現状、保育士の賃金水準は低い。これを一般労働者並みに引き上げるとしたら、どのくらいの財源が必要となるか、厚生労働省の保育士確保プランに掲げられた数字に合わせる形で試算してみた。
厚生労働省「2014年賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の賃金は、男女計29.96万円(年齢42.1歳、勤続12.1年)、男性32.96万円(年齢42.9歳、勤続13.5年)、女性23.80万円(年齢40.6歳、勤続9.3年)。
これに対して、保育士の賃金は、男女計20.98万円(年齢34.8歳、勤続7.6年)、男性22.84万円(年齢31.4歳、勤続6.3年)、女性20.85万円(年齢35.1歳、勤続7.7年)。
今、保育士は不足している。政府は、待機児童の解消を目指して保育所を急増させ始めており、2017年度までに、保育所などの受け皿を40万人分増やす計画。しかし、今のままでは2017年度末に保育士は6.9万人も不足してしまう見込み。
保育士の資格を持ちながら保育士として働いていない「潜在保育士」は、全国に60万人以上もいるとされる。潜在保育士を対象にした2013年の厚労省調査では、保育士として働かない理由として「賃金が希望と合わない」、「他職種への興味」、「責任の重さ・事故への不安」などが上位に挙げられている〔資料1〕。
<資料1>
政府の保育士確保プランでは、国全体で必要となる保育士の数を平成29年度末時点において46.3万人としている〔資料2〕。
<資料2>
(出所:厚生労働省「保育士確保プラン」)
しかし、上記のように保育士の賃金があまりにも低いことが、保育士の職に就こうという意欲を著しく削いでいる主因の一つと推察される。
そこで、仮に、保育士の賃金水準を一般労働者並みの月額29.96万円( ≒ 30万円)にするとした場合に必要な財源規模を試算してみたい。2017年度目標である保育士46.3万人の確保に必要な財源規模は、下記の式により年間最大で約1兆7千億円。
∵ 46.3万人 × 30万円/月・人 × 12月/年 = 1兆6668億円/年
最大で、と書いたのは、46.3万人の内訳が、37.8万人(2013年度の保育所勤務保育士数)と、2017年度末までの自然体の増加分2万人と、新たに必要となる6.9万人の合計だからである〔資料2〕。即ち、追加的な財源規模は、月額30万円とした場合の差額に当たる。
これに要する財源をどこから捻出するかが最大の課題となるが、年金・医療など高齢者向け予算からの転用しかないであろう。以上は私の試算に過ぎないが、こうした試算は本来は厚労省が実施しておくべきことなので、今後、厚労省におかれては試算・公表されたい。