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2018年02月20日 12時13分 JST | 更新 2018年02月20日 12時13分 JST

ロシアの「フェイクニュース工場」は米大統領選にどう介入したのか

フェイクニュース問題とは何だったのか

フェイクニュース問題とは何だったのか――その核心部分が実相が少しずつ明らかになってきた。

米大統領選へのロシアの介入疑惑を調査中の特別検察官、ロバート・ムラー氏は16日、その工作部隊とされてきた「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」を含む3社と、関連する13人のロシア人を起訴した。

By JD Hancock (CC BY 2.0)

ソーシャルメディアを舞台としたフェイクニュース拡散の拠点とみられ、「トロール(荒らし)工場」と呼ばれてきたIRAと、その出資者である「プーチンの料理人」エフゲニー・プリゴジン氏が、米大統領選に何を仕掛けたのか――。

ムラー氏の起訴状は、そんなフェイクニュース問題をめぐる疑問の数々を解き明かす。その内容は、まるで「フェイクニュースの教科書」のようだ。

またロシアや米国のメディアも、改めて「トロール工場」の実態に迫っている。

特にNBCはIRAによるフェイクアカウントによるツイートを独自にデータベース化。元データを一般に公開しており、誰でもその足跡をたどることができる。

様々なアプローチの中から、フェイクニュースのメカニズムが、徐々に浮き彫りになってくる。

●「プーチンの料理人」

ムラー特別検察官による起訴状は全部で37ページ

今回の起訴の対象となったのは、法人では「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」のほか、「コンコルド・マネージメント・アンド・コンサルティング」「コンコルド・ケータリング」の2社。

コンコルドの2社は、「プーチンの料理人」の異名を持つロシアの実業家、エフゲニー・プリゴジン氏の傘下企業で、IRAへの資金供給の窓口と認定されている。

そして、個人の起訴対象では、プリゴジン氏を筆頭に、IRA代表のミハイル・ビストロフ氏、ナンバー2のミハイル・ブルチック氏、ナンバー3のアレクサンドラ・クリロバ氏ら12人は、いずれも同社の幹部やスタッフだ。

プリゴジン氏が「料理人」の異名を持つのは、コンコルドがクレムリンの宴席を請け負うなど、プーチン氏の信頼が厚い、とされることからだ。

そして、請け負うのは宴席ばかりではないようだ。

プリゴジン氏が米国政府のターゲットとなるのは、これが初めてではない。

ロシアのウクライナ問題をめぐり、国境付近にロシア側の軍事拠点を建設したなどとして、米財務省の経済制裁の対象としてプリゴジン氏やコンコルドなど幾度も名指しされてきた

ムラー氏の起訴状では、(1)米国の選挙への介入のための外国による支出(2)海外の代理人による米国での無届けの政治活動(3)不正な査証取得、などを罪状としてあげている。

そして、IRAを実行部隊として米大統領選に介入したとされる、その詳細な手口が明かされている。

●フェイク広告、炎上演出

起訴状の読みどころは、フェイクニュース拡散の中心的な役割を果たしたとみられるロシア・サンクトペテルブルクの「トロール工場」IRAの解明だ。

起訴状では、その住所番地とともに、実態が描かれている。

55 Savushkina Street, St. Petersburg from Yandex

「トロール工場」IRAについては、すでに2017年1月6日に米情報機関がまとめたロシアによる米大統領選への介入に関する報告書にも、取り上げられている

また、フェイスブックにフェイクアカウントを使って米大統領選介入のための政治広告を掲載したり、ツイッターのフェイクアカウントをインフルエンサーに仕立てて炎上を演出したりしたことも、IRAの工作の一環とみられている。

これらの経緯については、このブログでも、繰り返し紹介してきた。

※参照:サイバー攻撃と偽ニュース:ロシアによる米大統領選妨害は、いかに行われたのか?※参照:ロシア「フェイク工場」が工作、フェイスブックへの1000万円広告の影響度※参照:ソーシャル有名人「ジェナ」はロシアからの"腹話術"

ただ、その予算規模や人員、そして米大統領選への介入の具体的な手口について、米司法当局が公に詳細な認定したのは、これが初めてだろう。

●「工場」の予算と実態

2013年7月ごろに設立された同社は、翌2014年4月ごろには「翻訳プロジェクト」と呼ばれる米国を標的とした部署を設け、翌5月には米大統領選への介入戦略を掲げて、「候補者や政治システム全般への不信感を拡散させる」ことを目指した、とされる。

起訴状でまず目につくのは、IRAの予算規模だ。

米国を含む対外戦略などに当てる同社の予算額は、米大統領選終盤の2016年9月には、月額7300万ルーブル(約1億3000万円)にのぼっていたという。

このうち、毎月数千ドル単位で、フェイスブックなどへのフェイク広告出稿も行われていた。

そして、対米国の「翻訳プロジェクト」のスタッフは、民主、共和両党の候補者が正式決定した2016年7月ごろには、昼夜2交代制で、80人以上になっていた、という。

IRAの金と人に関しては、ロシアの地元メディア「RBC」が昨年10月、関係者への取材などをもとに、さらに具体的なデータを示している

それによると、同社のスタッフは多いときで250人。起訴状が「翻訳プロジェクト」と呼ぶ対米国部署はこのうち90人を占めた、という。

また、対米国部署の月給は8万~12万ルーブル(15万~23万円程度)だという。

そして、IRAは2016年に活動を停止したことになっているが、実体は存続しており、対米国部署も、なお50人のスタッフを擁しているという。

■フェイクニュースの地上戦

起訴状は、ソーシャルメディアで存在感を示した「トロール工場」の、リアルでの展開、つまり"地上戦"を含むIRAの戦略について詳述する。

IRAは、大統領選介入への準備段階では、ソーシャルメディア上の米国の政治関連アカウントについて、更新頻度やコメントなどのエンゲージメントの規模などのリサーチも行ったという。

また、IRAナンバー3のクリロバ氏は2014年6月、スタッフとともにカリフォルニアからニューヨークまで各地を回り、現地の情報収集やカメラなどの機材購入なども行っている。

さらに、米国人になりすまし、実際の米国人アクティビストらから情報収集を実施。介入の照準を、「コロラド、バージニアとフロリダといった激戦州(パープルステート)」に合わせる。

そして、まずはソーシャルメディア上に数百にのぼるフェイクアカウントをつくり、それを米国における「世論のリーダー」、すなわちインフルエンサーに仕立て上げていく。

この役目を担うスタッフは「スペシャリスト」と呼ばれていた。「スペシャリスト」のチームには、米国の祝日リストも配布。東部時間から太平洋時間まで米国のタイムゾーンに合わせ、米国の外交政策や経済問題に関わる投稿をするように指示されていた、という。

投稿コンテンツには、クオリティーの評価とフィードバックも行われ、投稿におけるテキスト・画像・動画のバランスや、メインで投稿するキャラクターと、拡散に携わるキャラクターといった役割の仕分けなども、細かく指示出しがあったという。

その上で、「急進派、現状の社会、経済状況への不満分子、反対派の社会運動への支持を打ち出す政治的立場を鮮明に」との指示も受けていた。

ソーシャルメディア上では、移民排斥、アフリカ系人権問題、イスラム教やキリスト教といった宗教問題、南部など地域限定の、それぞれのグループページを立て、2016年までには、数十万単位のフォロワーを獲得していたという。

IRAは、フェイクアカウントを作成するために、実在する米国市民の名前や写真、誕生日、社会保障番号などをつかった「なりすまし」を行ったとされている。

これらを使い、「ペイパル」に口座を開いたり、運転免許証を取得したりし、それらを使い、フェイクアカウントによるフェイスブックなどへの政治広告出稿を行っていった、という。

起訴状によると、IRAが攻撃対象としたのは、民主党候補のヒラリー・クリントン氏のほかに、共和党の候補者争いをしたテット・クルーズ氏、マルコ・ルビオ氏ら。

そして、支援対象としたのは、トランプ氏のほかに、もう一人いた。民主党でクリントン氏と候補者争いをした左派のバーニー・サンダース氏だ。IRA内部の指示メモでも、「サンダース氏とトランプ氏――我々は彼らを支援する」と明示されていたという。クリントン氏追い落としの"当て馬"という位置づけだったようだ。

IRAの"地上戦"は、大統領選も山場となってきた2016年6月ごろから、米国のアクティビストなどを巻き込んだ、各地での政治集会開催という形で行われた。

政治集会をソーシャルメディア上で呼びかけるとともに、開催資金は負担しながら、米国の事情を知らぬ政治グループやアクティビストらに運営を依頼する、というスタイルで人集めを行っていったようだ。

この手法で、ニューヨークでは2016年6月に「トランプのための行進」、7月には「ヒラリーをぶっつぶせ」、ワシントンではやはり7月に「ヒラリー支援を。米国のイスラム教徒を救え」、8月にはフロリダで「フロリダはトランプで決まり」と、相次いで政治集会を開催。そのための政治広告も、フェイスブックに出稿していった、という。

また、政治集会はトランプ氏当選以後も続き、同年11月にはニューヨークで「トランプは我々の大統領ではない」、ノースカロライナ州シャルロットで「シャルロットはトランプに反対」を開催。

選挙後の米国の分断にも、拍車をかけようとしていたようだ。

●配信と拡散

介入の主戦場は、フェイスブック、ツイッターなどによるフェイクニュースの配信と拡散だ。

起訴状は、中でもIRAによるフェイクツイッターアカウント「@TEN_GOP」を取り上げている。

from Internet Archive

「@TEN_GOP」は、IRAによる代表的なフェイクアカウントの一つ。2015年11月に開設され、テネシー州共和党の非公式アカウントを名乗っていた。

2017年8月ごろに閉鎖されるまでに、1万件以上のツイートを配信し、14万4000人を超すフォロワーを獲得していた。

起訴状では、「@TEN_GOP」が2016年8月ごろ、「ノースカロライナで110歳以上の投票者2214人が見つかる #不正投票」といった、「不正投票」を流布するフェイクニュースを流したことが取り上げられている。

「@TEN_GOP」はこのほかにも、同年10月には「インディアナの有権者登録名簿で数千件の名前が改ざんされていた。警察が捜査中 #不正投票」といった同種のフェイクニュースを発信している。

from archive.is

この「不正投票」をめぐるフェイクニュースは、他のIRAによるフェイクアカウントも、組織的にこぞって流していたものであることも、明らかになっている

フェイスブック、グーグル、ツイッターなどの各社は、すでに「ロシア疑惑」を調査する連邦議会などにIRAが登録したフェイクアカウントなどの情報を提出している

中でも、IRAがツイッターで登録した米国人や米国の団体を装ったフェイクアカウントは、ツイッターが今年1月末に明らかにした最新データでは、3814件。投稿したツイートは17万5993件で、米大統領選関連の8.4%を占める、という。

これに加えて、ロシアによる自動送信システム「ボット」のアカウントが5万258件にのぼった、という。

●絡み合うフェイクアカウント

IRAによるフェイクアカウントは、互いのツイートをリツイートしていくなど、連携しながら盛り上がりや炎上などを演出していた。

その全体像を見るのは難しいが、NBCが独自に収集したIRAのフェイクアカウントによる20万件のツイートをデータベース化して、公開している

ツイッター側では、すでに削除済となっているデータだ。

data from NBC news with Neo4j

これをオープンソースのグラフデータベース「Neo4j」で見ていくと、絡み合うフェイクアカウントの片鱗を伺うことができる。

またNBCの同じデータからは、IRAのフェイクアカウントによる1日ごとのツイート数が、2016年11月8日の投開票日に向けて、次第に活発になっていく様子もはっきりとわかる(※上図)。

ハッシュタグの出現頻度を見ると、「ポリティクス」「MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲン)」「TCOT(トップ・コンザーバティブズ・オン・ツイッター、保守派インフルエンサー)」「トランプ」「ニュース」などシンプルなものが上位に並ぶ。クリントン氏攻撃は、ようやく6位に「ネバーヒラリー(ヒラリーは絶対ダメ)」が出てくる(※下図)。

いずれも、全体像を把握するための手がかりになるデータだ。

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■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)

(2018年2月18日「新聞紙学的」より転載)