福井県の西川一誠知事は、今月3日の定例県議会に、「福井県核燃料税条例」の見直し案を提出した。核燃料税は、原子力施設が立地されている都道府県が条例で制定する「都道府県税」の一つ。
福井県では、1976年に5年間の時限措置として核燃料税を導入して以降、現在まで延長してきた。現行の核燃料税の期限は今年11月で、原子炉に装荷した核燃料の価格に課税する「価格割」と、原子炉に熱出力に応じて課税する「出力割」がある。
今回の見直し案は、①福井県にある全ての原子力発電所に貯蔵されている使用済核燃料の県内貯蔵を常態化させず、それらの県外への搬出を促す「搬出促進割」を新設するとともに、②「出力割」について、現行では廃止措置計画が認可された原子炉は課税対象から外れるところを、廃炉作業中の原子炉にも税率を1/2にしながら新たに課税しようというもの。
福井県内で稼働を前提としている原子炉は、関西電力9基(高浜1〜4号機、美浜3号機、大飯1〜4号機)と、日本原子力発電1基(敦賀2号機)で計10基。これら全てが稼働した場合、現行での税収予定額が年間122億円(出力割61億円、価格割61億円)であるのが、年間143億円(出力割55億円、価格割58億円、搬出促進割30億円)と、年間21億円の増収となる計算。
福井県内で"廃炉課税"の対象となるのは、今のところ、関西電力2基(美浜発電所1・2号機)、日本原電1基(敦賀1号機)、日本原子力研究開発機構1基(ふげん)の計4基。また、将来必ず廃炉になる原子炉が県内に更に10基あることは、上述の通りだ。
大まかではあるが、小型炉で400〜500億円、大型炉で800億円を要するとされる廃炉費用は、「解体引当金」として運転開始から50年間かけて積み立て、それを電気料金で回収する制度が当初からある。
この解体引当金の対象は制度上、設備解体や汚染除去、廃棄物処理・処分、放射能測定に要する費用に限定されている。だが、税金は対象外なので、上記の増税分は原子力事業者の単純な負担増になる。
今回の見直し案も、地方税法に基づき納税者である原子力事業者の意見を聴くことになっている。一部報道によると、関西電力と日本原電は、「収益を生まない事業への課税だとして「大変厳しいもの」としつつ、核燃料税は立地地域の安全安心の確保や共生に有益として「異議なし」「賛成」との意見を提出した」そうだ。
この見直し案は、福井県議会で可決されれば、総務相の同意を得て今年11月10日から施行される。
廃炉作業の予定期間は、美浜1・2号機で30年間、敦賀1号機で24年間。この見直し案が実施されると、原子力事業者は、出力ゼロになった原子炉であるにもかかわらず、その廃炉終了までの間、出力割の税金を払い続けることになる。収益の生まない事業への課税なので、納税者である原子力事業者は反対するのが当然のはずだ。
搬出促進というのも、実はかなり変な話だ。原子力事業者としては、使用済核燃料を早いうちに搬出したいはずだ。
ところが、搬出先となる日本原燃の六ヶ所再処理工場(青森県六ヶ所村)の竣工が、原子力規制委員会とその事務局である原子力規制庁による、世界的に見ても過度に厳しい規制基準運用によって事実上阻止されているのが実情。私かすると、規制行政の経験からも、これは行政側の瑕疵であり、非常識な対応としか思えない。
国の原子力規制行政の瑕疵や非常識が、原子力施設が立地されている地元の心理的・経済的負担や、原子力事業者の経済的負担を強いている。しかし、電力の低廉安定供給という『国策』を担う原子力事業者が、そうした国の責任部分で発生する負担を一手に引き受けるのは何故なのか?
関西電力と日本原電は、なぜこれに同意したのか??
関西電力は、高浜3・4号機の再稼働を実施したものの(その後、トラブルと運転差し止め仮処分で停止)、大飯3・4号の再稼働が目前に控えている。また、40年を超える運転を目指す高浜1・2号機や美浜3号機を擁する。
原子力規制委・規制庁の審査に合格したとしても、これらの再稼働には「地元」の了解を得なければならない。言わば、「地元」に再稼働という"人質"に取られているようなものだ。
日本原電も、再稼働申請中の敦賀2号機を抱えており、状況は同じなのだろう。
これは、意見を言っても聞いてもらえない状況に陥っている者から金銭を徴収する「搾取」に近い行為に見える。
もっとも、問題の根源は、現行の原子力規制運用が世界的にも異常であること。これは、国の政治責任である。国の不作為による心理的・経済的負担を、地元自治体と事業者に背負わせるというのは、変な構図であり、やめるべきだ。
原子力規制委・規制庁の人事権を持つ安倍政権は、政治主導で原子力規制運用の改善(発電と審査を並行させることや、新規制基準に係る猶予期間の設定など)を今後早急に進めていく必要がある。