死者540万人以上-日本のメディアは報じない、コンゴ紛争とハイテク産業の繋がり

世界最大とも言われるコンゴ民主共和国の紛争の大きな要因を担っているのが、現代の私たちの生活に欠かせない存在となったスマートフォンを始めとする電子機器だ。

死者540万人以上―。

アフリカ大陸中央部に位置するコンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo/以下コンゴ)の紛争は、周辺国を巻き込みながら、15年以上に渡り、第二次大戦後に起きた紛争としては世界最多である540万人以上もの犠牲者を産み出している。

シリアやウクライナ、パレスチナなどの紛争が各種メディアによる報道を占める中、コンゴの紛争はこれほどの規模であるにもかかわらずメディアが取り上げることは極まれであり、特に日本においては、この紛争の存在すら十分に知られていないのが現状である。この「無関心」が、同国の人道危機を更に深め、紛争下に暮らす人々を更なる不条理な苦痛へと追いやっている(関連記事:死者540万人以上―日本では報道されない、忘れられた世界最大の紛争(コンゴ民主共和国))。

その一方で、この世界最大とも言われる紛争の大きな要因を担っているのが、現代の私たちの生活に欠かせない存在となったスマートフォンを始めとする電子機器だ。これら電子機器には、コルタンやタンタルなど大量のレアメタル(希少金属)が使用されている。このレアメタルがコンゴの武装勢力の資金源となっており、紛争の規模を広げ、そして長引かせている。先進国の「豊かな生活」は、コンゴに生きる人々の犠牲の上に成り立っていると言えるだろう。

コンゴ紛争を戦った子ども兵達(写真提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

コンゴの歴史は「搾取の歴史」

アフリカ大陸中央部に位置し、約6000万人が暮らしているコンゴ。東部には今も手付かずの広大な熱帯雨林が広がっており、金や銅、木材、スズ、コバルト、ダイヤモンド、タンタルなど、豊富な天然資源に恵まれている。しかしこれらの豊かな資源は、植民地時代にヨーロッパ人が到来して以来、争いを引き起こす大きな要因となった。コンゴはしばしばその統治形態を変え、欧米諸国が資源を奪い取るためにコンゴの人々は都合良く利用され、数え切れないほど多くの人々の命が奪われた。

19世紀末にベルギーの統治下に置かれてからというものの、今日までの1世紀以上、この豊かな資源から生まれた利益がコンゴの人々に還元されることはなかった。本来であればその豊かな資源を利用し、経済的に恵まれた国になっているべきコンゴ。国連が発表している、生活の質や発展度合いを示す指標である「人間開発指数」(Human Development Index)では世界最下位となっている(0.286)(2011年版)。コンゴの歴史は、「搾取の歴史」だと言い切れるかもしれない。

スマートフォンとコンゴ紛争

今日でも、コンゴの東部地域では豊富にレアメタルが採掘されている。例えば、電子回路のコンデンサに使われているタンタルという鉱石の推定埋蔵量の6割以上はコンゴに眠っていると考えられており、またコルタンの埋蔵量の6割から8割もコンゴに存在すると言われている。

近年では、スマートフォンやタブレットなどの情報電子機器が発達してきたことにより、世界的に需要が急増しているレアメタル。先進国でこのレアメタルの需要が高まれば高まるほど、武装勢力により多くの資金が流れ込み、紛争による犠牲者が増え続けるという構造が出来てしまっている。一説によれば、一月で約50万$(約6000万円)の資金が武装勢力に流れ込んでいるとも言われている。

また、レアメタルを発掘する鉱山では、深刻な児童労働も報告されている。武装勢力は子供たちを勧誘、または誘拐し、崩落の危険性も高い狭い地下道の中で働かせている。7歳の子供までもが働かされているという報告も存在する。

コンゴ紛争では多くの子どもが誘拐され、子ども兵として使い捨てられている(写真提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

子どもたちは学校に通う事も無く、重い荷物を担ぎ、1日12時間働かされることもしばしばだ。その大多数は、手袋や防護服、フェイスマスクなど、肺や皮膚を守るのに欠かせない装備も無いまま、危険な環境下で働き続けている。しかしながら、一日の仕事から得られる給与は1$にも満たない。UNICEF(国連児童基金/ユニセフ)の調査によると、コンゴ南部の鉱山での児童労働の人数は、2014年で約4万人と報告されている。

実際の崩落事故も絶えない。2014年9月から2015年12月までの16カ月間では、少なくとも80人以上の労働者が南部の鉱山で死亡したと言われている。事故の多くは公表されることがなく、その遺体は瓦礫の下に埋もれたままであるため、正確な犠牲者数を調べることも出来ない。

コンゴの鉱山で働く男性(写真提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

「紛争鉱物」問題改善に向けた取り組み

これまで述べてきたように、コンゴ紛争とハイテク産業、また我々が日々使う電子機器は密接に関係している。今あなたがこの記事を読むのに使用しているスマートフォンやタブレット、ノートパソコンが、コンゴの人々の犠牲によって製造されたものかもしれない。私たちも、コンゴ紛争と無関係ではないのだ。

いわゆる「紛争鉱物」問題の改善は、我々消費者の意識と行動が大きく関係している。例えば、可能な限り電子機器の使用期間を延ばし、レアメタルの需要を下げる事も、この問題改善に向けた第一歩となる。毎年のように続々とスマートフォンの最新モデルが発表されているが、「買い替えたい」という気持ちを少し抑え、今手元にあるスマートフォンを使い続けてみる。もしくは、使い終わった電化製品はリサイクルに出してみる。この小さな取り組みが広がることはレアメタルの需要を下げることにも繋がり、ひいてはコンゴの武装勢力の資金源を減らしていくことへとも繋がっていく。

「消費者の意識と行動」に関連する、実際の法的な動きも存在している。2010年7月には、アメリカでドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法(ドッド・フランク法)が成立。このドッド・フランク法では紛争鉱物に関する特別な規定が儲けられており、アメリカの上場企業は自社製品に使っている鉱物が、コンゴ国内、またその周辺の武装勢力が管轄下に置く鉱山に由来するものかどうかを示さなければならないとされた。

一方で、(最悪の労働形態であったとしても)一連の取り組みが鉱山で働く人々の仕事を奪う事にも繋がるという見方もあり、仕事を失った人々への雇用機会創出など、国際機関・NGOなどによる包括的な取り組みもまた必要となってくる。

比較的欧米のニュースメディアはコンゴ紛争、また同国の政治や人道危機を取り上げることが多いが、日本のメディアが取り上げることは極稀だ。「グローバル」と声高々に叫んでおきながら、日本の産業とも関係するコンゴの危機が日本で報じられることはほとんど無い。

かつてノーベル平和賞受賞者のエリ・ヴィーゼル氏は、「愛の反対は憎しみではなく、無関心だ。」と言った。グローバル化が極度に進展した今日、地球の裏の出来事が、他人事では無くなってきている。

記事執筆者:原貫太(早稲田大学4年)

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