東芝の不適切会計問題について、取材を受ける機会が増えています。
今回問題となっているのは2008年度以降ですが、私は2007年に退職しており、また仕事も技術系でしたので、問題そのものよりも問題が起こる背景、いわゆる「上司に逆らえない企業文化」について良く聞かれます。
以前、ブログ 東芝にはサムライがいなくなったのか?にも書いたように、フラッシュメモリの開発に携わった経験からは、報道されているような、「上司に逆らえない企業文化」というのは非常に違和感を感じています。
画期的なイノベーションは最初は周囲が理解できないのが当たり前です。
周囲の反対を押し切ってでも進めるという当事者の馬力と、「そこまで言うなら仕方ないな」というある程度の周囲の理解(あきらめ?)がなければ、イノベーションなど生まれるはずがない。
フラッシュメモリにしても、今では東芝を支える稼ぎ頭ですが、事業単体では赤字の期間が長かったと思います。
それでも将来性を買ってもらえたからこそ、このような大きな事業に発展しました。
私の所属していたフラッシュメモリや半導体の部門では、個性的で自分の信念に基づいて研究開発を進める人が多く、「会社が認めないのならば外に出てやる」という雰囲気もありました。
現に転職者が多いため、私が東芝を辞めて大学に移ってからも、東芝OBの方たちに随分と助けて頂いています。
また、東芝に残った人たちとも、共同研究などで連携をしています。
これは社内にも、「社内だけでできることには限りがあるから外部リソースを活用しよう」とか、「いつか自分も転職するかもしれないから社外との関係を作っておこう」という「外向き」の意識がある人がそれなりに居るのだと思います。
そのようなどちらかという「マイペースで外向き」のカルチャーで育った自分からすると、今回の「上司にノーと言えない企業文化」というのは非常に違和感がありました。
ところが、メディアの取材を受けると、私の経験とは正反対の「内向き」の企業文化を指摘するOBも多いらしい、ということを記者さんに教えられました。特に、今回の不適切会計問題を起こした事業で。
改めて考えてみると、私が知っているのはフラッシュメモリの部門だけ。東芝のように単独で3万6千人ほど、連結で20万人も居て多種多様な事業を展開する企業は、いわば数多くの企業の連合体のようなものなのかもしれません。
企業文化にしても、全く違う部門が混在しているのが当たり前で、取材では「自分の知らない東芝」について、記者さんから教えられることも多いのです。
これだけ全く違う部門を束ねる経営者はどの部門の出身でも、自分が知っているのはごく一部だけになるでしょう。
社内に非常に多様な事業を抱えていて、どのように全体を経営するのか、ちょっと想像がつきません。
最後に、東芝を良く知る記者さんから良く聞くのは、今回の件で最も残念なのは、フラッシュメモリ事業を立ち上げた立役者も辞任することになったこと。
企業は人、人を育てるのは文化です。
フラッシュメモリ部門のアグレッシブな文化を創るのに貢献されてきた方がこのような形で去られるのは残念でなりません。
(2015年8月13日「竹内研究室の日記」より転載)