フェイクニュースのゾンビボットは米国で眠り、フランスで動き出した

米大統領選でトランプ支持のフェイクニュースを振りまいたボットは、トランプ氏の当選直後から半年にわたって休眠していた。だが...

フェイクニュースを拡散させているのは、生身の人間だけではない。拡散には、ツイッターの投稿を送信する自動化プログラム「ボット」も大きな役割を担っている。

そしてボットは、忘れた頃に生き返る。

米大統領選でトランプ支持のフェイクニュースを振りまいたボットは、トランプ氏の当選直後から半年にわたって休眠していた。だが、フランス大統領選の最終盤で、突如としてゾンビのように動き出し、再びフェイクニュースの拡散を始めた―。

南カリフォルニア大学助教のエミリオ・フェラーラ氏は、米仏の大統領選をつなぐ、そんな"ゾンビボット"の動きを明らかにした

ボットによる大量ツイートが、オンデマンドで民意を揺るがす。ソーシャル時代の民主主義の、新たなリアリティだ。

●2割がボットアカウント

フェラーラさんは、フランス大統領選の第1回投票後、4月27日から5月7日の決選投票までの11日間の選挙関連の、200万アカウントによるツイート、1700万件を収集。

この中から、決選投票直前にマクロン陣営の内部文書が大量流出した反マクロン・キャンペーン「マクロンリークス(#MacronLeaks)」関連のツイートの動きを調べた。

その際、機械学習と認知行動モデルを組み合わせ、ボットアカウントと生身の人間のアカウントを分類。それぞれの役割を分析している。

それによると、「マクロンリークス」関連のツイートは約10万アカウントによる35万件で、全体の2%ほどだった。

さらに、10万アカウントの内訳を調べると、1万8000アカウント、つまり18%がボットとみられる動きをしていた、という。

●米大統領選と同じボットアカウント

この時には、大統領選関連のツイートのうち400万件(全体の20%)、40万アカウント(同15%)がボットによるものと認定されていた。

米大統領選については、オックスフォード大学インターネット研究所教授のフィリップ・ハワード氏らのチームも同種の調査を行い、やはり20~25%がボットによるツイートだった、との認定をしている。

フェラーラ氏の調査では、このうちのいくつかのアカウントは、米大統領選後に休眠し、フランス大統領選で再びゾンビのように復活したのだという。

私たちが見つけ出したいくつかのボットアカウントは、2016年の11月初め、つまり米大統領選の投票直前につくられ、たった1週間、(トランプ氏支持の)オルトライト(オルタナ右翼)の主張の発信に使われた。その後、それらのアカウントは"休眠状態"に入り、何の動きも見せなくなる。そして今年5月初めになって、フランス大統領選における、(ルペン氏支持の)オルトライトの主張と、マクロンリークスの虚偽情報のキャンペーンの後押しをし始めたのだ。

●ボットのブラックマーケット

さらにフェラーラ氏は、これらの動きが、「使い回し可能な、政治的な虚偽情報を扱うボットの、ブラックマーケットが存在することをうかがわせる」と指摘する。

フェイクニュースのブラックマーケットの存在については、トレンドマイクロが6月、「フェイクニュース・マシン」と題した詳細な報告書を発表した。

同社はこの中で、4000万円ほどで、フェイクニュースによる1年間の選挙介入工作を"発注"することができる、などの試算を明らかにしている。

そして、そのようなフェイクニュースを使ったオンデマンド型のネット工作が、中東・カタールをめぐるサウジアラビアやアラブ首長国連邦による断交騒動の火付け役になった、とも指摘されている。

●ボット利用の限界

フェラーラ氏は、このようなボット利用の限界についても、分析している。

フランス大統領選では、フェイクニュースやボットを使った反マクロン・キャンペーンにもかかわらず、マクロン氏当選という結果に終わった。

「マクロンリークス」に関与していたユーザーは、大半が(フランス大統領選)以前からあるオルトライトの話題やオルトライトのニュースメディアに関心を持っている外国人で、多様な政治的視点を持つフランス人ユーザーではなかった。

つまり、トランプ氏支持のオルトライトが大半で、そのツイートは、ボットを活用してもフランス人には届いていなかった、という見立てだ。

ツイートの物量だけでは、異なる文化圏の民意を揺るがすほどの影響力を持つことはできない、ということだろう。

さらに、調査対象としたボットアカウントの中でも、最も活発に活動していた15アカウントについて、フランス大統領選後の状況を確認したところ、4つは削除され、7つは凍結、2つは隔離(一時停止)になっていた、という。

ツイッター側でも、これらボットの動きを把握していたようだ。

●民意への影響

フランス大統領選への影響は限定的だったとはいえ、ボットによる情報の大量拡散が、民意に与える影響は否定できない。

フェラーラ氏は、こう指摘している。

ソーシャルボットのような自動化デバイスを、虚偽情報によるキャンペーンで使うことは、特に懸念すべき問題だ。それによって、民意を席巻するような大多数にリーチし、世論を覆す可能性もあるからだ。このようなキャンペーンは、人々の関心を事実からそらし、偽造し、仕込まれた情報へと誘導することができるのだ。

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(2017年7月29日「新聞紙学的」より転載)

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