『スター・トレック イントゥ・ダークネス』-宿輪純一のシネマ経済学(7)

いきなりなんであるが、筆者は『スター・トレック』のファン(トレッキー)である。最初は、何回も再放送していたテレビシリーズ『宇宙大作戦』(邦題)であった。今にして思うと、何とも言えない邦題であると思う。ここが大事なのであるが、この頃から基本設定は変わらない。

『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(Star Trek Into Darkness)2013年(米)

いきなりなんであるが、筆者は『スター・トレック』のファン(トレッキー)である。最初は、何回も再放送していたテレビシリーズ『宇宙大作戦』(邦題)であった。今にして思うと、何とも言えない邦題であると思う。ここが大事なのであるが、この頃から基本設定は変わらない。

『スター・トレック』は人気のあるシリーズで、テレビシリーズ、アニメシリーズに加え、映画も12本も作成されている。映画は大きく分けて3つに分けられる。79年の『スター・トレック』からのシリーズ(6本)は、オリジナルメンバーのテレビシリーズの延長によるものである。次の94年の『ジェネレーション』はピカード船長による新シリーズ(4本)である。そして、本作品も含むが2009年の『スター・トレック』はオリジナルメンバーの若い時と行った設定である。それぞれに味がある。

本作の監督は、2009年の『スター・トレック』に続き『LOST』などを手がけケーブルテレビから出てきたJ・J・エイブラムスである。『M:i:III』(ミッション:インポッシブル3)、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』などを手がけている。2015年公開予定の『スター・ウォーズ エピソード7』の監督となった。映像が型破りなほか、脚本家出身なのでストーリーもしっかりしている。

基本的な設定はオリジナルシリーズと変わらない。ウィリアム・シャトナー演じたカーク船長はクリス・パイン、そして、レナード・ニモイが演じたスポックはザカリー・クイントが演じる。そして、強力な悪役ハリソンに『裏切りのサーカス』のベネディクト・カンバーバッチが配された。

前作の1年後の23世紀、若いカーク船長率いる.エンタープライズ号は、窮地に陥ったスポックを救出するため、そして、惑星の未開種族を絶滅の危機から救った。しかし、規則に違反したということで、カークは船長を解任される。

そのころ、ロンドンで大規模なテロが発生する。テロの犯人、ジョン・ハリソン中佐はクリンゴン帝国に脱出する。ハリソンをおって、カークが船長に戻ったエンタープライズが出動する。新しい武器:光子魚雷を搭載することにもなった。

その後、カークはハリソンの殺害を命令されていたが、スポックなどの説得により、生け捕りにすることに。ハリソンは超人的な強さで、エンタープライズサイドの部隊二大打撃を与えるが・・・。今回、このハリソンという強力な悪役のおかげで、ストーリーが随分締まった。新『バットマン』シリーズ(ダークナイト)のジョーカーのような感すらある。

このシリーズが面白く長続きする理由は2つあると考えている。一つ目は場面や技術は新しいが、基本的は普遍的な人間のテーマを扱っているところである。だから、何回見ても飽きない。基本設定は「宇宙版西部劇」だったことも一因であろう。

しかも、このカーク船長のような指揮がアメリカ人の考えるリーダーシップなのだろうと考える。東大の大学院で企業戦略を教えているときに、アメリカ型の経営を研究したが、そのような冷静な組織的なやり方と、実際、伸びている企業は少々違うようである。このカーク船長は何かあると真っ先に突入する。昔は、新しい惑星の怪獣型宇宙人と取っ組み合いも良くしていた。このような陣頭指揮型がやはり人を惹きつけるようである。9.11のときのジュリアーノ市長の陣頭指揮もかなり注目されていた。

2つ目の理由は、シリーズを時代に合わせて、変化させている点である。テーマもアップデートなものに調整してきているほか、出演者も若返らせて、新たなファンの獲得も目指している。またJ・J・エイブラハム監督の登用に見られる様に、最近の大きい流れである、破壊型の迫力のある映像も大きく取り入れている。もちろん3D版も作られている。

このような変化を見ていると『仮面ライダー』シリーズと『ウルトラマン』シリーズの差を感じる。『仮面ライダー』シリーズはイケメン若手俳優をメインにもってくるなどお母様というファン層も得ることとなった。

このようなブレない"基本"と時代に合わせた"改革"という2本の軸が、経営や経済、そして自分の人生にも必要だと考える。

筆者の書籍紹介 『マネークライシス・エコノミー―グローバル資本主義と国際金融危機』(共著)(日本経済新聞社)


(出版社による説明)


経済のグローバル化の大波に乗った米国,乗り遅れた日本。だが,その危険性にも目を向けるべきだと指摘

1991年の旧ソビエト連邦の消滅と日本のバブルの崩壊の時期は奇しくも一致している。「失われた90年代」と呼ばれる日本経済の低迷はいまだに続いており,本格的な回復にはもうしばらく時間がかかる見られている。一方,米国に目を転じると90年代に情報通信技術(IT)化の進展により急速な経済発展を成し遂げ,かつてない繁栄を謳歌している。本書では,旧ソ連の消滅に象徴される90年代の経済のグローバル化の大波に米国が乗ったのに対して,それに日本は乗り遅れている現状をまず描く。しかし同じに経済のグローバル化がはらむ危険性も鋭く指摘している。

97年のアジアの経済危機が象徴するのは,通貨・金融のシステムがグローバル化によりかつてなく不安定になっていることだ。実物経済が安定していても,世界中で巨額の資金を運用するヘッジファンドの動き次第で成長のシナリオはもろくも崩れる。

経済合理性だけでは動かない、通貨の政治的・象徴的・投機的性質に翻弄される為替相場の世界。その本質に隠されたシニョレッジ(通貨発行特権)=合法的錬金術の仕組みから、世界的波及を見せる「グローバル資本主義の危機」のメカニズムを探る。

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