生きている時間の3分の1か4分の1は、ぼくたちは眠っている。そして眠っている間は、自分のカラダの状態を自分で意識することは、ほぼできないといっていい。わかるのは、眠る前のことと、目覚めた時のことだけだ。ぼくたちは人生のかなりの割合をブラックボックスにしたまま毎日、寝具に身を預けている。
食欲と性欲と睡眠欲が、3大欲求といわれる。たしかに、みんな美味しいものを食べることにはこだわるし、物語から雑誌の特集まで恋愛やセックスの話ばかりだ。けれどそれに比べて、みんな睡眠についてはあまりこだわらないし、語らない。ただ眠いときに眠れれば幸せ、という程度。きっと多様な文化的ひろがりがあるはずなのに、なんだかもったいなくて、だからこそこれから、とても面白くなる可能性があるような気がしてくる。
そんなわけで、数年前から睡眠に興味を持つようになった。少し調べると、睡眠はまだわかっていないことばかりで、妙な通説が流布していたり、学者によって立場が違ったりするものなのだ、ということがわかる。身の回りには何日も徹夜で仕事ができる人やショートスリーパーの人がいるけれど、ぼく自身はちゃんと眠らないと全然仕事にならないたちなので、とりあえず寝具や眠るときの環境にこだわりはじめたら、明らかに日々が快適になった。個人的には、まずはベッドの予算を奮発するところからはじめるのがおすすめだけれど、その前に何冊かの本をご紹介。
■鍛冶恵『ぐっすり。』(新潮社)
睡眠に興味を持ちはじめたころ知り合った鍛冶さんは、いわばぼくの睡眠の先生。「8時間睡眠」とか「90分サイクル」といった「睡眠都市伝説」に惑わされず「質のいい睡眠」をするためのヒントが満載です。
■堀忠雄『快適睡眠のすすめ』(岩波書店)
眠りは量より質。まず睡眠の基本的な知識を知りたいなら、第一人者によるこの1冊。本書で「新シエスタ」として提案されている昼寝の習慣は、最近では実際に導入している会社や学校もあるようです。
■ローレンス・ライト『ベッドの文化史』(八坂書房)
古今東西の眠りにまつわる逸話や事件、寝具や睡眠環境の変遷など、とにかく睡眠に関わる歴史トリビアが盛りだくさん。ベッドへのこだわりは何千年も前から脈々と続いているとわかります。
内沼晋太郎(うちぬましんたろう)
numabooks代表、本屋B&B共同プロデューサー。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。
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(「カラダにいい100のこと。」より転載)