどうでしょう、低支持率はほとんど変わっていません。

■他人事ではない

この総統選は日米にとって他人事ではありません。

先に可決された安保法制がまさにそれです。

再び歴史の話になりますが、第3次台湾海峡危機とは、中国が行った台湾海峡付近での軍事演習です。李登輝元総統の独立志向の顕在化に反対したものでした。しかし、圧力による中国の企図は逆効果であり、最終的には李登輝氏が当選しました。

そして、この台湾海峡危機は、台湾に対するアメリカの武器販売を強め、日本が台湾防衛で果たす役割を高めて日米間の軍事協力を強める結果となりました。

従来日本政府は、「台湾海峡問題」に関して基本的に不干渉でしたが、この第3次台湾危機で懸念を強めた日本は、それ以降中国の武力行使には累次の機会において明確に反対を表明し、自制を求めるようになりました。

現在でも、「日米安保」は「台湾地域を含む」と理解されています。つまり、日本は台湾問題に危機が起きることを回避しようとしている点で、台湾の大多数の人々と意見が一致しており、同時に不測の事態には日米安保で対処する姿勢も示しています。

まさに、最近可決された安保法制が重要な意味をなします。今度の総統選で再び有事がおこれば、日本国民は、政府の舵取りを注視することになるでしょう。

■日本にとって、今こそが好機

また、民主進歩党で次期総統と噂される蔡英文氏が先日極秘に安倍首相と会ったとされています(2)。

果たして何を意味するのでしょうか?

2016年の台湾総統選で政権交代を実現すれば、確実に台湾は中国から遠ざかると思われます。つまり現在の対中融和政策から一転して、日米寄りになることが予想されます。そしてこの事態を打開しようと中国共産党が動くのも当然です。

しかし、今こそしっかりと台湾と手を結ぶ時だと思います。そしてこの総統選がチャンスです。もちろん、果たせない約束や中国の反感を招くことは禁物です。米国の従来の対中戦略的曖昧さのもとに、中国の暗黙の了解を侵さない形で台湾を支援できる政策を考えるべきです。

■"台日関係は一本の花束で表せるものではない"

多くの国と同様に、一方的に国交を断絶してしまった日本政府、それでも台湾は親日国のままでした。日中関係はもちろん重要ですが、武士道の精神として、この政権交代を期に礼儀を尽くすべきではないでしょうか。

震災の追悼式での台湾冷遇に対し、「台日関係は一本の花束で表せるものではない」と答えた台湾外交。新たな日台関係を築くという点においても、台湾総統選は、日本全体が注目すべき選挙ではないでしょうか。

編者:北原 秀治(きたはら しゅうじ)

日本政策学校 第2期生

ハーバード大学博士研究員、UJAW(全世界日本人研究者ネットワーク)世話人、BJRF(ボストン日本人研究者交流会)幹事。東京女子医科大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。癌研究をする傍ら、日本政策学校、ハーバード松下村塾(ボーゲル塾)で政治を学ぶ。専門は解剖組織学。「政治と科学こそ融合すべき」を信念に活動中。

編集協力者:クリストファー・セジウィック

フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。プリンストン大学東アジア研究学部を経て2009年~2012年まで在サンフランシスコ日本国総領事館政務班補佐兼総領事スピーチライターを務める。2012年~2013年まで日本政府国費研究留学生として東京大学大学院法学政治学研究科に在学。専門は東アジア研究、国連平和維持活動、紛争分析など。

参考文献

1:日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM19H1H_Z10C15A7FF8000/

2:産経ニュース

http://www.sankei.com/west/news/150929/wst1509290010-n1.html

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