今月11日、経済産業省の小委員会は、太陽光や風力など再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の改革について検討を始めた。要は、再エネの普及を引き続き促進しながら、国民負担は極力抑えるための方策を模索するという話。
4人家族で、かつ、自営業を営んでいる我が家のここ数ヶ月の「再エネ賦課金」は、7月検針分が772円、8月検針分が1369円であった〔下の写真〕。この賦課金は、FITに基づき全ての世帯に課せられている。夏は冷蔵庫やエアコンで電気消費量が増えるのは仕方ないのだが、再エネ賦課金が遂に1000円の大台に乗ってしまった!というのが率直なところ。読者の皆さんはどのくらいだろうか?
再エネ導入を進めていくことに関する国民的コンセンサスは既に得られている。他方で、再エネを導入すればするほど、賦課金という形での国民負担が増えていく。再エネを徒らに導入し過ぎることによって、コスト負担増への危惧など再エネへの警戒感や不快感が醸成されることは望まれない。健全な形での再エネ振興が肝要だ。
ではどうすべきか?
本稿では、経産省で始まったFIT改革の検討に関して、「再エネを安上がりに導入していく」ための改革5項目を提起しておきたい。
(1)買取価格をどう抑制するか?
現行FITでは、1年ごとに買取価格が見直される。2012年7月にFITが施行されて以来、風力や地熱といった太陽光以外の買取価格は当初の水準のまま。だが、太陽光の買取価格は毎年引き下げられてきている。太陽光の買取価格水準は当初かなり高かったのだ。ただ今後、どこまでも引き下げ続ければ良いというものでもない。
再エネを巡る大きな課題の一つが、2030年時点での再エネ買取費用総額3.7〜4.0兆円のうち太陽光の分が2.3兆円と、全体の6割超に上る見通しであること。現行FITは、太陽光発電事業者にとっては認定当初の高値の買取価格を長期保証してもらえる点が魅力的な制度である一方で、電気の一般消費者にとっては高値の再エネ賦課金で太陽光発電事業者を長期間支え続けることが強いられる制度でもある。
今後これを是正していくためにも、下記(3)と相俟って、買取価格の見直し周期について、現行「1年」を「1ヶ月」〜「半年」程度に短縮すべきだ。
(2)買取電気量をどう抑制するか?
買取価格水準に関する上記(1)課題とは別に、買取電気量をどの程度の水準まで許容するかは、再エネ導入に係る国民負担の総額だけでなく、地域ごとの送電容量との関係で大きな問題となる。
太陽光のような不安定電源は特に、送電系統の安定的な運用に支障が生じる可能性があるので注意を要する。電気は作り貯めておくことが難しく、生産と消費が同時に行われる。電力会社が需要と供給のバランスを常時保つことで安定供給が図られるが、例えば、日照条件が絶好調な日中には、太陽光により再エネ電気が需要量を超えて流れ込んでくる可能性がある。昨年起こった"接続保留"問題の本質は、そうした点にある。
再エネ振興に支障のない範囲、即ち送電系統の安定に支障のない程度までは再エネ買取を許容し、その範囲内で年間買取総額を設定していくことが合理的だ。この年間買取総額については、定期的に更新していく仕組みも必要となる。
(3)"既認定・長期未稼働"の設備をどう扱うか?
発電設備を設置することを決めてから実際に開発するまでのリードタイムは、発電設備の種類ごとに異なる。太陽光は数ヶ月で運転を開始できるが、水力・地熱・バイオマス・風力は、数年以上と相当長いリードタイムとなる。
今問題となっているのは、認定は得たが、その後なかなか稼働し始めない太陽光発電設備の激増。本来ならば、認定後には速やかに設置すべきだが、利益最大化を狙い太陽光発電設備の価格が下がるまで設置しない事案が非常に多い。出力400kW以上の案件については、国が報告徴収を行い、設置場所・設備が未決定であり事業継続が見込まれないと判断されたものについて認定取消が行われているが、報告徴収対象外となる小規模案件については、現時点で特段の対応が行われていない。こうした"既認定・長期未稼働"の存在を放置しておくことは、再エネ特措法の趣旨を逸脱し、相当高い価格で長期買取が保証されるという"おいしい権利"を悪用していることに他ならない。
こうした状態を根本的に改善するには、買取価格を認定時点ではなく、運転開始時点でのものにするよう制度改正することが考えられる。ただ、現行FITは「認定→接続可否の検討」という手続きだが、この順序がそもそも不適切なのではないか。本来ならば、系統に接続可能なものだけをFIT制度下で認定し、固定価格・長期買取の権利を付与すべきである。このため、「接続可否の検討→認定」という手続きに改正すべきだ。その際、電力会社に過度な業務集中が起こることを回避するため、地域ごとに第三者機関を設置して接続可否の検討に当たらせることとしたらどうか。
更に、認定設備の状況を監督当局が効率的に察知できるよう、認定設備の保有者に定期検査を受けることを義務付けるとともに、正当な状態にある認定設備についてのみ認定効力を継続させるよう「更新制」を新設する必要がある。
(4)再エネ賦課金は電気だけに課すのか?
再エネや原子力などCO2を排出しないエネルギー源から作ることのできる電気を利用し、他のエネルギー源の利用を減らすことは、CO2排出量削減にはとても有効である。だが、再エネ賦課金が電気料金だけに賦課される現行FITは、電気ではない他のエネルギー源を使用する誘発要因になる。これは、地球温暖化対策に逆行する。今のままでは、電気から重油・灯油・都市ガス・LPガス、即ちCO2排出量を増やす化石燃料への需要シフトが加速する可能性がある。
これは早急に改革すべきだ。代替案としては、①一般財源から充当、②石油石炭税や温暖化対策税を充当、③賦課対象を電気料金以外のエネルギー料金に拡大といった対策があり得る。このうち、最も実現性があるのは②であろう。石油石炭税や温暖化対策税の税収を再エネ導入拡大に使うことは可能であり、税の目的にも合致する。これは有力な案だ。
(5)再エネ賦課金を低減する方法はないのか?
今までFITによる認定を受けたものは、今後10〜20年間の買取が保証される。今後運転開始するものは、新たな巨額の国民負担を発生させる。上記の経産省試算では、2015年度の再エネ賦課金総額は1兆3000億円。この巨額な国民負担を削減するために何らか補填する資金をどこからか捻出できないものだろうか?
そこで提案したいのは、原子力発電所を高稼働率で稼働させた分(例えば、震災前2006〜10年の5カ年平均稼働率は約65%であるが、これを諸外国並みの約90%にまで引き上げた場合の増分)の一部を再エネ賦課金の減免のための補填原資として充当するという方策だ。
私の試算では、東京電力・柏崎刈羽原発を稼働率約90%で稼働させると、年間1兆円程度の利益増効果が見込まれる。政府や電力会社は、原発の高稼働率稼働に関する試算をしておくべきだ。