『グローリー』―組織に翻弄される個人(112)

東京国際映画祭で上映された、EUの新興国ブルガリアを舞台にした作品。ブルガリアで孤独な生活を送る"どもり"でまじめな鉄道員が主人公。

(Glory:Slava /2016年)

東京国際映画祭で上映された、EUの新興国ブルガリアを舞台にした作品。ブルガリアで孤独な生活を送る"どもり"でまじめな鉄道員が主人公。彼が線路上に落ちていた不正な現金を発見し、勝手で保身的な企みに巻き込まれていく。社会的に不正が蔓延っている様子もうかがわれる。鉄道ということで運輸省が舞台となる。

運輸省の広報担当者(女性)が二人目の主人公であるが、見る方がハラハラする身勝手な人間で、その対応が鉄道員の運命を翻弄する。

その後、鉄道員は同僚にも敵視され、とてもひどい目に合う。新興国にはよくあるのであろうか、弱者が大きな組織、それも権力者によって翻弄されていき、人生がメチャクチャになる。そして、その悲劇的な鉄道員によって、悲劇的な最期をもたらされる・・・。しかし、ある意味、それは胸がすく思いがするといっては言い過ぎであるが、鉄道員の気持ちも十分すぎるほど分かる。

ブルガリアは日本ではヨーグルトで有名であるが、東欧の国である。経済規模(GDP)は青森県と同じぐらいである。2007年にEUに参加したが、EUの中でも最貧国の一つである。

EUでは2004年~2007年に第5次拡大ということで、キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニアの東欧12カ国が参加した。

EUおよび、その先にあるユーロへの参加は、本来は経済レベルが同じような、ある一定以上の国が対象になるはずであった。しかし、この第5次拡大は経済的な目的より、政治的な目的の方が大きかったように考えている。経済レベルが低いため、移民となって、EUの中のドイツ・フランスなど先進国に流入していったのである。この東欧の第5次拡大が英国のEU離脱の要因となったといっても過言ではない。

来年はオランダ、フランス、ドイツなどの選挙が相次ぐ。EU懐疑派(離脱派)が政権をとって、主要国がEUを離脱することになると、EU本体が崩壊する可能性があり、十分な注意が必要である。

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